藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

TOP

2016年04月23日

  

がん, 免疫

2016.4.23.

 

 

「抗体を取りました」から、

「抗体医薬品」を開発しました

までは、相当の道程がある、、、

という話の続きです。

 

  1. からの続きですので

初めて、このページをご覧に

なられる方は、お手数ですが

  1. からお読みください。

 

 

 

通常、異物を強引に接種して

取れてくる抗体は、

「中和抗体」です。

 

かつては、

「保護抗体」

と呼ばれたこともあります。

 

抗体は抗原を攻撃するという

イメージで語られることが多いですが

人工的に接種した抗原に

対応する抗体のほとんどが

中和抗体であって、

抗原を攻撃するものではありません。

むしろ、他の免疫システムから

抗原を見えなくすることで

抗原を保護する傾向があります。

 

一般の人がイメージするのと異なり

実際には、ほとんどのワクチンには

顕著な効果がないのは

中和抗体を誘導するに過ぎないからです。

 

中和抗体が

抗原に結合しても

ただ、結合しているだけです。

 

 

 

標的を破壊するためには

CDCC活性とか

ADCC活性と呼ばれる

機能を誘導する必要があります。

 

たとえば、CDCC活性というのは

体内に存在する「補体」という

一連の炎症関連タンパク質の

連鎖反応を惹き起こすことで

炎症爆弾を爆発させる

というものです。

 

 

標的を物理的に破壊するには

CDCC活性が高い抗体を

取ってくる必要があります。

 

 

これを、ごってりと

てんこ盛りにして

試験管の中にいる

(実際には、試験管はあまり使いませんが)

がん細胞に浴びせて

その際、大量の補体を加えておけば

バンバンと炎症反応が起こり

がん細胞の細胞膜は

破壊されてしまいます。

 

CDCC活性の強い抗体というのは

単独で存在する時は何もしませんが

抗原に結合し

抗原抗体複合体となることで

立体構造が変化し

補体爆弾の信管として

爆薬の爆破スイッチを押すのです。

 

 

これを患者体内に投与すれば

人間の体内は補体だらけですから

がん細胞を爆破してくれる、、、と

期待されます。

で、実際にやってみると

大抵はうまくいかないわけです。

 

 

 

やってみると、正常細胞にも

いくらでも結合する、、、、

たまたま実験の時に使った

正常細胞には反応しなかった、

と思っても、体内に60兆個もいる

正常細胞の大集団ともなると

大抵、その中には、がん細胞特異的なんだと

思い込んでいた抗体が結合するものがいる

ということで、没になるものは

数知れません。

 

他にも大きな障壁があります。

 

 

エンドサイトーシスと呼ばれる現象です。

 

 

 

抗体が細胞表面の標的物質に結合し

抗原抗体複合体を構成すると

多くの場合、細胞は、抗原抗体複合体を

細胞内にとりこんでしまいます。

 

この現象を

 

エンドサイトーシス

 

と言うのですが

取りこまれた抗原抗体複合体から

抗体は切り離され

多くは、細胞外に放出されます。

抗原の方は、

とりこんだ際に包んだ袋の中に

閉じ込められ

消化酵素などで分解されることも

あります。

 

 

アービタックスという抗体医薬品の場合

抗体が細胞増殖信号を受け取るレセプターの

端の部分に結合することで、物理的に

細胞増殖信号物質が、

レセプターに結合するのを

阻害します。

一方、エンドサイトーシスも起こるようで

標的レセプターであるEGFRが

細胞内に取り込まれて

「数が減る」わけです。

これでも、増殖信号の伝達を

ブロックする機能を発揮するので

薬効につながります。

もっとも、ADCC活性を増強する

効果を発揮するには

エンドサイトーシスは

邪魔になります。

あくまで、抗体が細胞表面に

留まって、

NK細胞とも結合し

NK細胞の攻撃効率を高める

機能を発揮する必要があります。

 

 

さて、抗体医薬品リツキサンの場合

標的のCD20は、B細胞に多く

みられる物質ですが、

リツキサンの場合、

強いCDCC活性と

ある程度のADCC活性が

作用機序となっています。

つまり、リツキサンは

細胞表面に留まって

補体爆弾を爆破させたり

NK細胞を

呼び寄せる必要があります。

エンドサイトーシスで

細胞内に取り込まれていたのでは

役に立ちません。

 

リツキサンもある程度

エンドサイトーシスを受けるようですが

開発段階で、ライバル候補は次々に

脱落していきました。

理由はエンドサイトーシスです。

CD21をはじめ、

B細胞表面に発現する

ありとあらゆる標的物質に

対する抗体が取られたのですが

尽く、エンドサイトーシスによって

細胞表面から消え去り

爆弾のスイッチを押す効果を

存分に発揮することができません。

 

その中から、辛うじて、ある程度

エンドサイトーシスを起こさず

細胞表面に留まる傾向が強い

リツキサンが生き残ったのです。

 

 

今回、発表された抗体も

CDCC活性によって

標的細胞表面に打撃を与える

ものであるなら

エンドサイトーシスで

早々に消えたのでは

役に立たないということになります。

 

 

実験の際には

大量の抗体を一気に

標的細胞に浴びせますので

しっかりと標的細胞を

「爆破」してくれますが

患者体内に投与する場合

抗体ははるかに薄まりますので

実験通りにはいきません。。。。

 

 

などなど。

 

 

要するに

 

メディアが報道する

研究段階にあるものは

まだまだ使えるレベルに

たどり着くまで

相当の道程があり

ほとんどが

途中で消えていくのです。

>>全投稿記事一覧を見る