藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2008年12月01日

  

がん

2008.12.1.

昨日、LDLが低いとがんなどで早死にするが、高くても問題はない、
総コレステロールは高いほど長生きする、という国内最大規模の
疫学調査結果について、途中まで書かせていただきました。

コレステロールの話は、多分に「政治的」です。
また、がんとは、意外のところで密接につながっています。
それは、予算の配分です。

80年代に入ってから、米国も日本も、動脈硬化対策に、
予算を集中的に振り向け、その間、がんの分野は絞ったのです。
この傾向は、90年代に入っても続き、抗がん剤の新薬が
さっぱりでなくなる「不毛の10年」と業界が呼ぶ時期が
訪れます。 今は、全く逆です。
コレステロール関連よりも、とにかく、がん対策です。

かつて、CCC(カロリーコントロールカウンシル)という、食品や
食品素材のカロリーを決定する会議(米国で開催しますが、
日本の会員が結構、多いのです)で同席したFDA担当官
(アメリカの厚生労働省のようなものです)は、真剣に
チクロやサッカリンの大量使用を推奨すべきだと訴えていました。
これらの副作用よりも、太りすぎのアメリカ人が、動脈硬化などの
循環器障害によって被る健康被害の方が遥かに大きい、というのです。
これは担当官個人の意見ではなく、FDAの総意に近いものがありました。

食べ過ぎなければ済む話ではないか、と呆れて聞いてみましたが、
いや、食べるんだ、米国人は、と、全く話がかみ合いません。
お前の仕事は、米国人の生活習慣について説教することではなく、
日本や欧州からintensive sweetener(ほんの少しで
無茶苦茶、甘い物質、チクロの他、アスパルテームや
アセサルフェームKなど)や、bulking agent (砂糖と似た物性
をもち、砂糖に代用できて、カロリーが低く、甘みが近いもの)などを
供給することだ! と。  1ポンド(450グラム)のステーキを
朝から平らげて、食後に健康のためだといってダイエットコークを飲む
人達でしたから、つける薬はないと議論するのはやめました。

この米国から、お呼びがかかってEPAという健康食品が大量に
売れました。実質100億円、流通在庫もいれると、ピーク時
1000億のビジネスになりました。 こんなもの買わなくても、
お魚を食べればいいのに、と思いましたが、アメリカ人は、そんなに
魚を食わないんだ、と一蹴されました。

このEPA、訳あって、米国健食市場から突然、追い出される日がやって
きます。 入れ替わりに、颯爽と登場したのが、三共が開発していた
プラバスタチン、コレステロール合成阻害剤というこちらは医薬品でした。 
米国大手医薬品メーカ、それまでEPA最大の発売元になると考え
られていた会社とライセンス交渉をやっていたのですが、その相手が、
プラバスタチンを大々的に販売することになったのです。 
三共はそれまでのトップ商品の売上激減必至の状況(伝説の抗がん剤クレスチン)だったのですが、救われました。

さて、コレステロール合成阻害剤は、血中LDLを低下させ、HDLを上昇
させることを、「エビデンス」として認可を受けました。 新薬の製造承認
の根拠となる「エビデンス」の特徴は、まず単純化したモデルであり、
数値処理・統計処理可能で、短期間で結果が出る、これが必須要件です。
がん患者の10年生存率をエビデンスの基準にすると、当分、新薬は
世に出ません。 治験を始めるまでに10年とか15年かかるとして、
治験後の手続きも加えて30年勝負となってしまいます。
これは実用的ではありません、もっと短い期間で結果がでる
指標を選びます。  
コレステロールの場合、HDLは善、LDLは悪という基準を設定し、その上で、
エビデンスを取るわけです。 こうして認可はされたものの、結局、
動脈硬化を防げるのか、心筋梗塞で亡くなる方を減らせるのか、
実際の効果は長期使用してみないと分かりませんので、とりあえず
承認はされるものの、その後のトレース調査が義務付けられるのです。 

こうしてエビデンス有りということで、認可されたものの、実際に使って
みたら駄目だったと、消えていく医薬品は沢山あります。

HDLは善、LDLは悪とした根拠はあるにはあります。
遺伝的にHDLが高い家系は異常に健康で長生きだ、とか、
粥状動脈硬化層に溜まっているコレステロールは、LDL由来である、
とか、いくつも根拠はあります。 ですが、血管細胞も生き物です。
自分でコレステロールを合成しますし、また、LDLを取り込んで、
分解したコレステロールを使うこともあります。 
LDLを取り込んだ時には、自前のコレステロール
合成にブレーキがかかる仕組みをもっています。 
実際の制御は非常に複雑であり、単に、LDLが高い低いによって、
血管細胞中のコレステロールが直接、決定されるようなものでは
ありません。

今回、発表された疫学調査は、LDLが低過ぎる害を示していますが、
コレステロール合成阻害剤は、LDLが高すぎる人を標準値に戻すために
使われます。 今回の調査結果の直撃は受けないでしょう。
ですが、国民健康保険の財布の大きさに上限があるのです。
新しい薬を承認すると、古い薬を排除するか、薬価を下げないと、
システムが破綻してしまいます。 また、米国では、オバマ次期大統領が、
米国GDPの15.1%を占める、最大の産業、医薬品産業へ鉄槌を
下すと明言しております。 あちらは、国民皆保険ではありませんが、
米国でもそのようなシステムを創ろうと、選挙戦では公約していました。 
さしずめ、コレステロール合成阻害剤などは、市場規模が大きい上に、
LDLが高すぎる弊害や、LDLを下げる意義が明確ではない、となると、
鉄槌を下される格好のターゲットなるかもしれません。

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