すでに多くの方が書かれておられるので今さらと思っておりましたがBCG接種と新型コロナウイルス感染の関係について話があらぬ方向へ迷走しているようです。 結論から言うと「BCGと新型コロナウイルスは関係ない、たぶん、、、」 です。 絶対関係ないと言い切る根拠はありませんので「たぶん、、、」をつけただけです。 関係あるとする根拠は「よく見えない」です。
世の中こんなものなのかもしれませんがBCGの売り上げが急増しているそうです。 移動制限によって品不足になる前に確保しようということならまだいいのですが、BCGで新型コロナウイルス感染予防を考えている人が多くいて実際にその目的で接種が行われているのならこれは大問題になるかもしれません。
「経皮投与」日本人なら誰もがご存じの針金が並んでいる「はんこ」を押して乳児の皮膚に押し込むやり方なら接種時期を選べばそう副作用はありませんが、BCGは「生きている菌」です。牛の結核菌の毒性を弱めたものですがいわゆる「生ワクチン」です。 乳児にも自然免疫は強力に働いていますが獲得免疫はまだ未成熟です。そこへBCGを接種してもそれほど強力な免疫応答はありませんが、それでも接種場所によってケロイドが残ることもありどこに接種すればいいのか模索の結果、今日のやり方に落ち着いています。副作用もかなりあったのですが接種時期を制限することで発生率を抑え込んできました。 獲得免疫が成熟してくるとBCGに対する免疫応答も激甚になってくることがあります。 自然感染していた小学生くらいにいきなりBCGを接種したらとんでもなく巨大なケロイドになる、かつてはそういうこともあったのです。 そこで強力な免疫応答を生じない生後11ケ月より前で、逆にBCG細菌が全身各所に感染症の症状を発症しやすい生後すぐには接種しない、頭とお尻、両方とも接種期間を制限しています。
また今日では、膀胱がんの治療として膀胱内にBCGを注入することが普及し標準治療に組み込まれていますが、膀胱の中ですから竹輪の穴だと思えば体の外の「水たまり」にBCGを流し込んでいるのであって真の体内には入れていないとも言えます。 それでも感染症となるリスクはありますし間質性肺炎ということもないとは言えません。また膀胱内での強い免疫応答による何がしかの副作用が発症する確率は高いです。 子供の時に「押される」「はんこ」は注射針で菌の塊を直接、皮膚組織を貫通して投与するのではなく、あくまで「経皮」投与という前提です。そこは安全性を考慮してのことです。 こんなものを皮下注射した人がいたらしいのですが、筋肉注射とか、まさかまさかの静脈注射などする人がでてきたら死人がでるかもしれません。
薄めて口からのんだらどうか。
「 。。。。。。。 」
生きている菌ですからね。
それも弱毒株とはいえ病原菌です。
下手に触らないのが鉄則です。
とにかく回りに新型コロナウイルス感染予防目的でBCGをうつんだ等と言ってる人をみかけたら「それはやめた方がいい」とお声がけください。
どこからBCGと新型コロナウイルス感染の話がでてきたかはネット上で相当拡散していますのでご存じと思いますがBCG接種率の高い国は新型コロナウイルス感染者の死亡率が低く、一方で死亡率が高い国は接種率が低いというグラフです。 よくある統計的に「正」の「相関がある」 というやつです。
かつてマスメディアでは徹底してこの手の「〇〇する習慣のある人(ない人)はXXXという病気になりにくい(やすい)」という話が洪水のように流布されていました。 今でもありますが。 フランス人はよく赤ワインをのむ、そしてあまり太った人はみかけない、赤ワインをのむと体にいいんだ、、、 単なる思い込みに過ぎないことが後日明らかになりましたが、空前の赤ワインブームに沸き、周囲でもやたらと赤ワインを飲む人があふれていました。飲む口実ができてのっかっただけだったのかもしれませんが。 全く食生活から何から状況が違うことは一切無視して何か一つ単純な要素だけで「大胆な結論を決めつける」というパターンです。 他にも高齢者施設でインフルエンザのワクチンを接種しない人は感染したら重症化しやすい、というたぐいのものも数多あふれています。 接種しなかった人は熱があった、体調を崩していた、すでに肺炎になっていた、、、などなど、何か背景があった可能性が高く、当然ながら感染したら重症化しやすいわけです。接種できた人は少なくとも接種時点では重い病気と診断されていなかったということですから、両者を単純に比較する意味はありません。 〇〇の住人、〇〇〇〇人を〇〇年おいかけて統計をとってみました、という疫学調査は昔から盛んにおこなわれてきましたが「相関関係」がとれるだけで「因果関係」はわかりません。 さきほどのワクチンを接種しなかった人がもつ背景、などを「バイアス」といいますが、統計には必ずバイアスがかかりますので統計処理された結果を単純に信じてはいけないのです。 言い出すときりがないですが、この手の「相関関係を因果関係にすり替える話」はよくあるなどというものではなく、いたるところに満ちています。
そもそもBCGの接種率が高い(近年、乳幼児には原則接種)日本はBCG接種率が低い他の先進国より結核の発生率が高いのです。結核の予防自体がどうなのか、というBCGがどうやって新型コロナウイルスには効くのか。ちょっと考えにくいですが。なお、日本における結核死亡率は先進各国の概ね数倍ですが、乳幼児に限ると逆に低いため、ワクチン推進派はBCGによる結核予防効果はでているのだ、としています。小さな子供のうちはワクチン効果がでているのである、と。ところが高齢者の場合はマクロにみると効果がでていないどころか逆効果のように見えるわけです。この問題はジェンナー以来ずっとあるものです。毒性が強い野生の病原体に感染して重症化するリスクを減らすためには毒性が弱い「似ているもの」に先に感染しておくと「しばらく」毒性の強いものには感染しないのです。実際、BCGを11ケ月以下の乳児に集団接種(強制接種)している日本は小児の結核感染率が著しく低いわけです。北欧では集団接種をやめたら小児の結核感染率が跳ね上がったというケースもありました。 ここだけみれば「予防効果」はあるのです。ところがワクチン推進派は「効果がある」と言ってるだけなのです。 逆にワクチン反対派と呼ばれる人々は大半が安全性の問題ばかりを突いてくるので議論が空回りしています。 もっと本質的な問題があるのです。 ワクチン効果はいつまでも続かない、そして効果が切れた後に逆効果とならないのか、ここが最大の争点です。 BCG接種率ほぼ100%に近い日本が生涯感染率では他の先進国の数倍にも達するというのは上述の「正の相関関係がある」という話です。これをもってBCGは生涯でみれば結核予防どころか逆効果なのだと結論づけてはいけません。 結論はどうなのかというと簡単に結論がでないから延々と議論が続いているのです。 ただ結核は日和見感染の代表格ですから、何をどうやっても体力、免疫力が極端に低下すれば感染リスクが跳ね上がる、ここはほぼ正しいでしょう。
ちなみにBCGが誘導する狙いは結核菌に対する抗体ではありません。結核菌が感染している細胞(細胞内に感染します)を攻撃するCTL(細胞傷害性T細胞)を誘導し、これがメモリーCTLとして脾臓などに待機して次に結核菌が体内で異常増殖した際に再出動すると考えられています。BCGは牛の結核菌ですが人間の結核菌と共通構造をもつためBCG感染細胞を攻撃するCTLは人間の結核菌に感染した細胞も攻撃するという話です。
本題に戻りますと、BCG接種率が高い国が新型コロナウイルス感染による死亡率が低いのが仮に事実だとしても、その理由としてまず考えられるのは「たまたま」そうだということです。特に理由はない、という可能性をまず否定してはいけません。
むしろ日本や周辺国、BCG接種率が高い国々で流行している新型コロナウイルスと死亡率が高いヨーロッパで流行しているウイルスとでは型が違うという報告もあります。 この話はもっと検証する必要はあるでしょう。ほんとにそうならば、じゃあどうしてドイツはイタリアよりはるかに死亡率が低いのか、など、「型が違うから死亡率が違うのかも」という「仮説」を立ててみれば、それを検証する必要があります。 いちいちどうでもいい仮説や思い付きを検証している暇はありませんが、型の違いによる死亡率の違いが本当にあるならこれは大変重要な問題です。 ウイルス感染において非常に重要なのは、流行しているうちに強毒化しないのか、型が変化していかないのか、です。 BCGばなし等、さっさと棚に上げて型の変異については徹底トレースすべきです。
とはいえタイトルがBCGですからもう少しBCGに話を戻します。エイズ患者の2~3割が結核で亡くなるように、免疫不全が進行すると結核菌は日和見感染します。 BCGをうっていてもどうにもならないのです。 逆に元気な人は結核にはなりません。 そういう人でも急に栄養状態が悪くなったり、体力が衰えたりすると結核になるリスクが高くなります。結核菌はどこにでもいます。 世界で毎年180万人が結核で命を落としていると言われていますが弱り目にはたたる菌です。 結核という病気に対してBCGがどう予防効果を発揮するのか、あるいはしないのかは、先ほどのCTL云々というメカニズムはあるのですが結局、感染を防げるかどうかとなると結核菌がみごとに日和見する性質をもつため、よくわからないのです。 なおBCGを接種しても陽性反応がでない人は陽転するまで何度もBCGを接種することがありますが、やっと陽転しても感染はします。むしろ何回も接種した人は感染リスクが非常に高いのです。それは先ほどの相関と因果の関係と同じですが何回もBCGを接種したら感染しやすくなるのではなく、おそらく免疫応答が弱い人だから一回では陽転しないし、感染もしやすいということでしょう。これをもってBCGは効かないとは言えません。ものすごく元気で生涯、結核とは無縁の人や何をやっても結核になってしまう両極端を除いて、中間にいる人々には感染予防効果がある可能性があります。実際、ワクチンというのは「中間層」に効果を発揮するかどうかが勝負どころです。
さて、本業の結核予防におけるBCGの機能の解析は非常にむつかしいのですが膀胱がんの治療薬としてはどうでしょうか。まず効果は「あり」です。 かなり有力な治療です。 膀胱組織の表層にできたがんは非常に再発しやすいのですが、これが筋層まで浸潤するとかなり悪性度が高く、標準治療だけでは厳しい結果となる可能性大です。 筋層まで浸潤していない場合には、尿道からカテーテルを入れてBCGを投入し(注射するのではありません、膀胱の液体の中に流し込むのです)、しばらく、おしっこを我慢いただいて排尿します。抗がん剤を投入することもありますが、抗がん剤より威力はあり、そのかわり副作用も抗がん剤より強いです。 抗がん剤を静脈から入れるとすさまじい副作用となりますが、局所に滞留させるやり方は案外、副作用も抑えられ、効果もでやすくなり、なかなかいい治療になりますが、BCG局所滞留はさらに治療強度があります。 もちろん感染リスクが高いので、膀胱だからできる治療です。これを肺がんにやったら牛の弱毒株とはいえ、ただではすまないでしょう。この場合、どういうメカニズムで効果を発揮するのかは今ひとつよくわかりません。 まずBCG療法を実施すると膀胱の粘膜が「ゴワゴワ」します。 BCG療法は高い確率で寛解しますが、悪性度が高い場合は再発を繰り返します。ところがBCG療法を何回もやると粘膜がかなり硬化するので、いつまでも同じ手は使えず、最後は標準治療としては手詰まりになっていきます。 どうもBCG療法を実施するとがんを含む上皮組織全体が硬くなってゴソッと剥げ落ちるように「取れてしまう」ようです。膀胱がんの再発モニタリングの一つに尿検査で実施できる尿中異常細胞率というものがありますが、がんの再発でなくてもBCG療法を繰り返しているとよく異常細胞が尿に流れてきます。 こうした原理で効果を発揮しているだけならBCG療法と新型コロナウイルスは何の関係もない、と考えられます。どうして粘膜が硬くなるかは大量の細菌が密集していると炎症系の免疫細胞が殺到し、炎症爆弾の絨毯爆撃をかけますのであたりかまわずかたっぱしから炎症反応により組織がボロボロになります。 これはよくあることですし、肺炎で亡くなる方も菌の場合は肺胞の細胞を殺すというより好中球などによる「猛爆」によって正常細胞の組織が巻き添えで壊滅するという現象が多くみられます。猛爆は炎症反応を起こす生化学物質をまき散らすので相手かまわずの無差別攻撃となります。ウイルスの場合はウイルスが細胞内で異常増殖し、バースト(大量のウイルスが細胞外へ飛び出す)により感染細胞が死滅したり、ウイルスが正常細胞の細胞膜同士を「連結」してしまい、複数の細胞が一緒になってしまう細胞融合を誘導するというケースも見られます。一つの巨大細胞に複数の核がみつかるのです。巨大化した細胞は残念ながら通常ほとんど機能しません。新型コロナウイルス感染者で肺炎を起こした重症者の組織からも複数の核をもつ巨大細胞がみつかっています。
なおBCG療法を実施した膀胱がん患者の組織中では継続してMHCクラスII(クラス・ツーです)の発現がみられるという報告もあります。これどういうことかというと、MHCクラスIIは、樹状細胞やマクロファージ、あるいはB細胞などが抗原提示に用いる通信? 信号伝達装置のようなものです。つまりBCGによって免疫刺激が加わり、これらの免疫細胞が活性化されているのか、集積されているのではないのか、というのですが。細菌がいれば樹状細胞やマクロファージがこれをセンサーで捉え、活性化されるのは当たり前です。 それとがん細胞とどう関係するかはよくわかりません。相手がウイルスや細菌の場合は樹状細胞のTLR(トルライクレセプター)群を組み合わせて、大量の細菌やウイルスが密集していることを認識し、この段階ではウイルスや細菌の種類まではよくわかりません。さらに回りにいる異物を取り込み、バラバラにしてその一部をMHCクラスIIに抗原決定基だと提示すると考えらえています。これも相手が細菌やウイルスの場合は特異的な抗原決定基、人間の細胞には存在しないペプチドなどがみつかりますので、この抗原を目印に攻撃をかけるような指示がでる(複雑な話を豪快に飛ばして書いてます)のですが、相手ががん細胞の場合は、本人の細胞ですのでがん細胞特異的な目印物質はみつかりません。 子宮頸がんならパピローマウイルスが高頻度で感染しているのでパピローマウイルスの抗原を目印に攻撃する様に指示を出せば結果的に子宮頸がん細胞へ攻撃が向くかもしれませんが、膀胱がんの場合、高率で感染するウイルスなどはみつかっていません。またBCG療法実施後、膀胱内組織に高レベルのγインターフェロンの発現が持続するという報告もあり、これがキラー細胞の活性化を促してがん細胞を攻撃させている可能性はあります。BCG接種によってマクロファージの遺伝子の一部にアセチル基が結合し、DNA配列は変わらなくても遺伝子としての活動が変化し、結果的に炎症誘導物質であるインターロイキン1の発現が高まっているとする報告もあります。 さらにはBCG療法実施後に腫瘍組織を調べると腫瘍中に浸潤している免疫細胞はTリンパ球が優勢とする報告もあります。ただ腫瘍というのは免疫抑制系である制御性T細胞を腫瘍組織中に呼び込み、キラー系の免疫細胞の活動を抑制する「手」をよく使います。 腫瘍中からみつかるT細胞は一般に制御性T細胞が優勢です。 「細部にわたる報告」はいくつもあるのです。 ところがどのみち、BCG療法を実施しても悪性度が高い場合はかなりの確率で再発するわけですから、腫瘍免疫が十分なレベルまで活性化されていないということになります。 結核菌がうようよするんですから何がしかの免疫刺激がかかるのは間違いないでしょうが、とりあえず辻褄が合うメカニズムの説明としては、BCGがおびき寄せる免疫細胞群によって膀胱内で炎症反応が起こり、がんの組織ごと膀胱内の粘膜が剥げ落ちるというのがもっとも妥当に見えます。
なお、BCGによってNK細胞が活性化されるのかどうかは実験したことはありません。ただ結核患者はNK活性が下がることはあっても上がる傾向は考え難いものがあります。また、結核患者は肺がんになりやすいのです。かつて結核患者は肺がんになりにくいと考えられた時代がありました。これも統計の「バイアス」です。がんで亡くなる人より(すべての部位の合計よりも)結核で命を落とす方が多かった時代には肺がんになる前に結核で亡くなっていたのであって、栄養状態が改善されて結核で死亡するリスクが下がると、結核患者の方が肺がんを発症しやすいことがわかったのです。ですのでたぶん、ですが、結核菌の異常増殖なり、BCGなりが、NK活性を高めるということはないということではないでしょうか。一時的にあったとしても効果は続かないのでしょう。 実際、感染症で、がんが消えたというのは激甚な急性感染症の場合です。結核は慢性病ですので、むしろがん化を促進してしまうものです。
さて、長くなりましたが、BCGは膀胱がんの治療としては確立しているものの、その原理は体内の腫瘍免疫システムの活性を高めているとは、今一つ考えにくい、あくまで一時的な炎症反応の誘導なのでは? と「あくまで」考えられるということと、新型コロナウイルス感染に対して何か有効と考えられそうな要素は見当たらない、ということです。