2008.12.15.
マイケルクライトン原作「ジュラシックパーク」という映画は
観られた方も多いと思います。
かなりマニアックに過ぎるこのブログにやっと、メジャーな
話題が登場かというと、そういう訳ではありません。
申し訳ございません。
あの映画をみながら、なんで「ジュラ紀のパーク」に
白亜紀の恐竜が走り回っているのだろうか? と疑問を
持ちながらも、周囲の人にとって、そんなことは全く、
どうでもいいことであることは分かっている、そういう人間であります。
マイケルクライトンは、医療とかバイオ分野の著作が多いですが、
よく調べていますねえ。 例えば、NEXT という本が文庫本でも
出てますが、物語としても面白いので、たまに人に勧めることがあります。
内容は、一見、「常識的にあり得ない」、「とんでも話」なのですが。
実際に米国のバイオビジネスに関わった者にとっては、とてもリアルなのです。
どうしてここまで書けるのでしょう、、、 書けるから一流作家なのですが。
実は、殆ど実際にあった話を元にしていて、出てくる人物、企業、動物などの
固有名詞も実名に近いのです。 米国という国が、如何に日本の
常識が通用しない、「とんでも国」であるということがよく分かる本です。
この本に出てくる、「細胞」を巡る話が、日本でも起こったら、
免疫細胞療法はやってられないでしょう。
米国で免疫細胞療法が普及しない本当の理由の一つ、
狂気の世界を垣間見ることができます。
さて、ジュラシックパークの中で、
「生命は途をみつける」
という台詞があります。
映画の中で、恐竜が勝手に繁殖しないように、
遺伝子に操作をしてコントロールしようとします。
また全部メスなので卵を産めないはずと
思い込むのですが、恐竜は、自然繁殖の途を
みつけてしまいます。 (遺伝子治療において
実際に起こった事故を彷彿とさせる設定、、、)
ファクターエイトをはじめ、思い通りに生産できない
細胞培養や組織培養でつくる医薬品の場合も、
やたらと細胞をいじりまわしてコントロールしようと
するのです。 ところが操作を加えれば加えるほど、
細胞は弱くなり、また予測不能な挙動を
示すようになります。
細胞培養の基本は、
「余計なことをしない」
です。
もちろん、日頃は作らないファクターエイトを、
無理矢理、大量につくらせるには、最低限の操作は必要です。
ファクターエイトの遺伝子は、入れない訳にはいきません。
まず、この段階で、相当の負荷が細胞にかかるでしょう。
あと何をすればいいのでしょうか。
温度とか、pHとか、環境を整えるのは当然です。
また、増殖させるには刺激も必要です。
そして、何より、必要な「エサ」を与えればいいのです。
細胞は生命体なんですから、生きているんですから、
技術をこねくり回して、いじるよりも、どうしても与えないと
駄目なものだけ与えて、後は、自分でなんとかさせるのです。
特定の糖蛋白質を大量につくらせるのですから、
材料を与えればいい、非常に単純な発想です。
蛋白質部分は、材料となるアミノ酸を十分、与えています。
糖については、ブドウ糖を加えますが、理論上、
ブドウ糖を異性化するというのですが、細胞内で、
ブドウ糖の構造を少し変えることで、
糖鎖を構成するのに必要な糖は全てつくられます。
ところが、ブドウ糖の濃度を上げてしまうと、
グルコースエフェクトと言う、抑制作用が働き、
活動が鈍る遺伝子が数多く知られています。
これは単細胞時代からの名残なのかもしれませんが、
バクテリアなどでは、ブドウ糖濃度が高いと、
エサが豊富と判断するのか、
余計なことをせずに増殖するモードに入ります。
エサがなくなってくると、生き残りのためとか、
いろいろ複雑なことを始めますので、多くの
遺伝子にスイッチが入ります。
ちなみに、細胞にとって、増殖モードと、他のモード、
例えばNK細胞にとっての戦闘モードとは、互いに
矛盾する傾向があります。
増殖するモードの時と、他のモードの時では、
細胞内の微小構造体の配置も変わるのです。
普通に、数を増やせ、がん細胞も殺せ、というのでは、
細胞にしてみれば、どっちかにしてよ!
という気持ちになるのです。
多細胞生物の細胞増殖のコントールは
単細胞生物よりも遥かに複雑ですが、
グルコースエフェクトは、やっぱり働きます。
そこで、ブドウ糖濃度は抑え目に、
糖鎖の構成成分で圧倒的に多い
D-Mannnose を最初から培地に加えておけば、
細胞に余計な負荷をかけなくて済む、
と考えたわけです。 他にも、何種類かの
糖が使われますが、それぞれの比率は少ないので、
メジャーなものを一つ大量に与えれば、あとは
自分で合成するでしょう。
醗酵工業においても、ブドウ糖を与えないと菌が増殖しないけど、
ブドウ糖濃度を上げると、肝心の生産物を作らなくなるという
現象はよく発生します。 そこで、ブドウ糖以外の物質で、
必要なときに必要な量だけブドウ糖に変わるものが、
培地成分原料として、よく売れました。
ANKに出会うまでは、まだまだ道のりが遠いのですが、こうした
特定の経験 → 仮説 → 他のケースで実際、やってみた
→ 想定通りの結果になった → 仮説は妥当だったのだろう
というプロセスを繰り返しながら、普遍的な原理原則を
探求してきたのです。
それからいうと、ANK療法は、元々体の中にあるNK細胞を
余計な「技術いじり」をせずに、かといって必要な刺激は与え、
本来のパワーを最大限、引き出す方法ですので、これなら、
筋がいい、と判断したのです。 途中に、過度な操作を
細胞に加え過ぎると、特に、遺伝子操作をやってしまうと、何が
起こるかわからなくなるリスクが増えてしまいます。