2009.1.28.
フレミングが、ペニシリンを発見し、抗生物質が本格的に
実用化されたことは、よく知られています。
寒天培地をシャーレに撒き、菌を生やして、
菌を殺す「何か」を探す。地道な探索が続けられました。
菌が生えていると、白く濁り、菌が殺されたところは
透明になるので、目で見て、菌を殺す「何か」が、
いることが分かるのです。
この研究、なかなかうまくいかず、予算を使い切り、
もう駄目だ、今回だめなら諦めるしかない、研究も
最後の時を迎えていました。 実験室も、オンボロで、
隙間風が入ってきます。 これが幸いし、隙間風に
のって実験室に入ってきたカビの一種の胞子が、
シャーレに落下し、プラーク(菌が死んで、円か
楕円状に透明になるところ)ができていました。
さて、菌を殺すものは見つかったのですが、
安全性の試験をする必要があります。
菌も死ぬけど、人間も死ぬ、これでは意味がありません。
当時、実験にはモルモットを使っていました。
実験台にされることを、モルモットにされる、と言うのは、
かつて、モルモットが実験動物の標準種だったことに
由来します。
ところが、フレミングには、モルモットを買うお金がなかったのです。
ううん、しょうがない、ま、似たような動物なら、この際、なんでも、、、
ウサギを使うことにしました。
これなら、低予算でなんとかなる。
安全性も「確認」され、世紀の大発見と言われたペニシリンの登場です。
戦場に送る兵士の感染症を治療する薬として、
英連邦軍に重宝されます。
日本には、第二次大戦初期に、プラントや技術がもたらされました。
帝国陸軍が、ペニシリン醗酵装置を二台、接収したのです。
これはなんだろう、ということになったのですが、ミルクの醗酵製品を
作るプラントと似ているから、と、森永と明治にお鉢が廻り、
両社は戦後も抗生物質の代表的メーカーとして君臨、
森永の方はプラントの爆発事故を起こし、撤退しましたが、
明治製菓(明治乳業と経営統合予定)は、
今も、古いタイプの抗生物質の老舗メーカーです。
さて、フレミングのペニシリン開発成功後に分かったことがあります。
ウサギは、ペニシリンに感受性が低いのですが、モルモットは、異常に
感受性が高く、僅かの投与量で死んでしまうのです。
もし、フレミングに予算が残っており、けちらずにモルモットを使っていたら、
ペニシリンは、毒性が強過ぎると判断され、実用化されなかったかもしれません。
全く同じ物質が、ある動物には猛毒で、
ある動物にとっては、何の刺激にもならない、
種によって薬剤に対する反応がまるで異なる
ことが、次々に判明していきました。
(実際には、個人差や年齢差、とにかく、
「差」があるのです。 標準的な統計データを、
全ての人に当てはめるのは危険なのです)
動物実験をやったところで、人間に使用した場合の
安全性(有効性もですが)を検証したことにはならないのです。
だから、医薬品開発を経験した人は、
動物実験のデータなど、
ろくに見もしない、のです。