2013.3.29.
アイスマンの解凍調査をテーマとする
ドキュメンタリー番組を興味深く
拝見させていただきました。
番組自体は、見応えはありました。
放送された個々の事実そのものは、
もちろん文献などで発表され、様々な形で
公開されてはいますが、
それでもやはり、実物の詳細な映像や
研究者本人のコメントを、そのまま見れるのは
貴重な機会でした。
ちなみに、アイスマンは、有名ですので
ご存じかと思いますが、「5000年以上前の
殺人事件の被害者の凍結死体」です。
たまたま、スイスアルプスの高地で殺害されたため
現場にそのまま残った、とても貴重な亡骸です。
ミイラは内臓を取り除いたり、香油に漬けたり
有機水銀で封じたり、と、「防腐処理」がされています。
庶民の低予算ミイラは、ほとんど、何もしていませんが
今度は、腐敗が進み、干からびたものが残っているだけです。
その点、アイスマンは、自然死ではありませんが、だからこそ
埋葬もされず、こと切れた状態のまま、保存されたものです。
ところで、せっかくの番組なのに、どうにも、気になる
コメントが続きます。 ナレーターが幾度となく言うのは
「世界四大文明以外は、ほとんど高度な文明など存在しない」
と考えられてきた常識が覆る、、、 という類のものです。
いまどき、古代の世界観についての、そんな思い込みは
とっくに覆っています。 おおむね、どの地域であっても
人類は、見事に生活空間を広げ、それぞれに特徴ある
文明を築き、豊かな生活を送っていた、、、
こっちが常識です。
エジプトのピラミッドは、極端に巨大であり、
メソポタミア周辺の遺跡も大規模な石造建築物に
あふれていますが、形が残りやすい
石でつくった大きな物が、古代文明の存在を示す動かぬ
証拠として目立ち、他の文明よりも研究が先に進んだということです。
逆に、他の地域の古代文明は、
見つけるのに、しばらく時間がかかったということです。
番組では、アイスマンの胃袋から、様々な動物の肉や毛が
みつかり、どうやら、加熱した上で、ハーブを加えて食べていた、、、
単なる栄養物というのではなく、意外と「美味しい」ものを食べていた、
と、していました。
たとえば、縄文人の食事というのは、現代の超一流料亭で
出される割烹料理のフルコースの、それも、現代では手に入らないような
高級食材をふんだんに用いたものであったことがわかっています。
どうやって捕ったのか、何百メートルもの海深くを時速80キロで
ぶっとぶ本マグロ、それも現代より、大型に育ったものを釣り上げ、
メートル級の巨大な赤鯛、カツオも巨大。トリに豚、新鮮野菜に
やはり巨大な昆布、要するに、いい出汁の出る素材は一通り
そろっていて、これらを巧みに調理していたことがわかっています。
北アフリカにある有名なネアンデルタール人の遺跡で、
3万5千年前、すでに豚を飼育していた可能性が指摘されているのですが
何を食べていたのか徹底的に調査されています。
そこでみつかった食材は、およそ5千種類に達します。
生きるために何でも集めて食べた、という一面もありますが
古代人は、現代人よりはるかに多様な食材を集め、
しかも、現代の遺伝子工学では及びもつかないレベルの
「改造」を行い、野生動物を家畜化し、現代人が食べている
ほとんどの栽培植物を、つくりあげてきたのです。
現代人は、文明というのは、常に、今の方が進んでいて、
過去にいくほど、劣っている、と勝手に思っている節がありますが
実態は、逆のことも多く、特に個人の能力に関しては、むしろ
現代人は、落ちている、という見方もあります。
ピラミッドは、どうやって作ったのか、
現代では説明もできないわけですが
一つずつ、順番に改良して、大きくしたのではなく、
小ぶりのものが一つか二つあるだけで、
あとはいきなり最初に最大級のものを、それもどうやら
同時につくったようです。
その後、ピラミッドがつくられるたびに
サイズも小さくなり、ラムセス二世の頃には、
もうまったく、どうやってピラミッドをつくるのかは
分からなくなっていました。
アイスマンは、純銅製の斧をもっていましたが
縄文人も、純銅は使っていました。
昔、純銅は、「落ちていた」ので、拾えばよかったのです。
今日では、自然に産出する純銅は、そう滅多にみつかりませんが
おそらく、1万年前は、もっと純銅が落ちていたはずです。
実物をみたことがありますが、数十センチの岩石に
延べ棒状に純銅が練りこまれたような標本でした。
古代は、様々な金属が、地表に露出し、
諸民族がそれぞれに利用していたのです。
古代鉄に至っては、現代技術では実現不可能な
99.9999…… 11個9が並ぶ純度でした。
メソポタミアでも、インドでも、現代の鉄より、5桁も純度が
高い純鉄が使用されていました。
さて、メソポタミア文明は、人類最古の文明ではなく
はるかに古い文明が、周辺各地に存在したことがわかっています。
メソポタミア文明より1000年以上前、
概ね、6千年前には、大規模な文明が確立し、アララト山方面から
南方へ向かって拡散していった様子が、考古学的に明らかになっています。
今日では、メソポタミアそのものよりも、周辺諸文明の遺構の
発掘調査が活発です。教科書に載っている肥沃な三日月地帯は
文明発祥の地ではなく、いくつも存在した文明の一つに
過ぎず、最古どころか、かなり「新しい」もの、ということになります。
中東諸地域の様々な文明よりさらに前、
6500年前のトラキア文明は圧巻です。
実際に、トラキア平原をみてきましたが、見渡す限り
延々と巨大な古墳が続き、「世界でもっとも大量の古墳が
集中する平原」とされていますが、その後、6500年間
トラキアを超える規模の「古墳をつくる文明」は出現していません。
しかも、古墳の中からは、大量のお宝が出土します。
逆に、黄河文明というのは、実態がありません。
周辺各地に、いくらでも文明の痕跡があり、それらと比べて
黄河文明が突出していた何かがあったとする根拠は見当たりません。
エジプトのピラミッドは図抜けた存在、インドはダントツに古くから栄えていた
コーカサスは白人の発祥の地であり、メソポタミアと限定するのは問題ですが、
コーカサス~中東が、数多の古代文明を生み出したのも事実、とはいえ
世界四大文明が栄えたとされる5千年より前にもトラキアのような
巨大遺跡を残した文明のみならず、巨大建造物を残さなかった
文明も、いくらでもあったことがわかっています。
「世界四大文明」というのは、作られたイメージです。
実在した巨大文明を含むものの
: 5000年より前には文明はなかったことにした
: 四大文明以外は、ろくなものがなかったことにした
: 黄河流域の集落を三大巨大文明と同格にしてしまった
という捏造の産物です。
今日では、考古学的なデータが次々に公表されており
世界四大文明の幻想は、払拭されています。