2008.11.12. 免疫系が使う武器とかいう書き方をしましたが、現実の免疫反応はそんな単純なものではありません。 シリーズの初めで、同じ分解酵素が見方によって消化酵素による消化に見えたり、自然免疫による病原体の無毒化に見えたり、意外と境界は曖昧という話をさせていただきました。 がん、ウィルス、バクテリア、その他の危険に対する防御反応は、どこまで免疫で、どこからが免疫ではないのか、やはり単純に線引きできるものではありません。 例えば、腕を怪我して病原菌が侵入した場合、まず出血します。出血により、菌を洗い流します。一通り、流し終わったら、ガチッと血が固まり、菌を封じ込めます。 膚皮に分泌される沢山の分解酵素群の話はさせていただきましたが、菌はウィルスほど、弱くはありません。それでも、細胞壁分解酵素の洗礼は受けます。 更に、自然免疫系のマクロファージや、その他、多数の血球類が、貪食作用により菌を細胞内に取り込み、消化してしまいます。この際、最初に反応した免疫細胞は、炎症系のシステムを作動させたり(菌も死にますが、正常細胞もダメージを受けてしまいます)、サイトカインなど、免疫刺激物質を放出して、ほかの免疫系システムや細胞群に動員を促します。右腕から危険な菌が侵入すれば、右の脇のリンパ管にリンパ球が集まり、やはり炎症反応を起こし、リンパ管を腫れ上がらせることで、物理的に腕から胴へ菌が侵入することを防ぎます。 またインターフェロンなどの作用により、熱を出すこともあります。下手に体を動かしたりしないように、全身や特に関節、筋肉をだるくし、意識が鈍くなるようにし、内臓に血液を集め、筋肉に痙攣を起こさせることで(微妙な震え)熱を発したりします。 菌によっては、300度Cでも平気で生きてたり、ガ胞菌のガ胞(胞子とか、菌の卵のようなもの)のように800度Cの炉の中でも死なないとか、例外はいくらでもいますが、人間に感染するものの多くは一般に、熱に弱く、増殖を抑制することができます。 或いは、ウィルスが気道上皮や鼻腔粘膜などに感染すると、粘膜から、ごく微量のインターフェロンが分泌されます。注射で使われる量の数百万分の1程度の微量です。これが、口腔内粘膜(要するに、お口の中の粘膜)に、ひっそりと紛れ込んでじっとしているマクロファージのレセプターを刺激します。するとマクロファージは、「ウィルス襲来!!!」と警報を発しながら、血液中へ移行し、免疫システムの発動を促します。 コレラ菌が増えるとどうなるのでしょうか。コレラ菌が毒で人を殺すのではありません。コレラ菌が危険だと判断した消化官が、必死にコレラ菌を流しだそうとして下痢をするのです。あまり下痢が激しいと、脱水症状で死んでしまいます。 第二次大戦中、南方で戦った日本軍の兵士の方が、沢山、コレラにかかりましたが、どうやって治療するかというと、塩を飲ませ、力ずくで肛門を押さえて、「脱水」を止めるのです。そんな治療法で実際、治った、という訳ではないようですが、なんとか脱水症を防止しなければ、という問題認識ははっきりとあったのです。 逆にウィルス性肝炎の場合、ウィルスが肝臓細胞を殺すのではありません。時間をかけてがん化させる、という作用はあるのですが、とりあえず肝炎については、ウィルス感染細胞と認識した免疫系が肝臓細胞を攻撃するので肝炎になってしまいます。 こうやって書いていくときりがないのですが、菌やウィルスという悪者を免疫がやっつけるんだ、という単純なのものではない、免疫なのかほかのシステムなのか、え!? じゃ、免疫が作動するから病気になるわけ?? とか、実態は、非常に複雑なのです。