藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2015年10月06日

  

えとせとら, くすり

2015.10.6.
 
 
大村智先生が
ノーベル賞を受賞されました。
 
まずは、おめでとうございます。
 
 
基礎研究というより
地道な新薬のスクリーニングを
事業につなげた功績ですから
ノーベル賞の評価基準も
ずいぶんと変わってきたものです。
 
LEDも実用化研究に対するものですから
実社会に広く普及した技術開発に対して
賞を贈るという方向感が、より明確に
なったということかもしれませんし
一方で、iPS細胞のように、まだ基礎研究の途上の
ものにノーベル賞という、従来よりはるかに早い段階で
授与もありました。
 
 
大村先生にお会いしたのは
1984年、まだ新入社員の時でした。
 
人体用ワクチンのライセンスの件で
北里研究所の担当者にアポを
申し入れていたら、なぜか
当時、副所長であられた
大村先生にご対応いただきました。
 
今から、30年以上前の話ですが
当時、すでに、相当な「有名人」でした。
 
 
日本初の新薬が世界のメジャーな
医薬品メーカーにライセンスされるということは
「まずない」という位、稀だった時代に、
日本から、世界最大NO.1の医薬品メーカーであった
メルク・シャープ・アンド・ドーム社に、ライセンス供与された
大型新薬ということで、異例の大成功と
もてはやされていました。
 
もっとも、日本側で、新薬を開発するだけの
リソースはありませんので、あくまで、候補物質の
探索の一部を北里でやった、というだけで
主たる開発業務は、メルクがやっています。
 
新入社員の訪問にいきなり時の人が
でてこられたので、面食らいましたが
当時の上司の奥さんが、
北里研究所オーナーファミリーという
ご縁があって、新米さんの対応に
わざわざエースが自らでてこられた
という事情があったようです。
 
 
その後も、北里研究所には出入りを
しておりましたが、相手は、雲の上の人に
なっておられましたので、時折、この件は
如何でしょうか、と、なるべく、電話で
すませるようにしておりました。
 
 
印象としては、精悍なビジネスマンという
ところでした。 新人相手に、驕りなく
丁寧にお話をくださり、大変、わかりやすい
話の筋立てで、北里研究所の今後の方針に
ついて、よく把握することができました。
 
大ヒットを飛ばしたイベルメクチンについては
私が、業界に入った時には、もう開発済で、
とっくにヒット商品になっていましたので、
この商品自体については、コピー薬の話が
よく舞い込んできました。
ウベルメクチンとか、名前からして
堂々と、「コピーなんです」と宣言しているような
ものが、次々に開発候補にあがっていました。
 
 
開発手法としては、よくあるものです。
ひたすら土壌サンプルを集める。
その中の放線菌などを拾う。
他の微生物を傷害するような
抗生物質を出しているものを探す。
ここまできたものを、リードコンパウンドと
いいますが、そのまま薬効の評価に入るものもあれば
一部、化学修飾して、少し毛色を変えた物質にして
薬効を調べることもあります。
 
 
ひたすら地道な作業ですが
まず、北里研究所というのは
ワクチンメーカーです。
 
阪大微研と北里研究所が
ワクチンメーカーの双璧でした。
そこで、抗生物質の研究をやるというのは
相当、異端です。
そこで、動物薬でも大手だった、医薬品メーカー
スクイブ社などに、開発費を出さないか、と
打診して回られたようですが、結果的に、
メルクと組むことになりました。
御経歴も、あまりこの世界では一般的ではない
ものですが、ワクチンの権化の会社内で
抗生物質を開発するということの方が
はるかに異端です。
 
一見、ありふれた開発のようで、ねらい目がよかったわけです。
 
細菌を傷害する抗生物質は大量に商品化され
既に、細菌のもつ特定の物質を狙い撃ちにする
ドラッグデザインも行われ、今更、ただ、土くれサンプル集めても
という時代認識があり、スクイブも今からそんなことやったって、、
というところだったようです。
 
人体用医薬品市場は、動物用医薬品市場の
ざっと100倍。 人体用に開発された抗生物質の
お古を、動物用に回すのが一般的でした。
ヨーロッパでは、菌を醗酵させて抗生物質を
つくらせ、精製されたものを人体用に、
醗酵カスにも抗生物質が残ってるということで
カスを動物用、という使い方をしていました。
最初から、動物用に抗生物質を開発する
物好きはあまりいなかったのです。
 
一方、ウイルスとなると、抗生物質は効きませんので
これはどうしようもありません。
ワクチンで予防ということになるのですが
ワクチンというのは、そう滅多に効くものではありません。
ウイルス感染症の伝播には、昔も今も、「隔離」が
基本策です。 
 
さて、寄生虫というのはやっかいです。
 
動物用の寄生虫を狙った、
そこがミソでした。
 
寄生虫は、多細胞生物で、細菌よりもはるかに複雑な
構造をしています。家畜やペット、人間の体内にいる
正常細胞は、いわば「ハダカ」の状態ですが、
そこへ紛れて、粘膜やら、何やら、防御シールドを
駆使する生き物として、寄生虫は存在します。
これをやっつけて、周辺のハダカの正常細胞を
傷めないというのは、相当の難易度です。
 
寄生虫は、免疫抑制系のT細胞などを呼び寄せたり
自分の周辺に腫瘍を作り出したりします。
体表に、目につく抗原物質を作り出し、これに免疫細胞を
ひきつけておいて、今度は、別の抗原物質に挿げ替えたりする
こともあります。マラリア原虫などは、体内に入ったときは、
共通抗原を発現していますが、その後、2日おき位に
表面抗原の模様替えを行い、免疫システムをかく乱します。
 
寄生虫の研究というと、牛のタイレリア原虫でよく行われますが
イベルメクチンも、牛の消化管内の原虫を排除する効果を示しました。
マーケッティング上は、まず、「高く売れる」コンパニオンアニマル
つまり、ペットを狙います。
ブロイラーは、1羽につき
かけてもいい薬剤費は、4円程度。
これを超えるなら殺して肉にする方が費用対効果上、得とされてきました。
ブタの場合、数百円の薬剤費なら容認されます。
肉牛は、もう一声、ただし、長期間、肥育してから肉にするので
財務上、肉牛肥育ビジネスはしんどいので、かける薬剤も
抑えられ、病気になったら、その場で肉にする、という傾向があります。
 
え?
 
病気の家畜を食わせているのか???
家畜は、病気だらけですよ。
大体、がんになってる確率は半分くらい。
人間に感染しないものは、まあいい、という考え方です。
トリヒナのような寄生虫は、大抵いますけど
それは、加熱によって、死んでもらうという発想。
血液の中には、いろいろいるのと、そもそも
血液は腐敗しやすいので、血抜きは基本。
寄生虫を気にしはじめると、何のことはない
自分の体の中にもウジャウジャいるので
いちいち目くじらを立てていたら
生きていくことはできません。
 
乳牛は、万円する薬でも乳房炎とかなら
使います。 デイリーキャッシュフローという
財務用語は、日銭稼ぎという意味ですが
ベンチャー企業をみる場合、キャッシュカウ
という言葉を使います。
乳牛は、毎日ニコニコ現金収入を
もたらしてくれるので、財務上は
好ましいバランスシートになりますから
薬剤代の予算も桁違いです。
 
といっても、やはりコンパニオンアニマルは
お金に換えられないという飼い主が
いくらでもいますので、高い薬でもよく売れます。
 
イベルメクチンは、犬のフィラリア原虫対策として
マーケッティングに成功します。
かつて、飼い犬がフィラリアにやられるのは日常茶飯事でした。
カテーテルを投入し、とげとげの針金のようなワイヤーを
心臓の内部に入れて、ひっかけたフィラリア原虫を取り出すと
もう、ウジャウジャとでてきました。 イベルメクチンの登場で
フィラリア被害がめっきり少なくなりました。
動物用医薬品は、国内全体で600億円程度、
ワクチンが200億円程度。
これでも、日本は、世界第二の動物薬大国です。
それが、メルクが世界市場に売りまくったため
たった1品目だけで、年商1000億円ビジネスに育ちました。
 
今回の受賞理由としては、むしろオンコシルカ対策の
功績を買われているのでしょう。
 
アフリカの三大疾病といえば、マラリア、トリパノゾーマ
そしてオンコシルカでした。
 
トリパノゾーマは、ツェツェ蠅が媒介する寄生虫で
人が眠るように死んでいくので、眠り病とも言われます。
蠅といっても、巨大で、四角い箱のようなボリューム感満点。
ブヨよりはるかに大きく迫力があります。
動物の生き血以外は、何も口にしない、というか
口がないのですが、ど太い吻を突き出しており
それで獲物の血を吸います。 こいつが数万匹飼われている
飼育室に入った時は、全神経最大レベルの警戒態勢でした。
 
 
で、オンコシルカは、巨大な腫瘍をつくります。
アフリカで、腫瘍というと、がんより、まずオンコシルカを
疑いました。 これ、ほんとに大きい。
メートル級の腫瘍ができる人もいます。
体中を食い破るというより、しこたま栄養を吸い取るので
患者さんは、衰弱していきます。
 
これといって対策がなかったオンコシルカに
イベルメクチンが威力を発揮します。
 
 
それにしても、ノーベル賞はどうするんでしょうねえ。
 
 
生理学なら基礎研究
医学なら、実学であり、科学というより技術ですから
医学賞ということでは、医療上の実用ということでも
筋が通るような気はしますが。。。
 
 

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