2013.6.24.
安愚楽牧場の経営陣が逮捕されました。
ここは、動物用医薬品などを、羽振り良く
大量購入して、支払も早かったので、
業界ではよく知られていました。
たしかに、たくさんの家畜を飼育していた、
そこまでは事実のようです。
ところが、移動体広告、たとえば東京メトロの車内に
牛への投資は儲かりますよ、と牛を財布の形にして
小判がザクザクあふれる絵を使った一般向けの投資広告が
派手に出始めました。
ここまでくると、相当、あぶない空気が
プンプンと漂いました。
財務内容を実際に調べたことはありませんが
肉牛への投資は、非常に利回りが低いのに
一般向の投資を募る、ということは、グルグルと
自転車操業をするんだろう、と。
つまり、新しい投資家から集めた資金を
昔からの投資家への配当に回す、
そうやって、誤魔化していくしか手がなくなり
いつかは、投資が集まらなくなると、
吹き飛ぶ、そういう構造をもっているんだろうなあ、
というのはミエ見えでした。
もちろん、逮捕に踏み切るには、裏を取らないと
いけませんから、簡単に、ハイ逮捕、とはいかないでしょうし
そんなことが横行したら、その方が問題かもしれません。
ここへきて、株価が乱高下を繰り返し、基調としては
上昇してきましたから、牛への投資を株へシフトする投資家が
増えたのでしょうか?
この件の具体的なことは知りませんが、
ファイナンスの常識として、
乳牛は利回りがいいのですが
肉牛は、すこぶる悪い、
それが相場なのです。
ベンチャー業界では
「CASH COW」といいます。
ベンチャーキャピタルが投資候補のベンチャー企業を
みるとき、キャッシュカウをもっているかどうかは
安全性を評価する重要事項です。
訳すと、「現金を産む乳牛」です。
COWですから、肉牛ではなく、乳牛です。
やはり、企業というのは、日銭を稼いでいる、
毎日か、せめて、毎月、売上収入が入ってくる、
こうなってくると簡単には倒れなくなりますが
開発先行のベンチャーで、CASH COW を
まったく飼っていない場合、かなり危ない、
ということになります。
開発リスクを取る、というと、多少、恰好よく
響くのかもしれませんが、実際には逆で
日銭稼ぎの商売をやってない技術系ベンチャーに
投資すると、月々の家賃やお給料に投資資金が
喰われていき、効率よく開発資金に集中投入できないのです。
さて、乳牛の場合。
毎日、お乳を出してくれます。
これを売って、毎日、売上が立ち
現金収入が入ります。
月締めか、どうかは別にして
毎日、確実に売り上げを計上することが
できます。
一般に酪農家は、乳牛の赤ちゃんを産ませることはやらずに
ブリーダーから、買ってきます。
「導入」といいますが
要するに仕入れてくるのです。
そして、エサも毎日やらなければいけませんが
毎日、「商品」をうみだしてくれます。
搾乳機や、牛小屋などの設備投資も必要ですが
一度、現金を払って「導入」した乳牛は、
数年間、お乳をつくり続けてくれます。
乳房炎になって、細胞の破片がお乳に混じっているのが
検出されると、出荷中止になります。
治療のために抗生物質を投与すると、青色の染料をミルクに混ぜ
出荷できなくなってしまいます。
なんとか、炎症を抑え、牛乳に漏れ出てくる細胞数が
減ってくると、出荷再開となります。
ところが、3回目の乳房炎となると
廃牛となります。
日本では、生産性を高めるため、
ただでさえ、乳の生産性が高くなるように
改造された品種の牛を、更に、改造を加え
徹底して、大量の乳を搾れるようにしています。
そのため、乳腺が腫れて、乳房炎になりやすいのです。
搾乳量や相場などは、業界内情報ですので
ここでは書きませんが、参考までに、
乳房炎の治療に使える(適用外処方ですが)
しかも抗生物質でもない、副作用もなければ
残留がないので、人体への影響もない、
こういう理想的な薬があり、それなら
1万円でも、2万円でも払う、と酪農家はいいます。
もっとも、この薬、今、製造元のお家の事情
があって、供給がとまってしまっています。
この薬の効き具合を実感した使用者から
なんで供給せんのか!!! と、お怒りの
カキコがたくさんありますが、作れば爆発的に
売れることは明確なのに、まあ、そう簡単には
いかないんでしょうねえ。
一方、体重がまるで違いますが、ブロイラーの場合
一羽の鶏に生涯、払ってもいい薬代は4円です。
それ以上、薬代がかかるなら、殺処分です。
肉牛の場合も、3千~4千円 の薬となると
うわ~、高いなあ、、、、 となります。
豚なら5百円くらい、、、
収益性の違いから、使ってもいい薬剤代の上限がおのずときまってくるのです。
肉牛の場合も、まず導入というプロセスから始まります。
松坂牛といっても、生まれたのは、三田など、他の地域です。
松坂は肥育農家が集まっているのであって、子牛を産ませることは
原則やりません。 買ってくるのです。
そして、延々と2年以上、エサをやり続けます。
じゃあ、肥育資金回収のために、今日は、すね肉だけ
出荷しようか、ということはできません。
最後の旅立ちの日まで、1キロも、お肉をばら売りする
ことはありません。
つまり、延々と長期間、資金流出が続き、忘れたころに
やっと、お肉になって、一時金が入ってくるのです。
途中で病気になったら、元も子もありません。
下痢や風邪も、ダイレクトに「肉の目減り」につながります。
最後の旅立ちにおいても、最悪、15%も体重が減ります。
北海道のように、真っ平な道路が続くエリアで、移動のストレスが
少ないところでも、数%は体重が減ってしまいます。
5%減っても、体重の半分がお肉で、減るのは肉ですから
実質、肉量の10%が減る、ということになります。
投資ビジネスとしてみれば、肉牛の肥育は、ひたすら資金を寝かせる
非常に投資効率の悪いビジネスなのです。
特に、日本では、脂の多い肉が好まれ、世界的な肥育期間が
およそ半年なのに対し、2年以上も肥育することが珍しくありません。
半年間の間は、脂肪分は増えずに、ひたすらお肉が増え、概ね
体重550キロあたりまで、効率よく、体重が増えます。
そこで出荷するのが世界の常識です。
日本では、そこからさらに肥育するのですが
おもいっきり飼料効率が悪くなり、体重が伸びずに
脂分だけが、少しずつ増えていきます。
半年で550キロになった牛に、
そこから2年、エサをやり続けて
やっと200キロくらいしか体重が増えません。
日本人が、もっと脂の少ないお肉を食べるようになれば、
生産コストは一気に下がるのです。