2016.12.24.
NHKスペシャルやニュースで
プレシジョンメディシンというのを
やっていましたが、、、 という問い合わせを
いくつもいただいております。
すみません、観てないんですが
録画は頼んであるので、どこかで
時間をみつけて観てみます。
観た人から聞いた限り、ということですが。
まず、がん治療は部位毎に適用する治療を
区分してきましたが、実際に、ある分子標的薬を
使うべきか、使うべきでないかは、部位ではなく
その薬に「合う」がん細胞がいるのかどうか、が
重要だということです。
これは、私どもがずっと主張し続けてきたことです。
他社様の商品名で恐縮ですが、たとえば、ハーセプチンという
分子標的薬は、「乳がんの薬」のように思われていますが
この薬は、乳がん細胞を認識するのではなく
細胞表面のHER2(ハーツーと読みます)タンパク質を
認識し、結合します。
HER2は、正常細胞にもがん細胞にもありますが
乳がん特有の物質ではありません。
食道がんなどは、乳がんよりもはるかにHER2を
過剰発現しているケースが多いです。
しかも、HER2過剰発現だと、遠隔転移しやすい
という最悪の予後不良因子とされています。
また、活発に細胞増殖信号を発信するので
まず、薬がHER2に結合し、増殖信号の発信に
ブレーキをかけることで、がん細胞を大人しくし
さらに、NK細胞が、がん細胞を攻撃する効率を
高めるADCC活性を発揮して、NK細胞に
がん細胞をやっつけてもらう、という
王道をいく免疫治療薬です。
概ね、固形がんであれば、「何割かは」HER2を発現しており
逆に、何割かは発現していません。
発現率に部位による差異はありますが、本来、部位に関係が
あるのではなく、標的物質を出しているかいないか、に
よって、投薬の是非を判断するべきもの、です。
ところが、治験は部位毎に実施され、承認申請も部位毎に
行われるので、一部の部位だけ保険適応になり
他の部位には保険適応にならず、残念ながら、
保険適応後、10年たっても、15年たっても、
ほとんど部位のがんに、保険適応になっていないのです。
そこで、「しょうがない」ので、自由診療により
保険適応外の処方を進めてきたのです。
2010年7月1日には、厚生労働省から
通知が発行され、「分子標的薬の保険適応外処方は
積極的に推奨すべし」とされました。
以来、ANK療法実施医療機関では、
分子標的薬を国内の医薬品メーカーさんから
卸さん経由で購入し、自由診療で処方しています。
これは、国が推奨していることですので
国内の医薬品メーカーさんも積極的にご協力くださいます。
オブジーボのように、効果を発揮する部位が限定されているものは
自由診療で保険適応外処方をすべきではありませんし
深刻な副作用を伴いますので、保険診療機関の中でも
一部しか処方していません。
こういうものは、医薬品メーカーさんが、指定医療機関以外に
卸さないので、自由診療の医療機関の院長個人が
個人輸入し、処方しています。
(ANK療法実施医療機関は、オブジーボは処方しません)
個人輸入自体は、違法ではありませんが、本来、使うべきでない薬を
勝手に使っているのですから、かなり問題です。
一口に、自由診療による保険適応外処方といっても
私たちのグループが積極的に推進してきたものもあれば
やるべきでない、と反対してきたものがあるのです。
さて、番組の趣旨からずれてしまいましたが、
がんの部位ではなく、薬の標的物質を
患者さんのがん細胞が出しているのか
出していないのか、あるいは、過剰なのか
そこそこなのか、そのことで、投薬可否判断という
ところまでは、全くその通り、大賛成です。
こういう考え方が、TV放映されるのは
患者さんにとってもいいことです。
今の制度が正しいもので、制度通り治験をやって
保険適応を申請しなさい、では、いつまでたっても
分子標的薬であれ、免疫細胞療法であれ、
ごく一部の部位にしか保険適応にならない
しかも、オブジーボのように、PD-L1を
発現していないがんにはおそらく効果がないはずなのに
保険適応になってしまうと、PD-L1を発現していない
がん細胞であっても、投薬されてしまっています。
お金の無駄使いということもありますが、
薬が効かない人に投与して
それで副作用がでたら、泣きっ面にハチになります。
一方、事前に薬の効果のほどを検査で調べる
という考え方はいいのですが、実際にやるのは
容易でない場合もあります。
すると、慎重に妥当性を検討して投薬の判断を
ということになります。
番組では、マイクロアレー法を用いるんだ、
というのを紹介していたそうです。
これはどうなのか、というと、精度は今いち、です。
いっぺんに沢山の種類の薬剤投与判定を実施でき
判定も自動化しやすいのですが。
大雑把にスクリーニングするにはいいのですが
あんまり、正確ではありません。
薬が効くのか、効かないのかは
(分子標的薬の場合は、ですが)
基本的に、細胞表面に標的物質が過剰に
発現しているかいないか、です。
(細胞内に標的がある場合もあります)
免疫染色という手法で、細胞表面の
標的物質を定量するのが、もっとも正確で
直接的です。
マイクロアレーというのは、物質をみているのではなく
物質の合成に関係する遺伝子信号の量をみているのです。
まず、DNAでできているゲノムというのがありますが
たとえば、がん遺伝子と呼ばれるゲノムであっても
正常細胞にも、がん細胞にも共通に存在しています。
がん遺伝子があるのか、ないのか、という問題では
ないのです。
ところが、一般に、がん細胞では、がん遺伝子が
少し活発に活動しており、ゲノムを鋳型にして
つくられるRNAの鎖がたくさん、つくられています。
この量を、捉えるのに、マイクロアレー法が用いられます。
ところが、RNAの鎖というのは、その後、切られたり
繋がれたり、特定物質の合成を促す信号がたくさん
でていても、抑える信号も沢山でていたり、など
かなりの編集加工や、制御プロセスを経るので、
そのままイコール、特定の物質の発現量とならないことも
ままあります。
あくまで、簡便法としての一つの選択肢ということです。
がん治療を部位に拘ってみていく仕組みのみでは
いつまでたっても、新しい治療技術が、多くのがん患者さんに
保険適応として提供されることは不可能です。
部位ではなく、「がん細胞の性質」と「治療の特性」とが
合っているのかどうか、妥当な適応かどうか、をみていく。
こういう方向にシフトしていくことは、多くの患者さんが
科学的に妥当と考えられる治療を保険で受けられることを
実現するのに、どうしても必要なことです。