2016.10.29.
がん患者さんの中で食事療法に関心をもたれる方は非常に多いようです。
最近、多くのがん患者さんがご覧になっているらしい有名人のブログにもニンジンジュースが登場します。
毎日、一杯のニンジンジュースを飲むとがんはどうなるか、体内のNK活性はどう変化するのか、、、、
たぶん、いいも悪いも全く何の影響もないとは思います。 ジュース一杯のんだことによるがん治療としての効果についてなど測定はできません。
NK活性については、ジュースいっぱいぐらいで変化するものではないということを、これまで永年、みてきたわけですが、もちろん、毎日一杯のジュースを飲む人と飲まない人で違いはどうか、を厳密に調べたことはありません。 はるかに強烈な免疫刺激をかけない限り、一度低下してしまったNK活性が元に回復することはありません。(がん患者さんのNK活性は一人の例外もなく非常に低く抑えられています) 強烈な免疫刺激というのは致死レベルの強いものです。ANK1クールは一度に投与すると致死レベルですので、12回に分けて週に二回ずつ分散投与しています。
ま、日常生活のちょっとした工夫とか、そう簡単なことで動くものではない、それを見つづけてきた、ということです。
ともかく、一杯のむかどうか、ということなら、ご本人が、それで元気になるのか、どうも体に合わないのか、ご自分で判断されればいいことで、日々、少しでも豊かに、あるいは、体が楽になっていくなら、いろいろと工夫してみればいいことです。
豊かに生きようとすることは素晴らしいことですが、治療として、こだわりすぎると、弊害もあります。
絶対にのむんだ、と決めて、体調に関係なく無理やりのんだら、ふつうの人でも病気になるかもしれません。
あくまで、それで元気になっていく「感じ」がするかな、そうでもないか、ということが重要です。
ニンジンジュースによる本来の食事療法というのは、ちょっとした日常生活の工夫などという「生やさしい」ものではありません。
修行レベルのものです。
他には何も食べずに朝、昼、晩、ニンジンジュースを飲み続ける、、、、食事療法としてのニンジンジュースの飲み方というのはこういう過酷なきびしいものです。
ここまでやると、明らかに問題です。
細胞培養の際には、必ず、アミノ酸を栄養として培地に加えます。細胞が生きていくのに必須だからです。 体内では、アルブミンというたんぱく質が隅々までめぐり、細胞にとり込まれ、これが細胞内で分解され、アミノ酸になります。
培地にも、よくアルブミンを加えます。アルブミンは、ニンジンジュースだけでは十分つくれませんので、当然、体内の細胞は栄養不足となり、がん細胞のみならず、がん細胞を攻撃すべきNK細胞も栄養不足に陥ります。 悪性度が高いがん細胞は正常細胞を食べますので、栄養不足になれば周囲の正常細胞を殺して栄養を摂りに行きます。 栄養制限では正常細胞から先にやられてしまいます。
抗がん剤を投与されている場合は、NK細胞の数も減り、活性が低下し、更に、増殖能力が下がっています。 NK細胞が、傷つくのは当たり前にみられる現象です。 一方、NK細胞が活動する際には、大量の糖分も必要ですし、生きていくために、アミノ酸の補給も必須なのです。
「自然派」とか「こだわり派」で、抗がん剤を一切、拒否し、そういう方に限ってよく、極端な栄養制限をされ、栄養失調に陥り、こうなると、何をやっても治療はうまく進まないという事態にはまりこみます。
抗がん剤を拒否して、食事療法に懸け、それで効果なくANK療法を訪ねてこられた、概ね、こういう流れです。
やはり、NK細胞のようなキラー細胞が、効率よく戦うには膨大な栄養を必要とします。極端な食事療法によって栄養失調になっていたのでは、戦いになりません。
栄養はとっていただきたいのです。
その際、何を食べればいいのかは、基本的に、その人に合っているものということであって、何がいい、とか何が悪い、とか、一概に決めることはできません。
自分でみつけるしかない、ということです。
何が体にいいのか、と情報を集め集めた情報を知識として判断の材料にすると通常は、病気になっていきます。 自分の命を無視しているからです。 生命体として、命の求めるものを求めるだけ、食べれば、それが一番、いいわけですが、その生命感覚がどうにかなっているから、病気になるわけで、言うのは簡単、じゃ、実際にどうやるのかというと、簡単な解決方法はありません。
少なくとも、これだけは言える、というのはニンジンジュースだけを飲み続けるという極端な食事療法に代表される
「肉を食べない」
これは、免疫にとっては兵糧攻めに遭うようなものです。
免疫は、動物性タンパク質、つまり お肉を求めます。
普段、一切、お肉を食べないという人が急に食事を一変させると、それこそ病気になるかもしれませんが、普段から、お肉を食べている人は食べ続ければいいわけです。
アフリカでは、貴重なタンパク源を求めてもお肉は高価なため、動物性たんぱくを多く含む安価な食べ物として、昆虫を食べてきました。 WHOの発表では、昆虫を常食する人はアフリカ以外にも多く、世界で20億人に達するとしています。 WHOに言われなくても多くの人々が昆虫を常食してきたわけですが、最近ではWHOも昆虫食を推奨しています。
実際に動物性タンパク質が不足すると、免疫低下を起こし、衛生環境が悪ければ、たちどこに感染症になります。
一時、アフリカでは、援助のコーンスープを配ってましたがあれは、消化しにくい植物性タンパク質が少量含まれているだけで、あんななのばかりのんでいたら余計なカロリーを採りすぎ、太るだけで栄養失調になっていきます。
感染症免疫と、がん免疫は異なるシステムではありますが、どちらも、動物性たんぱく質が極端に不足すると、栄養不足で活動が低下します。
ごく稀に、ニンジンジュースでも元気に生きている人がいますが、そういう方の場合は、腸内に、牛の消化管内にいるのと同じような「原生動物」がいます。 菌を食べる、菌よりも大きく複雑な構造をもつ生き物です。 牛は、草を菌が醗酵させているのを食べるというより、原生動物が菌を食べ、その原生動物を消化して栄養にしています。
つまり、こういう特殊な腸内生物をもっている方の場合は、野菜ジュースだけを採っていても腸内で、牛肉の元に近いものがたくさんつくられるのです。 結局、たくさん、肉を食べているのと同じだから元気に生きられるのです。
さて、ゲルソン氏が、ヨーロッパ人は、肉ばかり食べている、これは偏っていると警鐘をならしました。
春、我が家に生まれたかわいい子ブタをペットのように可愛がり、秋には、自宅でハム・ソーセージにして冬は、それを食べて凌ぐという人たちです。 肉を食うな、ニンジンジュースだけで暮らせと言ったところで、絶対に肉を食べる、 少しは食事の偏りを是正するために肉が悪いと言い続けた。
ところが、日本にも、この食事療法の話が伝わり、大変な問題になった。
日本人は、もともと、あまり肉を食べない。 肉が体に悪い、と間違ったことを吹き込まれると本当に、肉を食べなくなってしまう。 これでは、免疫が下がるのは当たり前なので生活習慣を知らずに、余計な話を伝えてしまった、ほんとうに申し訳ありません、と謝罪しています。
ところが、後の祭りで、食事だけで、がんが治るなら、その方がいいに決まっており、それも、自分に合ったもの、と言われるとわからなくなりますが、毎日、これだけを食べる、とか飲む、とか、シンプルな方法として教えらえれると、その通り、やってしまいます。
こうして、日本人にはまったく合っていない食事療法が広まり、医師たちの反論に遭って近頃では、ちゃんと肉を食べないと、という話の方が主流になってきましたが、なんとなく、たまに、ニンジンジュースを飲むとか、食事療法とはかけ離れたものが流行しています。
ジュースはどちらでもいいです。
進行がん、なら治療をしないと。
食事も、安易に、誰かが言ってる方法を調べるのではなく、相当、本気で考え、体の感覚を取り戻していかないと安易になんとか療法をやれば、それで、がんが治ると信じているなら、日々、がんだけが進行していくことになります。
なお、以前はANK療法を受けられる方の中にもゲルソン療法をやる方はいらっしゃいましたが、大量の人参ジュースは猛烈なカロリーを含み、ただぶくぶく太るだけで体はしんどく、血清アルブミン値が極端に低下して熱に弱くなります。度を越して続けると今度は深刻な栄養失調になり、お腹だけが膨れて全身は痩せていく状態になり、あっという間に衰弱してそのまま治療も受けられずに亡くなれることもありました。 お肉を食べなければいけない、という言い方をすると今度はお肉ばかり沢山食べすぎる人がでるので言いにくいのですが、極端に偏らずにいろんなものを食べてください、という言い方が無難なようです。 まちがってもパックで売ってる人参ジュースなんかドカドカ飲むと、あれは糖分の塊ですからカロリー過多になってしまいます。