2011.10.16.
スペインでエイズワクチンが凄い成績を
あげている、とネット上で話題になっています。
エイズワクチンというのは、巨大プロジェクトが
いくつもつくられ、徹底して開発努力が重ねられて
きたのですが、いくらやってもうまくいきません。
なぜ、うまくいかないのか。
今回は、今まで、とこがちがうのか。
まず、ワクチンの常識として
ウイルス感染を防ぐには、
液性免疫だけでは今一で
細胞性免疫を励起する必要があります。
つまり、抗体を誘導しても、今ひとつ
感染防止効果は期待できず、
それよりも、キラー細胞の誘導が
重要です。
NK細胞もウイルス感染細胞を攻撃しますが
主役は、T細胞、それも細胞傷害活性をもつCTLです。
フリーのウイルスを排除する仕組みはいくつもあります。
ところが、細胞の中に入り込んだウイルスは、感染細胞に
アポトーシスを誘導し、中身が飛び散らないように、
縮んでもらって、シワシワから、更に、小さな泡の塊に
なってもらい、これを貪食細胞が食べて無力化する
こういうプロセスが必要です。
単純に、エイズウイルスの構成たんぱく質やペプチドを
注射しても、アミノ酸や糖類に分解され、それで終わりです。
ペプチドワクチンというのは、体内では非常に不安定で
たちどころに、分解されてしまいます。
そこで、強力なアジュバント、自然免役を刺激する
物質を加えて、かつペプチドがしばらく体内で分解を
受けないよう、何かに包んで保護するとか、免役細胞が
取り込み易い物質に封入するといった工夫が必要です。
こうした工夫をすれば、抗体を誘導することはやれます。
ところが、無理矢理、異物を投与して誘導した抗体は
通常、中和抗体であって、これでは、ウイルスを排除する
ことはできず、単純に、結合しているだけです。
しかも、細胞は、抗原と抗体が結合した抗原抗体複合体を
取り込む習性があるので、何のことはない、細胞がエイズウイルスを
取り込んでしまうのです。 これでは、何のためのワクチンか
分かりません。
また、どんなに工夫をしても、効果を長期間、持続させることは
難しいのです。
やはり、細胞性免疫を誘導し、かつ、効果を長期間持続させるには
何といっても、生ワクチン、つまり、毒性を弱めた弱毒株を
実際に感染させる方法で、麻疹の生ワクチンは、十数年、
感染防止効果を持続します。
そして、一番、成功したワクチンとしては、ワクチニアウイルスを
用いるものです。 このウイルス、やたら巨大なゲノムをもち、
大量のヒトの免疫系を制御する遺伝子をもっています。
自然界には存在せず、150年前に突然、出現した謎の巨大ウイルスです。
このウイルスは、一度、感染すると、生涯、体内に存在し続けます。
すると、天然痘を発症する痘瘡ウイルスは感染しない、つまり
天然痘の感染を予防できるわけです。
このウイルスのゲノムは巨大なので、他のウイルスの遺伝子を
つなぎ、人体に感染させると、生涯、体内で活動を持続し、
くっつけた別のウイルス遺伝子を認識する免疫を持続できるのでは、
こういう考え方が昔からあります。
フランスのバイオベンチャー、トランスジーン社が
ワクチニアウイルスをアジュバントとする生ワクチンを
次々と開発し、日本にも、その技術を売り込んできました。
当時の勤務先企業ではなく、三井物産という会社が
代理権をもっていましたので、ふううん、と、横から
見ていただけですが、確かに、ワクチンを開発するなら
この手法はいけるのかも、と考えていました。
生ワクチンは、何といっても、感染防止効果は強い。
不活化ワクチンは今一、ペプチドワクチンで、まともに
承認までこぎつけたものはありません。
感染体の一部ではなく、丸ごと、投与しないと
十分な免疫応答は得られない。
ところが、エイズの生ワクチンをうつ人はいないでしょう。
今回、スペインで開発されている、というのは、
このワクチニアウイルスに、エイズウイルスの
複数の遺伝子をつないだものです。
一つの抗原物質では、十分な免疫応答は得られない、
これも、ある種の常識ですが、このワクチンでは、
ウイルス遺伝子をいくつも用いることで、複合的に
エイズウイルスを認識させようということです。
どうやら、細胞性免疫も誘導しているようで、
今までのワクチンより、かなり前進しているのかもしれません。
ただし、有効性の確認は大変ですね、、、、
エイズは、感染確率は低いので、かなり大規模な
試験を行わないと、本当に感染を防止したかどうか
検証ができません。確実に感染しそうな状況で
試験する、それは現実的ではないでしょう。
この開発、どう進めるのか、知恵が求められます。