藤井真則のブログ

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2017年05月21日

  

がん, 免疫

2017.5.21.

 

 

 

腫瘍壊死因子α型 TNF-α

 

名前を見れば、画期的な「がん免疫治療薬」

のように思えてしまいます。

 

 

この物質は、白血球などが放出するもので

樹状細胞なんかも、出すのですが

当初、名前の通りに腫瘍組織に壊死を起こさせることが

わかり、期待をこめて、このような名前が

つけられました。

 

他にも、TNF-β があります。

 

 

また、 腫瘍成長因子 TGF というのもあり

さらに、TGF-α TGF-β が知られています。

 

 

こうして、名前だけながめていると

TNFは、「いいもの」で、

TGFは、「悪いもの」に見えてしまいます。

 

 

実際に、名前がついただけの背景や事実はあり

名前の通りの機能を果たすことがみつかったのです。

 

 

たとえば、TGF-βをNK細胞に作用させると

NK細胞の活性が低下します。

 

では、TGF-βが、NK活性を低下させる

免疫抑制の正体か、というと、そう単純ではありません。

 

様々な物質が、免疫抑制に関与しており

TGF-βを封じる薬を開発すれば

がんが治る、とはいかないのです。

 

 

そして、実験を重ねるうちに意外な事実が

明らかになります。

 

同じ腫瘍細胞であっても、TNF-αの濃度を変えると

腫瘍成長因子として作用するのです。

 

こうなると、この物質は、どちらの側なのか

わからなくなりますが、実際に、生体内の物質は

その物質単独で、単純な意味をもつとは限りません。

 

夢の新薬、画期的ながん特効薬として脚光を浴びていた

TNF-αに、暗雲が漂い始めました。

 

 

じゃあ、濃度を調整すればいい、と考えられたのですが

いくらの濃度なら、腫瘍に壊死を起こさせるのかどうか

単純な答えはみつからなかったのです。

 

もし、これをがん免疫治療薬として、患者さんに投与するなら

それによって、腫瘍が壊死を起こすのか、増殖するのか

何も起こらないのか、腫瘍が複数ある場合、腫瘍ごとに

どちらかが起こるのか、やってみないとわからない

ということになったのです。

 

 

実用化の道筋が見えない中で、

決定的なダメージがありました。

 

 

がんの進行そのものによって

「最期」をもたらすもの。

 

それは、悪液質とか、アミドローシスと

呼ばれるものですが、体液がドロドロになり

水の循環が止まって、生命活動が止まってしまいます。

 

このドロドロの液体、アミロイドを大量につくらせる

誘導物質カケクチンの構造が決定され、それがまったく

TNF-αと同一物質であったことがわかりました。

 

 

この事実には、愕然としました。

 

 

こうして、TNF-αの開発は中止されます。

 

 

その後、TNF-αの生体内での挙動をコントロールできる

という方に会う機会がありましたが、十分、検証でき

なかったものですから、どうすればいいのか、ということは

ここでは書きません。

 

さて、樹状細胞は、「がん細胞に対する反応が鈍い」

という言い方をします。

 

 

「鈍い」ということは、少しは反応するのでしょうか。

 

樹状細胞は、TNF-α、β TGF-α、β

これらを放出します。

 

何も樹状細胞に限らないのですが。

 

 

なので、まったく、がんと関係ないわけでは

ありません。

 

樹状細胞には、がん細胞を認識するセンサーは

見当たりませんし、

NK細胞のように、多種多様なセンサーで、

がん細胞の表面を調べ、がん細胞を識別すれば

その場で、殺してしまう、という芸当はできませんが

がん細胞が反応する物質を放出することはできます。

 

樹状細胞は、血液の中にはいませんし、通常は

皮膚の奥や、消化管の基底膜付近など、感染症が

発生した場合、病原体が侵入してくる場所に

張り付いていますが、リンパ節などにも

よくいます。

 

そこで、TNFやTGFファミリーの物質を

放出することで、がん細胞の転移を誘導したり

あるいは、転移を抑制する働きがあると

いう説があります。

がん細胞は、必ず、リンパ節を経由して

リンパ管ルートで転移するとは限りませんが、

一応、ある場所で発生したら、どちらの方へ

転移しやすいという傾向があり、出発口の

リンパ節と、定着して転移巣をつくる出口の

リンパ節にいる樹状細胞が、これを誘導している

という説があります。

 

こうなると、樹状細胞もまた、どちら側なのか

よくわからなくなりますが、ともかく、

こうした物質を、目をつぶって体内に

投与しても、何が起こるかわからない

それだけ人体は複雑なんだ、ということです。

 

 

 

 

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