2009.9.23.
免疫細胞療法を実施するにあたり、
細胞培養センターは、大勢の人、それも
病気をもった方が集まる大病院よりも、
培養技術員以外は近づかない隔離された
場所に設置する方が好ましい、前回、
そう書かせていただきました。
細胞培養の手技は、医師が患者さんを治療するのと
根本的に異なります。 病院内に培養センターを設置して、
何かあったら、お医者さんがすぐに「細胞」の治療をしてくれるから
安心、そういうことにはなりません。 医師に要求される能力と
細胞を培養するのに要求される技術とは、全く別物です。
感染防止についても、医師だったら特別なにかできる、
ということはないのです。 人がいれば、膨大な量と種類の
微生物やウイルスが必ず存在し、たまたま、感染し易い状態の
人と、感染を起こし易い状態の病原体をもった人(弱った人に
とっては恐ろしい病原体をもっている当の本人は意外と
体の中に病原体がいても平気だったりもします)、両者が
会ってしまえば、感染は成立します。
疫病対策においても、薬やワクチンで何とかなることはありません。
基本は、「隔離」です。 大流行が発生する時は、戦災や大不況、
必ず、何か社会的な混乱が背景にありますが、人々の免疫が全体的に
低下している状況下で、強い病原体をもった人が行動している限り、
必ず、疫病は拡散します。 病院というのは、小さな「疫病が起こりやすい」
社会環境、にあるのです。
さて、細胞培養センターを、病院や、最低限、臨床区画や人が集まる
エリアから分離したとすると、今度は、「細胞を運ぶ」必要が生じます。
細胞を運んで大丈夫なのか?
過去、散々、議論されました。
安全性は? 細胞の能力低下は? 法的に大丈夫なの?
(旧)国立の大病院は、細胞を運ぶことはNGでしたし、今でも
抵抗するところが多いです。 実は、根拠はありません。
厚生労働省も、免疫細胞療法を目的として、患者本人の細胞を
運ぶのは「流通」には該当しない、という考え方です。
流通とみなされると、これは医薬品として、薬事法の規制下という
ことになります。 製剤原料として血液を運ぶとなると、これはまた
血液に特化した別の法規制に触れますが、免疫細胞療法では、
血液製剤をつくるのではありませんので、この法律も関係ありません。
かつては、血液の輸送は、非常に神経質に扱われていましたが、
今では、治験の際に、血液や組織標本を運ぶのに
専門のバイク便業者も存在するほどです。
安全性や、細胞の「持ち具合」はどうでしょう。
血液や、血液由来の細胞だから危険、周囲の人に感染するかもしれない、、、
ま、その可能性ゼロとはいいませんが、世の中、「人」が沢山、歩き、
走り回っているのです。人の体には、血液もたっぷり入っています。
この状況で、密閉容器に封印された血液や、血液由来の細胞が
運ばれた、としても、大勢に影響はありません。 もちろん、丈夫な容器に
入れて、更に何重にも保護します。 衝撃で壊れないように、ということも
ありますが、温度の問題もあります。
特に、リンパ球だけを分離濃縮した場合、速やかに運ばないと
細胞がへばってしまいます。 血液のまま送る場合と比べれば、
細胞の濃度が桁違いに高いのです。 一方、培養された細胞は
とても丈夫です。 培養前の、患者さんの体内から取り出したばかりの
免疫細胞は、実は、ヘトヘトで、くたばっています。
がん細胞に眠らされ、放射線や化学療法剤で痛めつけられているので、
それはもう、悲惨な状態です。 細胞培養によって元気になったら、
少々、何をしようが大丈夫なほど、逞しくなります。