藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

TOP

2016年09月30日

  

がん, 免疫

2016.9.29.

 

 

シカゴ大学の中村祐輔教授が、爆発的ながん免疫療法を完成させた、と産経新聞さんが、9月28日付で報道され、これは何ですか、という問い合わせをいただいております。

 

報道をみただけですので、ご本人の語っておられることが正確に記事になっているのかどうかはわかりません。 あくまで、報道を見た限り、のコメントということで、ご本人が読まれたら、俺はそんなこと言っとらん、とおっしゃるかもしれないことは、ご了承ください。

 

まず、祝詞に、免疫チェックポイント阻害薬が登場して、患者自身がもつ免疫力の重要性が証明され、というメディアとしてのコメントがありますが、これは明らかな間違いです。 がんと免疫の密接不可分な関係は、19世紀には明らかになっており、免疫細胞療法の有効性も80年代には確認され、さらに欧米では、90年代から分子標的薬が登場、今日では、従来型の殺細胞剤を抑え、売上ベースでは、抗がん剤の主役に躍り出ています。 分子標的薬は、基本的に、免疫にダメージを与えない設計となっており、第一優先として、ADCC活性をもつものの開発が企図されます。 ADCC活性、つまり体内のNK細胞の攻撃効率を高める働きを作用メカニズムとするものです。実際には、ADCC活性をもつ薬剤をみつけるのは容易ではないため、ADCCなしのものも多く上市はされます。 免疫チェックポイント阻害薬も、当座の本命と目される現在、米国で承認申請中のものは、やはりADCC活性をもつものです。 とっくに、NK活性をサポートする抗がん剤が世界標準となっているわけで、いまさら、免疫系の治療の光明が出てきたというのは、あまりにも事実誤認が甚だしいです。

 

さて、主題は、がん患者体内から、がん細胞を傷害するT細胞をみつけ、その受容体遺伝子を解明、これを患者自身のT細胞に導入し、1~10億個レベルまで遺伝子改変T細胞の数を増やし、一気にがんを殺す、と報道されています。

 

この数字は、取材した人が間違えたかもしれませんが、1~10億個レベルのT細胞など、さしたる戦力にはなりません。

 

まず、がん細胞を傷害しようがしまいが、細胞傷害性をもつT細胞、昔はキラーT細胞と呼び、今は、なんでもかんでもCTLと呼ぶようになってきましたが、これは単独で体内に投与しても、機能しないことが証明されています。キラーT細胞というのは、免疫刺激能がほとんどなく、強い免疫抑制下の患者体内に投与しても、直ちに活性を失うのです。 効果を狙うには、体内の免疫抑制を緩和するための激甚な前措置が必要であることが確認されており、それを薬剤投与という形で行うということなら、残念ながら、とても安全に実施できるものではありません。つまり、実用性はない、ということです。

 

そもそも、患者体内から取り出したがん細胞と、患者本人のT細胞の大集団、血液数リットル相当から採取されたT細胞集団を、共培養し、適切に活性化状態を維持すると、目の前のがん細胞と型が合うCTLが爆発的に増えてきます。1~10億個などというレベルではありません。桁が違います。これを体内に戻せばいいのです。 もちろん、免疫刺激下で投与しないと効果がないので、ANKと一緒に投与されます。ちゃんと顕微鏡下で、がん細胞を殺すことを確認した、本物のCTLであり、大量培養の上、実用に供されています。しかも、値段はただ(無償)です。 無料となっているのは、どんなに頑張っても、所詮はT細胞だからです。 がん細胞を攻撃するパワーはNK細胞の足元にも及ばないので、無償提供しているのです。

 

そもそも、がん細胞特異抗原というのはみつかっていません。

 

がん細胞も、いろんなものがおり、一つの腫瘍の中にも、型が様々ながん細胞がおり、いろんな型のがん細胞の集団に、いろんなT細胞集団を合わせて、膨大な種類のCTLを増殖させないと、腫瘍の中のごく一部のがん細胞しか攻撃しないCTL集団になってしまいます。

 

がん細胞を攻撃することを確認したCTLといっても、隣のがん細胞は攻撃しないわけですが、ともかく、あるがん細胞を殺しました、と確認されたCTLの受容体遺伝子を大量コピーした上、患者本人のリンパ球に導入しようという話になっています。ところが、一種類や二種類の遺伝子だけでは、まったくバリエーションが少なすぎます。患者体内のがん細胞の多くを攻撃するには、膨大な種類の遺伝子を用意する必要があります。 また、そう効率よく遺伝子というものは細胞の中に入ってくれませんし、入っても、定着して、ちゃんと機能するかはまた別の問題です。結局、どこかの段階で、目的の遺伝子の導入がうまくいったT細胞をスクリーニングすることになるのでしょうが、これを、クローン培養するとなると、数がそろいません。遺伝子を導入したといはいえ、増殖能において正常細胞である限り、無制限に増殖することはありませんし、もし無制限に増殖したら、これはもう白血病になってしまいます。体内から採取されたNK細胞は、がん患者さんの場合、1000倍まで増えることは稀です。 T細胞の場合、もっと増えるのですが、そうはいっても、1個のT細胞を選別して、そこから増やすと、これは億まではなかなかいかない。

 

ともかく、がん細胞を攻撃するCTLは選別できるので、そのまま増やせばしまいのところ、なんで、こんな面倒なプロセスを取るのか、意味がわかりません。

 

マウスで、がんが消えたと報道されていますが、これはよくあることで、マウスの細胞集団の中に、ヒト細胞(がん細胞)を放り込んで実験するのですから、最初から、ヒト細胞は、異物として、マウス細胞集団に排除される寸手の状態です。そこへ僅かな刺激を加えても、簡単にヒトがん細胞は排除されます。 試験管の中で遺伝子導入リンパ球が、がん細胞を殺したとしていますが、もともと、体内にいるリンパ球集団が、ある程度の数そろっていれば、その中にがん細胞を殺すものがおり、がん細胞と一緒に培養すると、増えてきます。

 

また、がん細胞を特異的に攻撃するので副作用がない、としていますが、遺伝子操作されたリンパ球が、如何なる標的を攻撃するかは予測不能です。 細胞に導入された遺伝子がどのような形で定着し、機能するかを完全にコントロールすることはできません。

 

 

完成には程遠いですね。。。。

>>全投稿記事一覧を見る