2012.2.13.
東大の中村祐介教授が
NHKのTV番組の中で
がん治療としての
ペプチドワクチンの
話をされたようで
なぜか、私どもにも
お問い合わせが多数
寄せられています。
やはり、NHKで東大の先生が
話した、するとこれは本当に
凄いのかもしれない、そう
思う人は大勢いらっしゃるでしょう。
特に、末期進行がん患者やその
ご家族となると、何でもいい、
何かないのか、と必死に
治療法を探されているので
どこまで信じる信じないは
別にして、とにかく当たってみよう
そういうお気持ちになるものでしょう。
私どもにも、おそらく
TVを観られたであろう方々から、
ペプチドワクチンと
ANK免疫細胞療法と
どう違うのか、と
よく質問されます。
こういう時、複雑な心境になるのですが
本当のことをそのまま 言ってしまうと、
「ネコと調味料ほど違う」のです。
そのまま、モロ言うのかどうか
いつも逡巡はします。
ネコはネズミを捕りますが(野生であれば)
調味料は、ネズミの栄養になります。
それ位の違いがあるのですが、
「ワクチン」という言葉には馴染があり
そこへNHK + 東大教授 ですから
きっと何か凄い! のかもしれないと
信じたい方々に、にべもなく、あれは
調味料のようなもんです、と言い放つ
訳にもいかないのです。
がっかりされるかもしれませんから。
それより、うちは、うちで、ANKというのは
こういうもので、と、自分たちが関係している
ものを説明し、ペプチドワクチンについては、
やってるところへきいてください、と、答える
のが筋です。
そうなんですが、筋がどうであれ、
患者さんや、ご家族の方は、とにかく知ってそうな
人に聞きたいのです。
ましてや、「どう違うのか」という
質問は、両方を知っていないと、答えられないのです。
ペプチドワクチンというのは、昔からよく
知られています。 特に、欧米では、
がんに限らず、あらゆる分野で、よく臨床試験が
行われてきました。
簡単にやれるからです。
ペプチドワクチンの最大の利点は
手軽で、コストが安いことです。
特別な技術は必要ありません。
一方、免疫細胞療法も各地で行われてはいますが
ANKは独自のもので、似ているものは世界中
どこにもありません。 似て非なるものは
いくらでもありますが、中身は、まるで違います。
つまり、ANKを語れるのは、我々しかできないので
両方をよく知っていて比較できるのは、うちしかいないのです。
(NK細胞の研究そのものは、世界各地で行われています。)
ペプチドというのは、アミノ酸がいくつか
つながったものをいい、体内に投与されると
たちどころに、分解され、単なるアミノ酸
つまり、大切な栄養になります。
ANK免疫細胞療法というのは、「治療方法」の
ことですが、がん細胞を殺す細胞を用いる
がん治療の方法、システムのことです。
両者を比較するのは、無理があります。
がんを殺す能力が高い、特殊な免疫細胞がみつかり
つけられた名前が、生まれながらの殺し屋 = NK細胞です。
がんを殺すことがわかっている細胞を、がん治療に
用いるANKと、体内で直ちに分解されてアミノ酸に
なってしまうペプチドを、同じ次元で比較することは
できません。
ペプチドにも、生理活性をもつものがありますが
分泌されても、局所的に作用し、直ちに分解され
いつまでも作用し続けるということはありません。
タンパク質というのも、アミノ酸がつながったものですが
ペプチドとは構造も性質も異なります。
ペプチドは、数個とか、十数個程度のアミノ酸が
つながったもので、体内では、非常に不安定で
即座に分解されます。 ペプチダーゼという酵素が
いくらでも存在し、見つけ次第に、たちどころに
ペプチドをアミノ酸一個ずつのバラバラの状態に
分解します。
タンパク質というのは、数十個とか数百個のアミノ酸が
つながったもので、容易に分解されないよう、独特の
立体構造をもちます。 タンパク質を精製すると
中々、腐りません。 簡単に分解できないからです。
洋服にタンパク質がシミとしてくっつくと、大変、
やっかいです。 簡単には落ちないのです。
一方、ペプチドは、すぐに細菌のエサになります。
簡単に分解されるからです。
実験室の中で、細胞にペプチドを浴びせると、
色んな反応を起こしたりすることもありますが
体内に、ペプチドを投与すると、余程、何か
分解されにくい、免疫系の注意をひく工夫をしないと
すぐに消滅します。
さて、インフルエンザに感染してから
ワクチンをうつ人はいるでしょうか。
ワクチンというのは、感染する前に
予防目的で行うものです。
丸山ワクチンは、がん抗原を注射するのではなく
細菌の死骸が、免疫系にとって刺激物となり
がん細胞によって眠らされた免疫系を目覚めさせることを
目的とするものであって、「ワクチン」ではありません。
免疫刺激物質です。
当然、ペプチドワクチンを投与する際に
強力な免疫刺激物質を添加しておけば
がん治療効果をあげる可能性はありますが
強力な免疫刺激物質単独投与によっても
ある程度、効果はありますので、
ワクチンによる効果かどうか
検証が必要です。
主にウイルス感染予防に用いられるワクチン。
その中で、ペプチドを用いるものはいくつあるでしょうか。
答えは「ゼロ」です。
そんなものは何の効果もありません。
絶対に不可能ではなく、このブログでも
ペプチドを用いたインフルエンザワクチンは
有望と、紹介させていただいたことがありますが
当然、特別な工夫をしてあるものです。
単純に、インフルエンザウイルスの構造の一部を
ペプチドとして投与しても、即座に分解され
ただのアミノ酸調味料になるだけです。
ワクチンで感染防止効果を狙うなら、
何といっても、生ワクチン、実際に
病原体を感染させる方法に限ります。
感染力を弱くしてしまうと、ワクチン効果は
ガタ落ちです。
ましてや、単なるタンパク質にすると
相当、効果がおちてしまいます。
子宮頸がんワクチンというのは、
タンパク質を用いていますが、
非常に強い免疫刺激物質を添加してあります。
病原菌から取り出した毒性物質に加工を
加えたものです。これで、ギョッとした免疫系は
おそらく、タンパク質抗原があってもなくても
何らかの免疫反応を誘導するでしょう。
がんワクチンなどという名前が紛らわしいのですが
子宮頸がんのワクチンは、パピローマウイルスの
感染予防を目的とするものです。パピローマウイルスの
長期持続的な感染と、子宮頸がんの発症に正の相関が
見いだせることから、ならば、ウイルス感染を防ぐことで
子宮頸がんの発症を防げるかも、という想定で
開発されたものです。
がんを直接、ワクチンで叩くというものではありません。
当然ながら、パピローマウイルス感染後にワクチンを
接種しても、効果はない、とされています。
やはり、インフルエンザワクチンであれ、子宮頸がんワクチンで
あれ、感染後に接種しても、何の意味もないのです。
なお、子宮頸がんワクチンの開発過程では、
ペプチドワクチンも試されましたが、今一、効果がなく
見送られています。そんな単純な構造では、直ちに
分解されるため、免疫系が認識するまで、もたないのです。
人間の細胞には存在しない特異抗原をもつ
ウイルスの感染予防においても、単なるペプチドでは
十分な免疫応答は得られません。タンパク質であっても
相当、強力な免疫刺激物を添加しないと反応しません。
ところが、がん細胞は正常細胞とほぼ同じ物質でできています。
もし、がん細胞特有の物質が、ほんとうに存在するのであれば
その特異物質を標的に、がん細胞だけを狙い撃つ特効薬を
開発すればいいのですが、そんなものは一つも開発できません。
人間にとっては異物であるウイルスの感染を予防するのに
ペプチドワクチンは、今のところ一つも成功していません。
ウイルス感染後のワクチン療法など、誰も考えさえしません。
それなのに、どうして、人間の細胞であるがん細胞を、
ペプチドワクチンで「治療」できるのでしょうか。
なぜ、インフルエンザに感染したあと、インフルエンザワクチンを
うつ人はいないのでしょうか。体内に、インフルエンザウイルスが
山ほど居るのですから、わざわざワクチンをうって、
インフルエンザウイルスの 情報を体に教える意味がないからです。
体内に、がん細胞が沢山、増えて困っているのに
つまり、体内に、がん抗原が満ちているのに、
そこへがん細胞の情報らしいペプチドを投与して
何か、変化がおこるのでしょうか。