2014.10.16.
青色LEDの開発に貢献された
研究者3名の方々に、ノーベル物理学賞が
授与されましたが、周囲にも、なんで物理学賞??
という疑問をお持ちの方が、何人かおられます。
誰しも、青色LEDの実用面での貢献は否定しませんし
受賞者の業績にケチをつけるということではないようですが
ノーベル物理学賞の性格としては、違和感がある、
ということのようです。
そうですね、物理学の科学的研究成果なのか、というと
少し微妙な感じもあります。
一方、実用面での成果は非常に大きい
科学的発見、発明というより、工業技術の開発
という性格の方が強いですね。
少なくとも、TVなどで露出が圧倒的に多い
中村先生は、青色LEDの発光効率を高め
発光量を確保し、実用レベルの長期安定性と
量産性を確立したプロジェクトのリーダーということで
科学的発見という感じではありません。
(後ろの方で、馴れ合い特許係争について
説明しますので、最後までお付き合いください)
一つには、受賞対象となるような研究が少ない
という事情もあるでしょう。
このところ、宇宙サイエンスや、物質や時空の基本的な
性質の研究成果が相次いでいますが、まず一つ問題なのが
あまりの規模のビッグサイエンスであり、巨大組織が協力して
研究を進めるので、誰を受賞者にするのか、判別が難しい、、、、
また、ノーベル賞は、発見、発明より相当程度の時間がたち、
評価が安定してから授与するのが一般です。
あまり最新の研究に授与すると、直後に、受賞対象となった
研究の評価がひっくり返るという可能性もあり、実際、
経済学賞では、大きな事件がありました。
さて、私自身は、中村先生とは面識もありません。
上席だった徳島大学のS教授は、海外のメーカーを
ご一緒に、ご案内したこともありますが、もちろん、
御立場ある、身近な方から聞いた話を、
べらべらとブログに書くつもりはありません。
赤崎先生や天野先生の研究については、
随分と、論文なり、データなりを拝見させていただきましたが
それは、青色LEDではなく、UV-LED(紫外線LED)に
ついてのもので、青色LEDの基礎研究は、もうずいぶんと
昔のことですから、初期段階の研究状況の詳細は知りません。
ちなみに、両先生は、UV-LEDの基礎的な研究を仕上げられ、
その後、創光科学というベンチャーに参画されました。
今日、UV-LEDの研究開発に関する発表は沢山ありますが、
創光科学は、実用レベルの技術を確立し、技術的には先頭を
走る組織でしょう。
ちなみに、LEDというのは、とりあえず、通電すると光ることがある、
そこまでいってからが大変です。
青色LEDにおいても、窒化ガリウム系が有望というところまでは
いったのですが、その後、多くの研究者が実用化に挑戦し、
挫折していきます。 しっかり製品の量産にこぎつけた中村先生の
業績は、揺らぐことはありません。
その上で、敢えて申し上げますが、メディアがつくりあげてきた
中村せんせいワールドには違和感があります。
なにせ、本人と会ったこともないので、ご本人も、本当の自分と
違うとお考えなのかどうかは、知りませんが、あくまで、メディア報道の
中の中村せんせいのイメージについて、書かせていただきます。
会社に巨額の収益をもたらした社員には、十分な報酬を払え、
これは、当たり前ですよね。
問題は、バランス感ということでしょう。
実際に、「儲ける」までには、多くの人々の知恵と努力が必要です。
素材を選び、窒化ガリウムの他に、インジウム、リン、など、いくつか
特性が異なる材料を選び、純度を高め、配合比率を少しずつ変えながら
延々と、試験を繰り返します。 LEDは、サファイアなどのディスク(円盤)の
表面をつるつるにし、そのままとか、窒化ケイ素を撃ち込むとか、
事前に加熱しておく、などなど、まずここにノウハウがあるのですが、
このディスクの上に、素材を吹き付けます。
固体を精製するのは限度がありますが、高温でガス化すると、もっと
純度を高めることができます。
高速噴流とし、少し回転させれば、遠心力の微妙な違いによって
連続的に、ガス成分を分離させることができます。
ガス化した素材の純度や密度を調整し
噴きだし、素材同士を反応させながら、ムラなくディスクの上に
吹き付けていきます。 一般に、基盤は、くるくる回転させながら、
今度は、基盤を何枚か並べたプレートを逆方向に回転させ、ガスの
吹き出し口も回転させる、途中にファンを回す、
など、どうやってムラなくやるか、に
細心の工夫を凝らします。
そのため、装置メーカーは、一社がほとんど独占なのですが、
一台ごとに、微調整が必要であり、
LEDメーカーが自分で装置をつくってしまうこともあります。
このふきつけ方法に関して、様々な方法があり、
特許性のあるなしについて、大きな議論が起こりました。
こうして、分子一個ずつの厚さの層を一層ずつ重ねていくように
結晶を成長させます。 すると、ディスク基板から、垂直に微小な
柱が立つように結晶が成長していきます。 ある特性の層をつくり
逆の特性の層をつくり、これを100回とか繰り返し、分子レベルの
ウェハー構造をつくります。 結晶構造がぐちゃぐちゃになると
使い物になりませんが、完璧に整然とした構造でも、今一、よろしく
ありません。 ところどころ、ひずみがあると、エネルギーが溜まり、
強く光る、こういうものですので、さじ加減が難しいのです。
ここが実用化の大きなポイントです。
プレスリリースでは、各社、「高い発光効率を実現」と発表するのですが
裏を返せば、それだけ素子に負荷がかかっているので、
効率を上げると、一般に、寿命が縮むのです。 20時間なら
安定発光を保証する、と言われると、ごく限られた用途にしか
使えません。 1000時間をこえてから、そろそろいい感じ、
更に、2500時間とか、安定発光する寿命を延ばしていきます。
逆に、発光効率が低いままだと、安定性だけ延ばすことは
やりやすいのですが、意味はありません。
また、効率だけではだめで、発光量の絶対量が多くないと
簡単な話、明るくなりません。
発光効率・発光量・安定発光寿命 この三つが揃って
実用レベルに達し、その上で、一個ナンボするの?
まで揃わないと実用性はありません。
さて、このガスをふきつける、
エピタキシャル成長というのを、繰り返すのですが、
温度を何度に設定するのかも、重要なポイントです。
そして、反応時に水素が発生し、
この水素が結晶に溶け込むと発光効率を下げて
しまいます。
どうやって、水素の溶け込むを抑えるのか、あるいは
飛ばすのかも、ポイントの一つです。
面倒なことをせずに、後から、電子レンジでチンすれば
水素は飛ぶのですが。
こうして、2インチ(5cm強)の円盤にうっすらとLEDの層が
積み重なり、縦横、四角いチップにカットしますが、一枚の
ディスクから、1万個以上のチップができます。
樹脂のシートにディスクを貼り付け、カッターで、基盤は上から下まで
完全にカットし、樹脂シートは、一部にカッターの切れ込みが
入り込むところで寸止めします。
すると、小さなチップがバラバラになることなく、樹脂シートを
全周方向に、引っ張って、広げると、
ビーッと大きな丸いシートに伸ばされ、
チップが互いに、引き離されていきます。
電極をつけたり、とか、樹脂に封入したりとかして
やっと製品です。 やっかいなのは、電極をつけて
光らせないと、ちゃんと品質がOKなのかどうか
判別が難しいのです。
もちろん、樹脂にも様々な工夫があります。
蛾の目玉(モスアイ)の表面と同様の微小な円錐構造を
コーティングし、光の取り出し効率を高める(一般の
カメラのレンズにも使われている技術です)、、、、
ま、相当のノウハウの塊となっています。
青色LEDがつくれれば、黄色の蛍光物質を混ぜておくことで
白色LEDがつくれます。 赤、緑、青のLEDをくっつけて光らせても
白になります。
更に、LEDの発光をどうやって、均一に分散させるか、、、、
一つ一つの工夫は物凄いイノベーションではないのですが
巨大市場を形成するには、いくつもの工夫が積み重ねられています。
そして、サラリーマン研究者の成果物が、
会社に莫大な利益をもたらす上で
大きな役割を果たしたのが、「特許戦略」です。
一時は、青色LEDのメーカー間の特許係争が
何度も、新聞紙上を騒がせましたが、実際には、
青色LEDに関し、「現実に他を排除できるような
特許性はありません。」
両社、とんでもない数の特許を浴びせ合い、
(1000本でしたっけ? 数字は忘れましたが
目録みるだけで、読む気は失せる数でした)
こうなると、全部、読むのも大変で、私も
全部は読んでませんが、これが争点と
言われる特許は読んだ上で、関係者に
確認しました。
特許性がない、ということではないのですが
「回避可能」ということです。 実際、後から参入を
果たした競合各社の技術は、先行メーカーの特許に
抵触するものではありませんでした。
結局、二社が激しく特許係争を闘う間は
他のメーカーは物騒だからと、手を出さなかったのですが
やがて、回避できない特許はない、ということに気づき始めた
他のメーカーが青色LEDの量産を始め、市場参入を果たしました。
結果、一個200円もしたチップが、あっという間に,
一個6円にまで下がりました。
今の値段は知りません、、、、
あの人一人だけの努力で、稼いだのではない、、、
会社側の説明の方が、納得感がありますが、、、
みなさま、如何でしょうか、、、、