2013.7.8.
欧米からのビジネスマンを接待すると
何といっても、KOBE BEEF !
をご所望になられました。
最近は、欧米からの来訪者をお迎えする機会は
少なくなってきましたが
今でも、神戸ビーフ・ブランドは名が通っている、と
聞きます。
MATSUZAKA BEEF を食べさせろ、
と仰せの方もいないわけではないですが、
だんとつ人気は、神戸ビーフでした。
京都や奈良の人なら、あまり神戸のことを知りませんので、
神戸ビーフと聞いても、さほど違和感がないようです。
奈良公園には鹿がいて、これが勝手に市中を歩き回ることが
ありますし、(もちろん、鹿の勝手なのですが)、京都となると
京都牛とはいいませんが、近江牛が有名で、比叡や東山を
ひとつこえれば、そこは近江です。琵琶湖の水辺で牛が
水浴びしているのは見たことありませんが、周辺の山中であれば
牛ぐらいいても、不思議はありません。
大阪や神戸の人なら、神戸の街で、牛が歩き回っている姿を
みることはない、冷静に考えれば、神戸に牛はいないだろう、
ということぐらい、すぐに想像がつきます。
六甲山の北側には牛がいますが、こちらは乳牛です。
阪急三宮駅をおりて、周囲をみれば、そこはビルが林立する
大都会で、牛がいたら、ギョッとするでしょう。
関東の人にはピンとこないかもしれませんが、
神戸ビーフというのは、新宿ビーフか、まあ横浜ビーフ
せいぜい、川崎ビーフという位、不思議な呼び名なのです。
ちなみに。
「六甲のおいしい水」は、ミネラルウォーターの走りとして
主に関東で売れましたが、当然、大阪方面で、こんなものを
売るのは、難しかったわけです。 六甲山中の川の水が飲用禁止であること
一度でも、六甲山ハイキングにいったことがあれば、(ま、高尾山ハイク以上に
沢山の人が集まります)、汚いアブクが、ぶくぶくと溜まっている六甲の水を
みて、ええっ!! これを飲むのか!?!?! と思ってしまうでしょう。
商品化に踏み切ったハウス食品さんには、インスタントカレーの原料を
納めさせていただいていたので、よく、あんな大胆なネーミングを考えましたねえ、
と聞いたことがあります。 購買担当の人に聞いたので、真相はご存じなかったようですが
実際の水は、新幹線の工事で掘ったトンネルから湧き出る清水なので
水自体はキレイなのである、決して、登山道わきの汚い水を集めているのではない
という説明でした。 まあ、関東の人なら、六甲のおいしい水と言われても、
六甲山がどういうところか、ご存じないのでしょう。
神戸に牛がいるわけないだろ、という地元の常識も、少し離れれば、
そんなことはわかりません。 かくして、神戸ビーフ・ブランディング戦略は
見事に奏効し、海外にまで、その名は響き渡った、というか、欧米を中心に
有名となっていきました。
神戸ビーフというのは、当然ながら、産地ブランドではありません。
いないんですから、牛なんて。 (若干、いるのですが)
では、口からでまかせなのか、というと、そうではなく、
「市場ブランド」なのです。
神戸食肉卸売市場で、流通させられた牛肉のことを
神戸ビーフとよびます。
最近は、お肉の仕事はしてないので、実態は知りませんが、
かつて、神戸ビーフといえば、過半数が米国からの輸入肉でした。
当然、BSE騒動で、様変わりしているはずですが。
米国産の肉牛というのは、実は、一般の国産牛肉より
味がいいとされています。 日本の国産牛肉は、世界でももっともマズイと
いわれているものが多く、それより、米国産のお肉の方が、
平均的には美味しいので、なので、輸入肉中心の神戸ビーフは
国内の一般ブランドより、美味しいお肉だったわけです。
えっ!? 黒毛和牛の霜降りが一番おいしいのでは???
まず、霜降りかどうかは、味と関係ありません。
これも広告宣伝作戦にひっかかっているのです。
ただ、霜降り、ということは脂肪分が多いので
甘い独特の香味があり、美味しいと感じる、そこまではOKです。
ところが、脂肪分が多くても、霜降りにならない種類の牛もいて
味は遜色ありませんが、見た目は、霜降りじゃない、高級じゃない、
と日本人は思ってしまうわけです。
一方、黒毛和牛は肉牛の一種ですが、生産量も流通量も限られ
特に、関東方面の流通量は少ないわけです。
国産牛肉と、国産肉牛はイコールではありません。
黒毛和牛など、代表的な日本特有の肉牛の肉質は美味とされていますが
実際に飼育されているのは一部であって、一般に流通している国産牛肉は、
和牛の肉ではありません。 特に、関東ではそうです。
大阪で生まれ育った人間が、東京へ引越すと、私自身がそうでしたが、
とにかく、牛肉の入手にたいへんな苦労とストレスを感じます。
大阪で、「肉」といえば、「牛肉」のことであり、「肉まん」といえば
「牛肉入り」でなければ詐欺ですから、豚肉でつくられる「なんば蓬莱551」は
豚まんと呼ばれるわけです。 東京で生姜焼き定食を注文して豚肉が
でてきたときは、本気で怒り狂いました。豚肉とは書いていないのに、なぜ、
豚肉を出すのか、と。 東京では、「肉」といえば、豚肉のことであり
牛肉は、牛肉とか、ビーフとか、「牛」であることを明記するのが基本で
あることは、あとから気づいたのです。
大阪では、そこらへんで、大量に安く牛肉が流通しているのに対し、
東京では、牛肉より豚肉が、よく出回っています。
大阪の実家でも、かつては、牛肉は卸値で大量に買っていたので
私は、毎日、2キロ食べていた時もあります。
正月は、10キロのブロックを買っておいて、
朝昼晩とステーキでした。
さて、関東で流通する牛肉の過半が、乳牛の雄の肉です。
この状況は、今もあまり変わらないようです。
乳牛が雌を産むと、乳牛として育てますが、雄を産んでしまった場合
飼い主にも、そして、生まれた子牛にも、不幸が訪れます。
英語で、ビールと呼ばれる、「子牛肉」となります。
ヨーロッパでは、子牛肉のソテーなど、よく子牛料理がでてきます。
日本では、子牛の料理は滅多にお目にかかりません。
なぜでしょうか。
雄の乳牛であっても、肥育してしまい、大きくなってから
お肉にしてしまうのです。
この話をすると、欧米では、仰天されます。
あんなマズイ乳牛の雄の肉なんか、喰ってるのか、と。
じゃ、食べたことあるの? と、聞くと、
そんなものは食べるわけないだろ、と、非論理的な回答が返ってきます。
業界人に聞くと、そんなもん、肉牛であろうが、乳牛であろうが、太らせてしまえば
素人が食べても、区別はつかない、と言ってのけます。
とはいえ、一応、肉牛は、食用として改造を重ね、
乳牛は、お乳を搾るために改造を重ね、やはり
お肉にするには、肉牛が好ましく、乳牛は、食べるには今一、
特に、雄の乳牛はどうもよろしくない、という一般論は
あるようです。
そして、上質とされる、肉牛として確立された和牛の生産量は
少なく、特に関東では、料亭などをのぞき、あまり流通していない、
結局、トップグレードが、希少な国産肉牛、次が、米国の肉牛、
そして、OGビーフなどが続き、最悪が、国産の乳牛の雄肉、
という序列があるようです。
また、米国産の肉牛といっても、欧米一般の半年間肥育による
脂肪分が少ないものは、日本人には好まれず、日本向け輸出用には
1年~2年半も肥育し、大量の脂肪分を含む、日本人嗜好のお肉と
なっていました。 BSE騒動により、一時、市場から排除され、
更に、月齢数の小さい、つまり若くしてお肉にされた牛の肉だけが
輸入を認められ、今年のはじめに長期間肥育された牛の肉も解禁されました。
OGビーフは、オーストラリアですから、そこらへんに勝手に生えてる草を
食べさせるのが基本で、わざわざ、オーストラリアが得意としない穀類を
米国から輸入して食べさせる、という面倒なことはしません。
草で短期間肥育して、さっさと肉にして輸出してしまう、そのため
脂肪分が少なく、「ヘルシー」な肉なのですが、日本人は、脂が少ないので
美味しくない、とか、草の香味が強すぎて、なんか匂いがきつい、
と敬遠する向きもあります。 米国市場では、オーストラリア産牛肉は
圧倒的な競争力があり、また、ブラジル産の牛肉も強力で、完全に貿易を
自由化すれば、駆逐されるのは米国の畜産業の方である、と考えられています。