2016.4.18.
前回の続きです。
初めてこのページを見られる方
前回の内容を忘れた方
申し訳ありませんが
前回のをお読みください。
悪性リンパ腫や
成人T細胞白血病細胞を死滅させる抗体を
複数の抗体産生細胞を融合させる
手法で樹立した
という発表について、です。
とりあえず、「抗体」を取りました。
というレベルから、「抗体医薬品」を
実用化するまでには、
非常に長い道程があり
今回の報道は、その最初の
ところにいますよ、というものです。
抗体の性質を安定して維持しながら
大量生産する、とか、製造コストを
追い込む、とか、やるべきことは
山のようにありますが、まず、
基本となる抗体のデザインをする際
原理的に難しい問題がたちはだかります。
結論からいうと、
「がん細胞に対する抗体」
というのは、非常に曖昧なもので、
概念としてはありえても、実在はしない
というほど、とらえどころのないものです。
実用化された抗体医薬品は、
正常細胞にも、がん細胞にも存在する
素性が明確な特定物質を標的にするものです。
抗体をとりあえずとってくると
かなり適当に色んな物に結合します。
この方が、実験の初期段階では
扱いやすいのですが、これでは
何に結合するかわかりませんので
「特異性」を高める
という作業が繰り返されます。
どうやるかは、このブログにも
書いたことがありますが
大変に地道で
ストレス満点
骨の折れる仕事です。
さて、うまく特異性を
高めることができたとしましょう。
最初の抗体をきっかけに
実際には、別物の抗体をとっているのですが
ともかく、特定の標的にシャープに結合し
他の物質には結合しない、
こういうのを特異性といいますが
十分に特異性が高くなった、
とします。
すると、新たな問題が発生します。
余計な物にはくっつかなくなったのですが
肝心の標的に結合しないケースが
でてくるのです。
そう都合よく
標的物質に完璧に結合し
標的物質以外には結合しない
という便利な抗体はつくれません。
本来、抗体というのは
似たような構造のものがあれば
割と何でも結合するものなのです。
精製された特定の物質であっても
物質というのは、実際には
絶えず、「揺らいで」います。
立体構造が変化しています。
単純な化学物質であっても
「遷移」といいますが
いくつかの立体構造の
バリエーションがあり
次々にシフトしまくっています。
ある瞬間の立体構造には結合しても
次の瞬間の別の構造には結合しない、、、、
これが高分子となると
もっとややこしい、、、
あらゆる物が絶えず揺らいでいる 。。。。
抗体も高分子ですから
絶えず揺らいでいます。
単純な 鍵と鍵穴
そういう関係になっているのではありません。
そのため、
特異性をビンビンに高め過ぎると
狙っていた物に結合しない「瞬間」
が永くなるのです。
相手が、単純な物質でもそうなのに。
「がん細胞」を標的にするとなると
相手の細胞表面は、絶えず変化し
表面に発現する物質も変化し
発現している物質の立体構造も変化し
ありとあらゆる状況が変化していくので
狙っている通りの細胞に確実の
結合してくれるとは限りません。
ましてや、実験用の標的がん細胞は
血統書付きの培養細胞です。
患者さんの体内のがん細胞は
「雑種」です。
それも「超超超 雑種」 です。
ありとあらゆる変化のバリエーションを
そろえた様々ながん細胞が、ごっちゃにいるので
そこへ特異性を高めた抗体を投入しても
思っているように特定のがん細胞に結合
というわけにはいきません。
抗体は、「がん細胞」を認識することはありません。
もっと微細な細胞表面物質がある立体構造を
とっている時のある部位を認識するのです。
なので、ナントカ細胞に対する抗体を取った
といっても、いったい、どんな物質を
認識しているのかわかりません。
ごくありふれた物質を標的にしていても
試験管の中に、特定のがん細胞しか
存在しない環境で実験すれば
確実に標的がん細胞を攻撃してくれます。
これが、患者体内となると、
他のあらゆる細胞に結合するのかもしれません。
ましてや、マウスでの実験の場合
マウスの正常細胞には存在せず
ヒトの細胞によくある物質に結合する
だけなのかもしれません。
がんネズミの場合、
マウスの正常細胞の大集団の中に
ヒトがん細胞が、少しいるわけです。
これなら、ヒトの細胞なら割となんでも
結合する抗体を投与すれば、
がんネズミ体内のヒトがん細胞だけを
攻撃しているようにみえてしまいます。
まだまだ、本当に役に立つ抗体なのかどうか
ここから先が、相当、長いのです。
(続く)