2013.12.16.
トランス脂肪酸は、たとえ微量でも有害であり
GRASのリストから削除する、とFDAが発表して以来、
トランスなんとかはどうなのか?
というお問い合わせを頻繁にいただきます。
たぶん、よろしくはないのでしょうが、
実は、いいも悪いも、明確な根拠はありません。
そもそも、GRASとはなんぞや、ですが、
まず、「グラス」とよみます。
Generally Recognized As Safe
「一般に安全と考えられる」という意味ですが、
このリストに載ると、かなり自由に、いろんな加工食品に
使用することができます。
もっとも、天然物の場合は、昔からそのまんま食べてきた
ということで、GRASリストに載せる必要はありません。
たとえば、ややこしいのは、トランス脂肪酸は、牛脂にも
含まれていますが、これは天然物なのです。
植物の油脂にはトランス脂肪酸は、ほとんど含まれておらず
工業的な加工の際に、生じたものです。
工業的な加工を加えると、もはや天然物ではないと考えられますので
何らかの許認可が必要ということになります。
その中でも、おもいっきり規制が緩くなるのが、GRASです。
さて、医薬品の場合は、先発権というのが許可申請者に与えられ
新薬の承認を取得すれば、国によって一定期間、自分だけが販売することができます。
その点、GRASの場合、Petition (請願)といいますが、申請を出した業者でなくても
誰であっても、GRASに掲載されたら、はいご自由にどうぞ、お使いください、
となります。 一人で大枚をはたいてデータをそろえ、ペティションが通ったら、
ライバル企業も自由に参入するので、誰が鈴をつけに行くのか、共同でデータをそろえるのか
品目ごとに分担を分けるのか、様々な「お話合い」がもたれます。
一般の方があまり名前をご存じないような企業が寄り合って、
ものごとが決まっていきます。
カーギルコンチネンタル社は、名だたる穀物メジャーでもありますから、
名前を聞いたことはあるかもしれません。
ヨーロッパでは、ユニリーバと、ネスレが巨人ですが、この両社の製品は
ほぼ毎日のように、日本人も口にしているはずです。
ADM(アーチャーダニエルミッドランド)とか、マイルスになると
知られてない? でしょうねえ、、、 フランスのロケットとか、
米国のCPC(コーンプロダクツコーポレーション)、DSM、ヘキスト、
GDサール、などなど、最終製品には名前がないので、一般には知られないのですが、
巨大な企業群が目白押しです。
その中で、最大級のFood Ingredient (食添)のベンダーとして知られているのは
米国三菱です。 バイヤーからは、日本の食添メーカーの製造商品であっても
普段、米国内に人がいて、売りにくる人の会社が、意識されますので、
とにかく、何でもやってる大きい会社と映るようです。
ちなみに、米国の食品市場は巨大であり、他国をよせつけません。
食品市場といえば、まず、米国のことを考えます。
で、こうした企業群のお話合いに基き、誰かがPetition を出すのですが、
FDAは、自分で審査する能力はありませんから、基本的に、提出された
書類を読むわけです。 食品の場合、FDAの担当官は、大人しい人が
多かったですね。 医薬品の場合は、とんでもなく強烈なリーダーシップを
発揮するのがいる反面、全体的なレベルが低く(FDAは給料が安いので
あんまりWASPはいません。)、申請資料の通読をジャマイカやニカラガに
アウトソースして経費節減を図るような状況で、かなり問題が多いのです。
なので、英語力が乏しい人が読むので、絶対にスペルミスだけはやめてくれ、
と、何度も釘をさされました。
さて、話を戻しますと、トランス脂肪酸は安全だから、大量に使いましょうという
ペティションが出たというのではなく、安価に大量生産可能な、プランテーションによる
植物油脂を、大量に使用したい、という業界の思惑があるわけです。
ところが、植物油脂で、他の製品のシェアを奪うため、
水素添加という加工をしました。その際、トランス脂肪酸が生成されて
しまうのですが、これは、問題ない、と押し通し、水素添加された
植物油脂の使用はOKという状況をつくってきたのです。
植物油脂といっても、木蝋などは、無茶苦茶、硬いもので、融点も高く、
仏様にお供えする蝋燭に使われています。一方、ビーフタローは非常に
柔らかく、融点も低いのです。 牛脂の中でも、高級とされるのが
ビーフタローで、黄色っぽく、常温で固まるものと、イエローグリースという
低品位の液状のものがあります。 ビーフタローでつくられた蝋燭は
温度が低いので、ある特別な「ショー」にも使われます。
実際に、手の甲に垂らしてみたのですが、近すぎると熱くてたまりませんが、
十分な距離を経て手に垂れた蝋は、耐え難いような熱さではなく、
なるほど、気持ちがいいのかもしれない、という微妙なゾーンに入ってきます。
こういう基本的な知識を知らずに、仏様用の蝋燭で「ショー」をやったら
おそらく虐待か、下手をすれば傷害になるでしょう。
さて、プランテーションで大量栽培される植物油脂というと
コーンやサラダ菜もありますが、何といっても、パームオイルです。
こうした量産されている植物油脂は、不飽和度が高く、
家畜の油脂より、固まり難いのが一般的です。
このままでは、用途が限られるので、高圧下で、触媒を加え、
水素添加します。 すると、不飽和部分に水素が結合し
飽和度が高くなり、固まり易くなります。
この反応をとことんやれば、完全な飽和脂肪酸になるのですが
実際には、途中でとめるので、不飽和部分も残り、
その一部が、トランス脂肪酸と呼ばれる独特の構造をもちます。
これ、絵で描くと簡単なのですが、文字で説明するのは面倒なので
どこかのHPで、絵をみてください。
なんのことはない、植物性といっても、原料がそうだ、とういだけで
実際には、水素添加することで、畜産動物由来の油脂なみに、
飽和度を高めているのです。 「植物性」が、植物の油脂としての
性質をもった、という意味ではなく、「元の原料は植物なんだけど」
という意味で使われています。
そして、何の根拠もなく、「植物性だから体にいい」という
一般の人が、思い込まされてしまった迷信にうったえ、
植物性だから体にいいマーガリン、とか、植物性のミルク
(コーヒーミルク)といった、訳の分からないものを
次々に世に送り出し、本物の乳製品を駆逐していったのです。
マーガリンやコーヒーミルクを偽装食品とはいいませんし、
まったく合法ですし、植物由来である、ということも嘘ではありません。
が、きわめて、作為的です。
さて、植物性だから体にいい として推奨してきておいて、今度は、
危険だ! と、方向転換したFDA。 推奨した際もそうでしたが、
危険とする根拠も実は曖昧です。 ちなみに、植物油脂に水素添加したものは
加工物ですから、GRASリストからはずされると、個別に食品添加物としての
許可申請をし直し、ごく限定された用途に限って使用する許可をお願いするか
このまま何もせずに、使用できなくなるかのどちらかです。
一方、牛脂にもトランス脂肪酸は含まれていますが、こちらは天然物なので
GRASのルールは直接適用されません。 これが危険だなどというと
牛を食べるな、ということになってしまいますから、あの強力なロビィングパワーをもつ
米国畜産業界を敵に回すようなことはやらないでしょう。
偽装食品問題は、ある法律に触れているかどうか、よりも
そもそも、その法律、誰が何の意図でつくったの?
ということにこそ、より構造的で、巨大な問題がひそんでいます。