藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

TOP

2013年10月14日

  

がん, 免疫

2013.10.14.
 
 
 
がん幹細胞への注目度が高まっていますが
「発見」というのは微妙な表現なのであって
今のところ、ほんとうに、どの細胞が、がん幹細胞である
あるいは違う、ということを明確に特定できる
技術が確立したわけではありません。
 
 
「がん幹細胞が存在することが明らかになった」
 
 
という言い方の方が正確です。
 
 
ただ、これとて、いわゆる先祖帰り、つまり
枝葉に分化した「がん細胞」が、再度、がん幹細胞に
戻るケースを発見した、とする報告もあり、
こうなると、がん幹細胞と、がん細胞は
状況によって、相互に変換しうる
「本質的に同質のもの」ということになります。
 
とはいえ、概ね、がん幹細胞 → (枝葉)がん細胞
という流れが、メジャーなのであれば、一応、両者は
違うもの、と捉えていいでしょう。
もっとも、がん幹細胞が増殖を始めると
すでに、休眠している状態のがん幹細胞ではなくなっている
可能性があります。 どの状態までが、がん幹細胞で
「枝葉のがん細胞に分化した」とは、どの状態からなのか
厳密に定義することも、検出することも、今のところ困難です。
 
 
少なくとも、がん細胞集団を特定のマーカーを出しているか
いなか、その組合せで分離すると
あるがん細胞は、自分と同じコピーしかつくらない
一方、あるがん細胞は、それまで一緒にいた他の特徴をもった
がん細胞の全てに分化した、という現象はみつかっているわけです。
 
また、他の全てのマーカーの組合せパターンの細胞に化けることができる
がん細胞は、実験用ネズミに移植すると、「臨床上の病気としてのがん」を
発症するのに対し、他のパターンの組合せを示すがん細胞は、
がんネズミをつくることができません。
 
 
 
あるいは、実験環境の中で、殺細胞剤を投与するとバタバタとがん細胞が
死んでいくのに、抵抗する奴がいる。すると再び、腫瘍をつくってしまう。
 
 
 
様々な研究から、がん幹細胞が存在すること、がん幹細胞が、
他のがん細胞に分化できること
殺細胞剤や放射線といった増殖毒に抵抗性を示すこと、
たとえ少数個でも、新たな腫瘍を
作り出す能力をもつこと、逆に、大半の
がん細胞は、単独に分離すると、腫瘍をつくることは
できない、などなど、
がん幹細胞の基本的な性質もわかってきています。
 
また、がん幹細胞の転移には、樹状細胞が一役、
買っているという説もあります。
特定の臓器を原発性とするがんは、
概ね特定の他の臓器へ転移する傾向があり、
やみくもに、方々に転移するケースは稀です。 
どうして、転移していく行先が決まっているのだろうか、
という研究はずいぶんと昔からあります。
その中で、どうも、樹状細胞が,
がん幹細胞の転移を誘導している、
あるいは、樹状細胞が招かなければ
がん幹細胞は転移しない、とする説もあります。
逆に、樹状細胞が、がん細胞の移動を妨害する
こともあるとする説もあります。
実際に、体の中で、小さな細胞が、お引越しをする際、
誰が手引きしているのかを確実に見極めるのは
無理がありますから
「どこまでほんまの話やろか」という疑問はありますが、
樹状細胞は、「実験環境の中では」
がん細胞の集団に壊死を起こす物質を放出することもあれば
同じ物質が、同じ腫瘍に対して、濃度が異なるだけで逆に
腫瘍を育成させてしまうこともある、など、
がんとは密接な関係が示唆されており、
研究テーマとしては非常に重要です。
 
 とはいえ、がん治療に使えるのかというと
どっちの側かわからない細胞ですから
むやみに治療に使うものではないと
考えるのが真っ当です。
いずれにせよ、NK細胞のように、出会ったその場で、
バッサリと相手ががん細胞ならかたっぱしから攻撃するような
細胞ではありません。 実験環境の中で、樹状細胞の
反応が、がん細胞にマイナスの影響を与えることも
あり得る(プラスの影響も与える)、というレベルの話です。
 
 
 
さて、がん幹細胞と免疫の関係はというと、免疫系が
がん幹細胞を抑えているのであろう、という状況証拠はあるわけです。
 
免疫抑制剤の長期大量投与により、がんの再発転移のリスクが
跳ね上がるのですから抑制されなければ、
免疫は、がん幹細胞のお引越しを抑えている、と考えられます。
 
 
 
ところが、がん幹細胞には、「名札」がついているわけではありません。
 
研究過程において、どうしても、細胞表面マーカー、CDの何番、
というのが使いやすいので頻繁に登場するのですが、
CDの何番と何番をもっています、
あるいは何番はもっていません、
これだけで完全に全ての細胞を分類できるわけではありません。 
また、同じ細胞でも状態によってマーカーを変えるものもあります。
がん幹細胞を含むであろう細胞集団の性質を調べることは、
ある程度できても特定のがん幹細胞を同定し、
一個のがん幹細胞を分離し、それが本当にがん幹細胞かどうか
調べるためには、長時間培養して、
腫瘍をつくるかどうか調べる必要があります。
これには気の遠くなるような時間がかかり、費用もかかります。
また、バラバラにされて、人工的な環境におかれた幹細胞は、
往々にして性質が変わってしまいます。 
 
何か薬をかければ、パッと、がん幹細胞だけが光る、とか
この薬を投与すると、がん幹細胞だけを狙い撃ってやっつける、
という便利な道具は、今のところ、存在しないのです。
 
 
TV番組では、がん幹細胞だけが光っているような説明をしますが
ほんとうのところ、がん幹細胞が光っているのか、
他のがん細胞も混じっているのか
あるいは、正常な幹細胞が光っているのか、厳密な区別はつきません。
 
 
 
がん幹細胞の発見と概ねの性質が明らかになったことによって
標準治療が、なぜ、再発転移を克服できないのか、
科学的根拠が明確になり
また、免疫の重要性がクローズアップされた、
ここまでは事実と考えられていますが、
ここから先、もっと詳細なことまで踏み込むには、
まだまだ、がん幹細胞を特定する
技術の進歩が必要です。
 
 

>>全投稿記事一覧を見る