2015.5.18.
サイエンスゼロで
チェックポイント阻害薬の
番組をやっておりましたので
問い合わせがきています。
少し前に、このブログで書きましたので
重複してしまいますが、旬な話題ということで
ご容赦ください。
まず、背景として、がん治療の閉塞感があります。
結局、何をどうやっても、進行がんの生存期間は
延びなくなっているのです。
もちろん、ANK療法がもっと普及すれば
劇的に変わるはずですが、現時点では、
「世界のがん治療」の
趨勢に影響を与えるような普及率ではありません。
そこへ、免疫系の新薬が、ある程度、顕著な
生存期間の延長を示したので、米国で
大フィーバーが起こりました。
ピークは、2012年から、2013年にかけてです。
日本に波がくるまで、多少、時間がかかります。
やっぱり、免疫か、というある程度、期待されていたことが
現実になった、夢はやはり実現するんだ、という希望が
広がったようです。
とはいえ、そう、片っ端から、どんな患者さんでも
劇的に効果があるのではなく、悪性黒色腫の一部の患者に
よく「効いた」ということです。
それでも、十分、画期的です。
この薬、臨床上の効果が与えたインパクトよりも
なるほど、「免疫抑制の緩和」が、「がん治療の鍵」
であることを、臨床上の治療効果として証明して
みせたことに、今後の更なる大きな発展を期待
させています。
すでに19世紀には、「コーリーの毒」の臨床実験が
行われ、その後、100年以上に及ぶ、がん免疫治療の
研究から、「免疫抑制」を打破することが、がんの
「完治」につながるということはわかっています。
ところが、非常に強い刺激を加えないと
十分な効果を発揮できないため、
薬物をはじめ、物質を投与する方法では
安全に免疫抑制を打破することはできないと
されてきました。
それで、体外に免疫細胞をとりだして培養する
免疫細胞療法へと発展していくわけですが、
チェックポイント阻害薬は、免疫細胞に対する
免疫抑制信号をブロックするものです。
ここまでは、よく言われていることです。
抑制信号を抑制すれば、結果的に
刺激を加えたのと同じ効果が期待できる、
のかというと、必ずしも、そうなっていないのですが
概念としては、とにかく、「免疫抑制を抑える」ことが
重要であり、有効であることを「薬物投与」で示したのは
画期的です。
かといって、いいことずくめではなく
今は、この薬の限界の方へ、議論がシフトしています。
まず、免疫制御システムは非常に複雑であり
そう簡単に、単純な物質でコントロールできるものではありません。
チェックポイント阻害薬も、標的のレセプターが確認できない
がんに対して、効果を発揮しているケースもあります。
メカニズムストーリーとは異なることが起こっているということです。
また、抑制信号を抑える相手が、CTLを想定しているところが
「限界」となっています。 これも、実際は、他の免疫細胞を
活性化している可能性があります。NK細胞を含めて、です。
ともかく、CTLの活性化がみられるようですが、CTLの大半は、
体内のがん細胞を攻撃しません。 漠然と、CTLへの抑制信号を
ブロックしても、がん細胞を攻撃しないCTLが、大量に
活性化されてしまいます。
そのため、およそ2~3割の確率で、
自己免疫疾患が発生しています。
抑制が弱まったCTLが、正常細胞を攻撃する
これは当然のことです。
CTLである限り、
正常細胞を攻撃するものも含まれ
がん細胞を攻撃するものは、ごく一部であり
全く攻撃できない、がん細胞が多数存在し
どんなに活性化しても、NK細胞の攻撃力には遠く及ばない
という限界があります。
それでも、有効なら、使っていけばいいわけですし、
番組でもとりあげていたように、では、どういう患者さんなら
有効性を発揮する確率が高くなるのかという研究も重要なことです。
もっとも、生体反応は非常に複雑ですので、そう簡単に
白黒はっきりわかれる診断薬が開発できるとは思えませんが
ともかく、免疫抑制の緩和に関する研究は、非常に重要です。
では、NK細胞への抑制信号をブロックする薬剤は
つくれないのでしょうか。
絶対に無理とはいいませんが、
物凄く、複雑な制御系なのです。
そう簡単に、薬物投与でコントロール
できるとは思えません。
それなら、的確に、NK細胞に刺激を
与えていく方が、現実的、と考えます。