藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2010年09月21日

  

えとせとら

2010.9.21.
 
 
上場して間もないベンチャー企業FOI(エフオーアイ)社の
社長が逮捕されました。 売上の架空計上による不正経理
ということですが、実態は3億しかない売上を100億以上に
膨らませた、ということで、相当悪質とされています。
 
このブログ、常識とされていることに、とんでもない裏があり、
ひっくり返して真実を明らかにするという趣旨でやっております。
とはいえ、FOIの不正経理自体は、どうひっくり返しても無茶苦茶です。
 
一般に架空利益を計上すると、税金も払うわけです。
上場してない町の中小企業だったら、
普通は、利益を隠すものです。
FOIの場合は、思ったように製品が売れず、株主の圧力も強い中、
無理矢理、上場して格好をつけようとしたわけです。
ところが誤魔化された決算数字を見て、株式を売買する人や
法人が沢山いるわけですから、市場の秩序を乱した
「相当悪質」とされています。
 
 
やったことは救いがないとして、この会社、技術自体はホンモノです。
そして、優れた技術を持ちながら、大企業がつくりあげた業界の壁に
跳ね返される典型的なベンチャー企業の悲哀を味わった会社でもあります。
 
元々、大企業の半導体事業部がスピンアウトしてつくられたベンチャー企業で
ベンチャーといっても、40億円もの開発費をかけて培われた基礎技術が土台にあります。
実際、世界の半導体産業にとって、ネックとなっている問題をクリアできる
ことを示すまでは成功しています。
 
 
むしろ、日本発の世界を代表するハイテクベンチャー企業と期待された星
だっただけに、今回の不正経理は、余りにも期待との落差が大きく、
ハイテクベンチャー業界では、非常に大きな落胆と、そして、「儲け損ねた失望」が
広がっています。 この事件を直接の打撃として、廃業するベンチャーキャピタルも
出てくるでしょう。
 
 
何をする技術なのか細かくは説明しませんが、簡単にいうと、
「穴掘り」装置です。 半導体シリコンウェハーの上に、回路パターンを
描いていくのですが、最初は、光で固まる樹脂を塗り、
写真フィルムに書かれた回路パターンを、レーザー光を使って、樹脂の上に
焼付けます。 光が当らなかった樹脂は洗い流され、一方、樹脂が
固まったところは、保護されているわけです。 この状態で、
エッチング液にチャポンと漬けると、樹脂で保護されていない部分は
溶け出し、「掘られて」いくのです。
 
ところが、掘る部分が集中したり、複雑な形をしていたりすると
エッチング液が部分的に弱まり、うまく掘れないところが出てきます。
程よく液を循環させると、今度は、急流ができて掘りすぎるところも
出てきます。 堀り方が浅くてU字谷になったり、逆に掘り方が激し過ぎると
土手の側壁がえぐれたり、と、理想通りにいきません。
二次元の樹脂のパターンを頼りに、エッチング液で三次元的に綺麗に掘る
というのは、原理からして無理があります。
 
ならばと登場したのがプラズマエッチングです。
プラズマとは、大怪獣ガメラが口から吐く火の玉と同じものです。
まったく、科学的な説明になってませんが、、、
 
原子までバラバラになっているので、衝突したところにどんな
物質があろうと、お構いないしに、ぶっ飛ばします。
これをビーム状にぶつけると、保護膜があるところはそのまんま残り
ないところは、スパッと一定の深さで四角く、掘ることができます。
 
そうはいっても、高エネルギービームを一定の出力で安定して照射するのは
難しく、そこを何とか制御できる世界最高峰のプラズマエッチング技術を
確立したのがFOI社です。
 
でも営業は今一でした。
一流半導体メーカーのキーパーソンには食い込めず
マーケッティングは迷走します。
 
富士通が買ってくれたのはいいのですが、なかなかお金を
払ってくれません。 日本の大企業によくある一般的な傾向として、
ベンチャーから装置を買っても、簡単には金を払いません。
一台、まず、無償でもってこい、そしたら、わが一流大メーカーが
使ってやるぞ、どうだ、嬉しいだろう、、、 という態度です。
私、実は、事業経験で言うと、半導体や精密駆動装置など
ハイテク製造業が多いのです。 とにかく、大手メーカーに
装置や部品を売る際には、資金回収に苦労させられました。
FOIのケースも、富士通側の言い分を直接は聞いてませんが
FOI側の苦労話はよく聞かされていました。
 
では、サムソンやインテルは支払いがいいのか、というと、
いいんです。 納入したあとから、ウダウダ、言いません。
ところが、日本のメーカーにいじめられて、お金は回収できなくても
装置の安定性など、使い勝手がよくなってくると、それから初めて
買ってくれるのです。 買うと決まったら、支払はいいのですが、
完成度が高くないと、買ってくれないのです。
日本のメーカは、金払いは悪いのですが、こうしろ、ああしろ、と
文句を言ってきます。 その文句を聞くことで、装置の
信頼性があがっていくのです。 どこが問題なのか、細かく
教えてくれるわけです。
たまに凄い性能はでるんだけど、24時間、365日、安定して
一定の性能を出し続け、故障はせず、扱いは簡単、そして
何台つくっても、一定の性能が出る、、、こうなると
ベンチャーの製品は、問題続出となるのが常です。
インテルにいたっては、とことん完成度が高くなった装置を、
決まった日に、世界各地の工場に一斉に納入しろ、
「マーチング・オーダー」方式というのですが、如何にも
米軍流のやり方をしてきます。
 
結局、FOIは、2年以上、納入した装置のお金を払ってもらえず、
延々と上場は延期され続け、資金繰りに困っては、大規模な
ファイナンスを続けたのです。 日本のベンチャー企業は
3億も集めれば立派なものですが、この会社、40億円とか、
一回のファイナンスをそういう規模でやりとげました。
それだけ、希望の星だったのです。
 
ところが、量産時の品質安定の問題を抱えたまま、
ブランド確立に失敗し、中国市場に安易に流れます。
半導体市場は、ライバルメーカー同士が頻繁に話し合い
技術情報を交換し合って、学会といっても、業界企業の
技術者の集まりです。 ライバルを出し抜きたい気持ちは
あっても、一方でライバル以外の新規参入は排除したい
意向も働きます。そして、日頃、同じ問題に直面している
競合同士は、よく相談しあうわけです。 そして、プラズマエッチングを
標準方式とするのであれば、業界各社が採用し、標準と
ならなければ、一流どころは、どこも本格採用はしません。
かくして、FOIは、折角の技術を活かすことができず、
市場の中での地位を築けなかったのです。
 
 
がん治療の世界でも、標準治療がはばを効かせてきました。
進行がんの患者さんを救うことができないにもかかわらず、です。
ひとたび、標準となれば、そう簡単にひっくり返りません。
免疫が大事、という認識がやっと広まってきはじめましたが、
今度は、T細胞や樹状細胞など、がん退治とはあまり関係ないものが
「免疫の主役」だと勘違いされています。 
 
リンパ球バンクとて、技術があっても、ブランド化に成功しないと
FOIが舐めたのと同じ辛酸を味あうことになります。

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