2011.4.18.
フランス財閥の医薬部門サノフィアベンティス社が
1兆7千億円で、米国バイオベンチャー、
ジェンザイム社を買収しました。
同業他社と呼ぶには、あまりにも「サイズ」が違いますが、
一応、「同じ」バイオベンチャーであるリンパ球バンクが
2001年創業で、時価総額が、やっと7億円。
それに対して、今回の買収で、サノフィが1981年創業の
ジェンザイム社の株式を買い取るのに支払ったのが、
1兆7千億円。
かなり差があります。
これでも、抗体医薬品のパイオニアである
ジェネンテック社や、アムジェン社よりは
随分と安いです。
ちなみに、1992年創業、昨年IPOした
デンドレオン社の時価総額は、4000億円でした。
この会社、デンドリックセル、つまり樹状細胞を
用いる医療技術を事業化するために創業され、
社名も、それらしきものになっています。
延々、18年間、樹状細胞をがん患者さんに
投与?する治験を繰り返しながら、
さっぱり治療効果を確認できずに
迷走していましたが、遂に、効果を示す
治験を一本、成功させ、米国政府の承認をとりつけます。
結局、高純度の樹状細胞に見切りをつけ、樹状細胞、
T細胞、NK細胞が、十数パーセントずつ、更に
それ以外の細胞群れが混在する
なった細胞集団を用いることで、
辛うじて、4ケ月の延命効果を示すことに成功します。
ここまで、開発費用1000億円なり。
4ケ月の延命というのは、一般の抗がん剤より
成績がいいわけですが、活性、数量とも不十分ながら
NK細胞が多少なりとも効いているのかもしれません。
新入社員の時、アンリ? ヘンリーだったか、発音までは
覚えていませんが、バイオベンチャーを創業したので
投資をしてほしい、この3人で、創業したんだ、
という人たちが、オフィスを訪ねてこられました。
誰が誰だったか、記憶はウロいですが、一人は
MITの教授でした。 正直、あまり印象はなく
後から、えっ?! あの会社がこうなったの!!!
と驚いた次第なので、最初のミーティングのことは
正確に覚えてはいません、、、
当時、勤務していた会社は、マサチューセッツ工科大学、
MITに毎年、巨額の寄付をしていたので、
「お礼」も兼ねてこられたそうなのですが
寄付をもらって、かつお礼に投資の機会を与えてくださりに
こられた、ということだったのです。
当時の社内には、MITマフィアと言うのですが、MIT出身の
人も多く、私自身が、一番よく仕事を組んだのもMIT出身の
ドクターでした。 そのため、MITの○○教授の話を
断るのか! と、怒られてしまいました。
結局、投資はしなかったのですが、
その当時のプレゼンは、なんでこんな会社が? という内容でした。
技術的な裏付けは、ほぼゼロ。
MITの人脈以外、これといって、何も見当たらないのです。
その後、何度も接触する機会はありましたが、最後に
ボストンの本社を訪問したのが
2005年頃だったでしょうか。
このブログで、以前「7人の男の遺伝子をもつ女性」という
出生前胎児診断の話を書かせていただきましたが、
その関連の仕事で、主要部門の一つを訪問したのです。
ジェンザイム・ダイアグノスティック部門。
母親のおなかの中にいる胎児の染色体異常を
調べる「検査サービス業」を世界規模で展開していました。
世界規模といっても、需要は、白人に集中しています。
白人は遺伝子が純系なので、異常に遺伝病がおおく
検査需要も強いからです。
日本人の遺伝病の名前を10種類も数えられる人はまずいないでしょう。
白人の代表的な遺伝病は、5500種類あります。
もっとも染色体異常は、遺伝子の異変そのものではなく、
あくまで、21番染色体が、父母からきた2本の対ではなく
3本もある(トリソミーといいます)のを調べるのです。
21番トリソミーは、ダウン症になります。
13番、18番のトリソミーも障害を起こしますが、
こちらは、大抵、流産してしまいます。
トリソミーは両親の遺伝子にかかわらず、すべての胎児に、
ある確率で発生しえるものです。
なので、ダウン症は、遺伝病ではありません。
ですが、将来の、出生前遺伝子診断市場の創出を見越して、
先行して、染色体診断を事業化したのです。
白人の新生児のうち、年間510万人がこの検査を
受け、市場規模は、6500億円を超え、
ジェンザイム・ダイアグノスティック社が
ダントツシェアを誇っていました。
最近の数字は知りませんが、
その後、市場はさらに拡大しているはずです。
MITの有名教授が、紙切れを何枚か持ち歩いて
資金集めをしていたペーパーカンパニーの
一事業部門が、従業員5000人、売上5000億円に
成長していたのです。
(ジェンザイムグループ全体では、1万人の従業員がいます)
MITマフィアの話は正しかったのです。
特別な技術なんかなくても、
実態は、紙切れ会社であってもなんでも
とにかく資金を集め、上場させ、
そして、次々に実態のある企業を
買収し、いつの間にやら、時価総額
1兆7千億円の巨大企業に成長したのです。