所謂、混合診療裁判第二審において、東京地裁は、原告のがん患者さん(清郷さん)の主張を全面的に退け、混合診療規制には法的根拠あり、とする国側の主張を認める判決を下しました。日経新聞以下、主要各紙は、概ね、古い時代への逆行、患者さんの声は届かない、という論調を発表していますが、各紙それぞれ微妙な温度差があります。
清郷さんは、腎臓がんを患われ、神奈川がんセンターで健康保険適用となるインターフェロン療法を受けられますが、完治には至りません。そこで同センターで、免疫細胞療法の最も初期型の一つである、日本版LAK療法を受けられます。(これは、米国オリジナルのLAK療法や、ANK療法とは全く別物ではありますが、基本の形は同じです。 つまり、強い免疫抑制状態にある患者本人の免疫細胞を一旦、体外に取り出し、免疫抑制の影響を受け難い状態で、免疫刺激を加えて、それから再び体内に戻す、というものです。)
さて、清郷さんは、健康保険適用となる治療と、自由診療として普及している免疫細胞療法の一種を両方、受診するのが混合診療に該当するとされ、健康保険負担分の自己負担を要求された上、LAK療法を継続して受診できなくなってしまいます。
清郷さんの主張は、非常にシンプルです。
患者は、生きる途を求める
日本国の国民であれば、何人も健康保険の適用を受ける権利があります。
自由診療もまた、受ける、受けないは、全く自由です。
何故、両方を受けてはいけない、と、国が規制をするのか。
これは、生存権の侵害であり、憲法第24条基本的人権の尊重を犯すものです。
法的な議論としては、国民の権利を制限するのであれば、
正式に、混合診療に関する議論を国会で行い、その上で、
明確に混合診療に適用される立法措置を取るべきである、
それを立法府である国会での審議も経ずして、既存法規の
解釈論を基に、行政裁量で規制を実施するのは行政の横暴である、
そういう議論もあります。
裁判ですから、当然、法的な問題を議論するわけですが、
患者さんとしては、生きる可能性を求めるのは当然です。
何故、それを邪魔されなければいけないのでしょうか。
東京地裁の判決理由の中に、国民健康保険の運用にあたっては、予算措置が必要であり、(青天井の予算は組めないのだから、)適用に制限を設けるのは当然である、つまり、何人でも健康保険の適用を受けられるといっても、予算に限りがあるので、こういう場合は、適用できませんよ、と、国が制限を設けるのは当たり前なのである、とこういう理屈です。
「全ての国民が平等に医療を受けられる」と言っても、予算内でという注釈付きなのですよ、と、言ってるわけです。もちろん、無制限にお金を使うことはできません。それは当然ですが、国民健康保険が、全ての医療需要を満たせないのであれば、費用自己負担による自由診療を認めるのも、やはり当然のことであり、実際、自由診療は認められているのです。
問題は、保険診療と自由診療を一緒に受けてはいけない、これが一般常識人には理解できない点です。 私どもも、よく患者さんから、「何故いけないのですか? ちゃんと分かるように説明してください!」と詰問されるのですが、「ううん、、、 私たちに言われても、、、、 たしかに理屈はさっぱり分かりませんよね、、、 」 としか申し上げられません。
「混合診療を認めると、お金をもっている人だけが医療を受けられることになる」よく言われるフレーズです。現実は、国民健康保険でさえ、お金がないため受診できない人もいらっしゃるのです。無料ではありませんから。国民健康保険が使えれば、誰でも医療を受けられる、のではありません。また、混合診療規制が存在するために、お金が足りなくて、医師が推薦した治療を満足に受けられない人が私たちの廻りにも沢山いらっしゃいます。自由診療は高額といいますが、がんの標準治療の治療費用は、一概には申し上げられないとしても、例えば、ある大学の調査によりますと、大腸がんの患者さんに標準治療を施し、3年以内に全員が亡くなられるまで、平均2000万円を越えたとしています。標準治療というのは、免疫細胞療法の相場に比べて、意外と高価なものなのです。医療上の判断として、免疫細胞療法と標準治療を組み合わせた方がいい、とされても、混合診療規制により、標準治療まで自由診療扱いで費用負担すれば、免疫細胞療法のコストを上回る出費を要求されることもあるのです。
心臓疾患や脳の病気で命を落とされる方は激減しました。ところが、悪性新生物(いわゆる「がん」)による死亡率は上昇を続け、今では、断トツトップの死亡原因となってしまいました。国民健康保険が適用になる治療法だけでは、再発や遠隔転移には対応できず、「貴方にはもう治療法はありません」と宣告され、「がん難民」となってから、慌てて、自由診療を探す、私たちに連絡をしてこられる患者さんのご家族は、こういう方が多いのです。
がんは、現在、最も克服困難な病気となってしまいました。
患者さんは、あくまで生きる途を探り、保険診療であれ、自由診療であれ、医師は最適と考える治療法の組み合わせ、集学的な治療を提案し、少しでも生存確率を上げるよう努力します。
そこに立ちはだかる分厚い壁が、混合診療規制です。