2008.11.17. 昨日のは長過ぎた?と考え、途中でやめましたが、方々のHPに書かれた「NK細胞抵抗性」の誤りについて、追加説明しておきます。NK抵抗性というのは、NK細胞に余り殺されないタイプのがん細胞がもつ性質のことを言ってるのですが、これは、昨日書きました、大学の研究などで用いられるセルライン化されたものや、そもそも、培養に問題があって、十分活性化していないNK細胞を使った場合に見られる現象です。 さて、方々のHPに書いてある物語を思い出してみましょう。 「キラーT細胞は、がん細胞のMHCクラスIというレセプターにあるがん特異抗原を認識し、がん細胞を殺してしまう、がん細胞は殺されないように、MHCクラスIを細胞内にひっこめてしまう、すると今後は、MHCクラスIがない細胞をがん細胞だと認識するNK細胞に殺される」こういうお話がよく書いてあります。 がん特異抗原というのは、まだ一つも確認されたものはないのですが、もうあるんだ、と、決めてかかるのです。 実際には、人体から十分な母集団として採取され、十分に活性化されたNK細胞はMHCクラスIがあろうがなかろうが、がん細胞であれば何でも殺します。 さて、がん細胞を標的にCTL(標的を教えられたキラーT細胞をCTLと呼びます)をつくると、教えられた標的がん細胞と同じ性質のがん細胞であれば、殺していきます。 この時、CTLの標的に使われたのと同じ性質のがん細胞とANK療法で培養したNK細胞を一緒に培養すると、NK細胞はCTLより遥かに効率よく、がん細胞を殺します。つまりMHCクラスIをもってるがん細胞を殺したわけです。 がん細胞の中でも、MHCクラスI上に、がん拒絶抗原を強く提示する、つまり自分はがん細胞なんだと、強い自己主張する悪性黒色腫(メラノーマ)というがん細胞がいます。 メラノーマは認識しやすいので、T細胞を使ってがん治療の試験を行う際には、よく治療対象に選ばれます。 メラノーマの場合も、NK細胞の方がキラーT細胞より遥かに強い攻撃力を示します。 さて、キラーT細胞は、特定の抗原を認識するので特異的なんだ、NK細胞は、特定の抗原を認識する訳ではないので非特異的なんだ、という言い方をします。そして、「特異的」な反応は、「非特異的」な反応より優れているとか、高尚なんだ、という誤ったイメージがメディアの間に浸透しています。 この場合、T細胞が、特異的にがん細胞を殺す、というのは覚えた相手以外は、知りません、という態度を取るということです。 実際のがん細胞は、同じ腫瘍組織内であってもかなり異なる細胞の集団ですから、特異的な認識をしていたのでは、打ちもらす可能性が高いのです。 一方、NK細胞が非特異的にがん細胞を認識するというのは、がん細胞であればどんなものでも認識する、ということなので、オールマイティーだ、という意味です。 また、特異的か、非特異的かは、視点によって、なんとでもなってしまいます。 特異的な抗原を認識するかしないか、ではなく、「がん細胞」という対象を認識するかどうか、という視点にたてば、NK細胞は「がん細胞特異的な」認識を行うということになります。 特異的か非特異的かは、対象の範囲をどう絞るかによって、いくらでも表現が変わってしまうのです。また、そもそも、特異的とか非特異的ということに、どちらがいい悪いという絶対的な価値の差はないのです。