新型コロナウイルス対策ワクチンの有効率が94%に達するという中間報告が発表され、話題になっています。この場合、ワクチンを接種した人と偽薬(偽ワクチン)を接種した人を比較して、感染率の差異を比較したもので、重症化率の比較でも高い有効性としています。
そんなに効くものとは予想していなかったという専門家意見も紹介されていますが、そんなに効くものとは予想されない、理由は、主に二つあります。これまで呼吸器関連ウイルスの感染を予防できることを証明されたワクチンは一つも実用化されていない、こと、あくまでワクチンは重症化を防止できるかどうかが争点になっており、感染予防はどうやってもうまくいったことがないという事実が一つ目。もう一つはRNAワクチンをはじめ、新しい技術とされているものは、実際には数十年前から何度も試され、やはり、うまくいったことがないという事実です。たとえば、リポソームコーポレーションというベンチャー企業が脂質の人工膜としてリポソームと呼ばれる小胞体をつくり、その中にペプチドやDNA,RNA断片などを封入してワクチンの開発を試みたのは30年前のことです。以来、同様の試みはいくつもありましたが、そう簡単にはいきません。
では、今回は非常に画期的な成功なのか、というと、「期間」をみないと何とも言えません。ごく短期間なら、感染予防効果を発揮するものはいくらでもあるのです。たとえば、麻疹ワクチンを接種すると、翌日から直ちに、麻疹以外の多くのウイルス感染を強力に防止します。麻疹ワクチンは生ワクチンですので、麻疹のウイルスの毒性を弱めたものを実際に感染させるのですが、麻疹ワクチンを接種した後に風疹やおたふく風邪のワクチンをうっても排除されてしまいます。そこで、いくつかのワクチンを同時にうつ三種混合とか四種混合ということになっていきました。同時にうってしまえば、互いの干渉はしないからです。では麻疹のワクチンを接種すれば新型コロナウイルスの感染予防にも有効なのかというと、それはやってみないとわからないとはいえ、おそらく、ほとんど効果はないのでしょうが、ごく短期間なら、あるウイルスに感染すると、他のウイルスの感染にも幅広く「干渉」します。ところが、他のウイルスの感染への干渉はすぐに効力がなくなってしまいます。
また、生ワクチンをうたなくても、何らかの免疫刺激効果を発揮するものや、異物、毒物を投与すれば、ごく短期間なら、様々な病原体の感染を防止する作用を発揮します。さきほどの生ワクチンの場合は、ワクチン接種後、すみやかに大量のインターフェロンが放出されますので、数日間ぐらいは、他のウイルスはなかなか感染しません。毒物を投与しても、インターフェロンを投与しても、同様の効果がみられます。
ワクチンの設計においては、生ワクチン以外は、何らかの免疫刺激物質を添加します。そのため、接種直後は、どんなものでも多少の免疫刺激がかかりますので、当然、インターフェロン等の免疫刺激物質が分泌されますから、接種後しばらくは様々なウイルス感染を防止するのはある意味、当然なのです。ところが、効果が持続しないため、では、何回も接種するのかというと、今度は頻回に同じ刺激を与え続けると効果がなくなってくるという一面と、何回も大勢の人に投与し続けるのであれば、よほど、コストを抑え、接種や投与が簡単なものでないと実用性はありません。なお、mRNAワクチンの場合は、mRNA自体にアジュバント作用があります。そのためワクチン接種によって免疫全体が刺激され強い免疫副反応がでます。この状態では特定のウイルスだけではなく、あらゆる病原体に対する抵抗性が一時的に高まります。接種後短期間の有効率というのはアジュバント効果を観ているだけでは?という疑問符がつきます。
今のところ94%という数字が一人歩きしている印象が強いですが、今後、より詳細な特に長期間の効果の持続状況を検証できるデータの開示が待たれます。