藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2013年09月25日

  

えとせとら

2013.9.25.
 
 
 
クローズアップ現代やサイエンスゼロで
がん幹細胞が取り上げられ、これらの番組に
関連するご質問をいくつかいただいています。
 
 
専門家なら知らない人はいないであろう
「がん幹細胞」について、一般の方がご覧になられる
番組で紹介されたことは大きな前進ととらえています。
 
また、がん幹細胞が、増殖が遅いために、増殖毒である
殺細胞剤や、放射線(X線)では容易に死なない、
結果、再発や転移を標準治療で抑えることができない、、、、
 
ここまでは、クリアな事実です。
 
 
ところが、こうした揺るぎようのない確たる事実と
同列か、むしろそれ以上のトピックスとして、
いくつかの治療法が紹介されていました。
 
 
まるで、がんを治す薬がみつかったような錯覚を
もたれた方も多いようです。
 
 
番組でも、キャスターが「すごい特効薬ですね」を
連発していましたが、これは相当、過剰な表現です。
 
 
たとえば、CD44という物質が、がん細胞の表面にあるのである、と。
全てのがん幹細胞でないにしろ、消化器系のがんの幹細胞のいくつかに
みつかる、と。 ここまではいいのですが、CD44を認識する薬、
それもリューマチの治療薬として、実用されている薬が、CD44の
ある機能を抑えるとしています。
ここまでもOKです。
 
問題はその先です。
 
ネズミのがんを抑えたことをもって効いた、としています。
そして、既に臨床試験に入ったということですが、
実際に、どの程度、患者さんに投与して有効なのか
副作用はどうなのかを、これから調べるのですから
何も、この薬がおかしい、というわけではないですが
ほんとうのことはこれから、調べる、という段階です。
 
がんネズミを治した、という類の話はいくらでもありますが
人間のがん患者と、がんネズミはまるで別物です。
ネズミは、滅多にがんにならないので、ネズミの免疫関連遺伝子を
ある程度、潰しておき(やりすぎると、生まれてきません)
そこへ人間のがん細胞を植えるのですが、異種の生き物の中で
人間のがん細胞はかろうじて生きている状態ですので、
ちょっとした刺激や薬で、がんネズミはケロッと治るのです。
また、何世代も同じ系統のネズミを掛け合わせて、遺伝子が
単純(母方の遺伝子と父方の遺伝子が同じ)な組み合わせになっている
実験用ネズミに、クローン培養(一個の細胞のコピーを増やしたもの)された
ヒトがん細胞を投与した状態では、現実のがん患者の体内に存在する
多様で変化に富んだがん細胞より、はるかに攻撃に弱いのです。
一人が倒れる攻撃を受けると、みんなが倒れるのです。
みんな同じ性質をもつクローンだからです。
 
 
また、CD44は、がん幹細胞特異マーカーではありません。
 
なぜなら、正常な幹細胞にもCD44を発現するものがいるからです。
 
 
そのため、人間の体内に、CD44を標的に、CD44を発現する細胞を
傷害する薬剤を投与すると、どうなると考えられるか。
 
 
当然、CD44を発現するがん幹細胞が傷害されるのであれば
正常なCD44を発現する幹細胞も傷害されます。
 
だから、だめなんだ、とはいえません。
 
ここから先はやってみないとわかりません。
 
 
CD44+ がん幹細胞を傷害できるメリット
正常なCD44+ 幹細胞が傷害されるデメリット
 
治療を行う意味があるのかどうか、
両者のバランスで決まってくることです。
 
 
殺細胞剤で、正常細胞が傷害されても
正常な幹細胞が生き残れば、正常細胞の数は
回復しますが、正常な幹細胞まで傷害する薬剤投与となると
従来の殺細胞剤では考えられなかったような副作用が発生する
リスクがあります。
 
 
番組の中では、すでに実用化されている薬の転用なので
副作用はあまり心配しなくてもいいのでは? というコメントがありましたが
一般論では、その通りです。
ところが、この薬、リューマチ患者に処方されているものです。
リューマチ患者は、殺細胞剤の投与を受けません。
一方、がん患者の場合、がん幹細胞だけではなく、臨床的がん細胞と
いいますが、普通のがん細胞も攻撃しなければいけないので
殺細胞剤の併用ということになります。 
また、原理からいっても、がん幹細胞のCD44の働きを止めるだけでは、
がん幹細胞を死に至らしめることはできないので、CD44の働きを
抑えながら、殺細胞剤の投与、ということになります。
(CD44を抑えれば、殺細胞剤の攻撃をうけやすくなるはずです)
 
こうなると、リューマチ患者ではみられなかった、とんでもない
副作用が発生する可能性はあります。 リューマチ患者の場合は
正常幹細胞のCD44が抑えられても、殺細胞剤を投与しないので
正常幹細胞が死ぬまでには至らない。 ところが、がん患者さんの
場合、正常幹細胞がバタバタ倒れる可能性がある、ということです。
 
 
 
どこまでいっても、「くすり」ですから、がん幹細胞特異物質が
みつからない限り、がん幹細胞を狙い撃つことはできません。
がん幹細胞に特徴的なマーカーというのは、正常幹細胞にも
特徴的にでているので、普通のがん細胞しか攻撃できなかった
ところを、がん幹細胞も攻撃できる薬が登場したからといって
今度は、これまで生き延びてきた正常な幹細胞もやられる、ということです。
 
 
 
また、現実の生き物は、多様性に富んでいます。
 
実験系のような単純なネズミや細胞とは異なります。
 
 
「くすり」である限り、そのくすりを回避する耐性をもった
変わり種が生き残り、反撃してきます。
 
抗がん剤で、がんを征圧できないのは、
農薬で、害虫を滅亡に追い込めないと同じなのです。
 
 
ANK担当医が、分子標的薬の併用を勧めるのは
NK細胞との相性がよく、同時併用が好ましいからです。
 
一方、CD44を標的とする薬は、殺細胞剤と併用しないと
あまり意味はないはずですので、これをわざわざ自由診療で
とりあげることはしないでしょう。 
結局は、くすり、ですので、どんな副作用があるのか
臨床試験を重ねた上で、まず、設備の整った大病院で
副作用への対応をしながら、使っていき、使えるとなったら
標準治療への組み込み、というのが筋でしょう。
 
 

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