2017.2.13.
免疫細胞療法の明確な
有効性の証明、いわゆる
臨床上のエビデンスというものを
確立したのは、米国国立衛生研究所NIH
ですが、数百人のがん患者さんを対象に
大規模臨床試験を行ったのが、1984年のことです。
いわゆるLAK療法と呼ばれるものですが
このLAK療法、とかく悪く言う人が若干います。
LAK療法は、その後の検証によって有効ではなかった
と言うのですが、LAK療法の有効性は否定されていません。
勝手なことを言ってる人がいる、というだけのことです。
NIHが巨額予算を投じ、本気で行ったもので
間違いなく、治療効果がでているのですから
有効性の確認という事実は動かしようがありません。
それも、わざわざシクロフォスファミドという
殺細胞剤を大量投与し、奏効しないことを確認した後
たった一回だけ、実施して、全員に効果が
観られたのですから、相当、強力な治療法です。
シクロフォスファミドの大量投与というのは
殺細胞剤が奏効しないと「言われている」患者を
対象に、臨床試験が実施されたため、本当に
奏効しないことを衆人環視の中で、確認するためです。
NIHの臨床試験というのは、そこまで徹してやるものであって
その上で効果確認されたのです。
簡単に言うと、50リットルとか、そういうレベルの血液から
白血球集団を分離し、高度に活性化して、NK細胞が増殖を
始める前に体内に戻してしまえば、全員に何らかの効果が
みられた、そういうものです。
ANK療法は、NK活性でも、NK細胞数でも、1クールとして
このLAK療法を上回るように設計されています。
さて、このLAK療法を、日本では、わずかに20ml程度の
採血だけでやってしまう、極端にスケールダウンしたものが
普及し、日本で実施されている免疫細胞療法というのは
様々な名称で呼んでいても、
ほぼ、このウルトラ縮小スケールLAK療法です。
すると効かないということになるわけです。
一方、本場米国においても、
LAK療法に対する検証、反証というものが
数多、実施されています。
ひとつが有名なホワイトヘッドの実験です。
LAK療法は、NK細胞が増殖を始めて
活性低下を来す前に、体内に戻すために
培養期間を3日に制限したもので
当初から、NK細胞療法として設計されたものです。
とはいえ、実際には、白血球成分がほとんど丸々
入っていますから、NK細胞が単独で奏効したのか
他の細胞が関係しているのかがわかりません。
そこで、NK細胞をLAK細胞群から除去したところ
全く、がん細胞を殺さなくなりました。
つまり、LAK療法の効果はNK細胞によるものであったことが
証明されたわけです。
この時、NK細胞だけを分離するのではなく
NK細胞だけを除去したのは、実験手技上の問題が
あったからです。
活性化NK細胞は、大量の細胞接着間物質を分泌するため
NK細胞だけをトリモチの要領で、取り除くことは
比較的容易です。
一方、他の細胞を取り除こうとしても、
NK細胞がくっついてくるので、うまくいかないのです。
ANK療法は、NK細胞だけを選択的に増殖させているのであって
他の混在する免疫細胞を除去しているのではありません。
これができるのは、ANK療法独特の培養技術であって
他では実現できていません。
研究用に、NK細胞だけを培養する場合、
一般に混入するT細胞を除去する手法がとられますが
これをやると、活性の高いNK細胞も一緒に
くっついて除去されるため、低活性NK細胞しか
残りません。 実際、臨床試験をやっても
ほとんど治療効果がでません。
さて、LAK療法が実施された翌年、1985年には
CTL療法、当時はTIL療法という呼称でしたが
T細胞系の大規模臨床試験も実施されました。
結果は、当りはずれが大きかったのですが
奏効したこともあり、全く奏効しないこともありました。
TILというのは、腫瘍浸潤リンパ球の略で
腫瘍組織の内部に、入り込んでいくリンパ球のことです。
一時は、これこそ、がん退治の本命だと勘違いされ
大フィーバーした時代があったのです。
LAK療法の最大の問題は、一度に大量のNK細胞を
体内に戻してしまうため、巨大な腫瘍が壊死を起こすことがあり
カリウムやリンが体液中に溶出し、心停止や腎障害を
起こすことでしたが、この問題は、ANK療法では
培養細胞を凍結保管し、任意の時期に融解・再培養することで
壊死を起こさない範囲で、分割投与することで
回避しています。
また、3日間もかけて、何十リットルもの血液から
大量の免疫細胞を集めるため、大掛かりでコストがかかる
というのも、実用化の妨げになりました。
そして、LAK細胞に含まれるNK細胞は、数%以下であり
培養すればするほど、T細胞が爆発的に増え、NK細胞比率は
絶望的に低くなっていきます。培養コストがかかるばかりで
肝心のがん細胞を傷害するNK細胞をわずかしか含んでいないので
効率を上げることができません。
一方、TILが、がん細胞を傷害する細胞だと勘違いされた時期には
漠然と白血球を集めてくるLAK療法よりも、TILを集めて
培養する方が、実際にがん細胞を傷害する細胞集団だけを
効率よく培養できるのではないか、と考えられたのです。
で、やってみると、それほど効かなかったのですが
後日、TILの大半は、がん細胞を傷害しないことがわかったのです。
それどころか、TILの多くは、免疫抑制系のT細胞であることが
明らかになったのです。
どうやら、がん細胞がつくる腫瘍には、免疫抑制系のT細胞が
入り込み、他の免疫細胞の攻撃を防ぐ働きをしているようです。
こうしてTILフィーバーは収束していったのですが
LAK療法を実施しても、TIL、つまり腫瘍に浸潤していく
リンパ球があまり見られない、という、よく訳のわからないことを
言う人がいます。 腫瘍が縮小するという臨床上の効果が確認
されたのですから、TILがあってもなくても、関係なく
LAK療法は、有効であったと判定されているのです。
そこへ、がん細胞を傷害する細胞は少ないことが明らかに
されているTILが集積するかしないかを、がん治療としての
有効性の議論に持ち込むことは、馬鹿げています。
がん細胞を傷害するキラー細胞は、NK細胞であれ
T細胞系のCTLであれ、腫瘍組織の中に入り込むとは限りません。
血液の流れにのって、腫瘍の内部から、がん細胞を死滅させていく
ことはありますが、基本的に、接触したがん細胞から殺していくのであって
浸潤するかどうかは、傷害活性の本質とは関係ありません。
免疫細胞の研究者で、かつ、実際のがん治療に携わる医師は
非常に少数のため、よく分からない説が、メディアに取り上げられ
あたかも科学的事実のように錯覚されることがよく起こりますが
TILのような、「過去に終わった話」が未だに流布されているのは
驚きです。