2017.5.30.
まず、NIHなる組織ですが
とにかく、予算規模が大きいです。
ライフサイエンスの中でも医療と関連のある
分野に投入する年間予算は、3兆円を超えます。
これは基礎研究予算です。
NIHが、NK細胞療法の有効性を証明した1984年当時は
年間基礎研究予算、8800億円でした。
その当時、医家向け医薬品首位の塩野義製薬さんの
売上が4000億、食品などを加えた総合売上首位の
武田さんでも5000億円を超えたくらいで、開発費は
売上の13%ほどでした。
開発費というのは、欧米で開発が進んでいる
医薬品を日本で承認取得するための開発費などが
メインであって、基礎研究など、予算の
規模でいえば、ほぼやっていないに等し
かったのです。
医療やライフサイエンスに限らず
米国では、基礎研究の予算の95%以上は
国費です。
全米科学財団や、国防総省、エネルギー省などが
基礎研究予算をもっており、これを自ら使用することも
ありますが、グラントとして、企業や大学などに分与します。
NIHの予算配分ジェネラル・マネージャーは、
自分が決済する予算の3~5%をもらえるので、
(その分野の研究の第一任者という想定で、
自身の研究活動に使うという
想定があります)、
お金に困ることはありません。
こうした巨額の公的資金が基礎研究に投入されるため
米国の基礎研究は、お金では負けませんが、
グラントの一部は、海外にも配布されます。
免疫細胞療法の基礎を築くのは大変です。
有効性の確認は、最後のプロセスですが
そこまでもっていくのに、細胞を採取する際の
注射針の選定、培養容器の素材や容器の微細な表面加工
培地(細胞を培養する液体)の成分は、数百種類に及ぶ
物質の混合物ですが、これらの個々の成分の特定や
製法、品質管理手法、配合比率や濃度、培養器の
環境コントロールやモニタリング、無菌操作や滅菌手法、、、、
徹底した、検証が行われました。
細い注射針を無理やり高圧をかけながら通すだけで
細胞は、変性し、がん化する可能性があります。
どこかで聞いたような話ですが、針で吸い取るだけで
ある種の幹細胞になることがあります。
容器の成分から可塑剤などが漏れ出さないか、
容器の表面が、いがいがしていると、
細胞ががん化しないのか、
どういう材質で、どう加工すれば、
細胞との親和性がよくなるのか、、、、
もう、延々と試行錯誤に検証の繰り返しです。
ベンチャー企業にできる仕事ではありません。
日本では考えられない巨額予算を投じて
基礎を確立したからこそ、免疫細胞療法は
実用化への道を拓けたのです。
ライフサイエンスの基本的な研究は、
1970年に一斉に花開き、
1980年台には、基礎的な研究手法がほぼ確立し
それ以降は、案外、ひっくりかえるような重要な基礎研究の
進歩はありません。
大学の時に使っていた実験道具や資材を
今でも使っています。
その道の人ならだれでも知ってるキムワイプは、今も昔も
使われており、ピペットマンはなくなることはありません。
ちなみに、キムワイプは蛍光物質を使用していない
ティッシュペーパーのようなものです。
一般の「紙」には、蛍光物質を混ぜてあり、
白く輝くように誤魔化して、、
あ、失礼、工夫をしてあります。
そんなもので、実験用具を拭いてしまうと、
蛍光顕微鏡を用いる時や、
分光光度計というもので、特定の波長の光の
強さを検量する際に、誤差を生じます。
そこで、みんなキムワイプを使います。
実は、トイレットペーパーも
蛍光物質を使っていないので
問題なく代用できるのですが。
科学の進歩は、過去の研究が積み上げてきた
ピラミッドの上に石を置いていくようなものですが、
過去の研究が全く否定されることは、
案外、しょっちゅう起こるものではなく、
ライフサイエンスに関しては、
まだ一度も、本格的なパラダイムシフトを
経験していません。
なので、昔の話も、今でも十分、通じるどころか、昔の話が
基礎になっているのです。
さて、圧倒的な予算をもつNIHが、本気でNK細胞療法や
他の免疫細胞療法を検証し、有効性を確認したわけですが
厳密に言うと、効果を発揮する条件を明らかにした、
相当、本気でやらないと効果はない、
中途半端な免疫細胞療法は何の効果もないことを、
証明しています。
具体的にどういうことか、HPにもあらすじは書いてありますが、もう少し、枝葉も含めて、観ていきましょう。
(続く)