2017.7.8.
今、ネット上で一番、話題になっている
がん治療というと、光免疫療法でしょう。
「光もの」の中にも、いくつか種類があります。
露出が多いものは、米国ベンチャー企業が
開発中の、近赤外線と、分子標的薬と
光反応性物質を組み合わせたものです。
これは、まだ開発中で、現時点で
この治療を受けることはできません。
また、実際に行われているものとしては
血液にUVを照射してから、戻すものがあります。
米国では、静脈中へ、カテーテルを挿入し
血液中に、1時間、UVを照射するというのもありますが
こちらも、開発中です。
血液にUVを照射すると何がおこるのか。
さあ、、、 としか。。。
少なくとも、UV照射、云々というのは
がん治療ではありません。
よくわからないものを頭から否定するのは
よろしくありませんが、いずれにせよ、
がん治療とは関係ないか、今、実施することは
できないものですので、がん患者さんが
光免疫ナントカ、と聞いたら
スパッと忘れましょう。
先日も、がん最先端治療について、という
演題で、講演を頼まれたのですが、
一般の方は、「最先端」のものがいい、
と思われるようです。
ANK療法完成は、1993年。
前身と言っていいのか、
培養技術は全く違うのですが
NK細胞を大量に集め
活性化して、体内に戻した
LAK療法の大規模臨床試験が
1984年のこと。
今、2017年ですから
まだまだ先端医療の部類であり
まあまあ、普及し始めていいころあい
というところです。
医療は、これくらい、時間がかかるものです。
1955年に実戦配備が始まったB52
戦略爆撃機は、2045年まで現役の予定で
これまで、後継機の開発は、ことごとく失敗に
終わりました。
なので、ずっと現役。
高度な技術を用いる世界というのは
大体、こういう時間スケールになり
そんな簡単に、突然、降ってわいたような
最先端技術が、いきなり実用化されることは
ありません。
つまり、新しい技術として、開発に凌ぎが
削られている医療技術というのは
当分の間、使えませんので、
がん患者さんが、生き残るための
情報を求めるなら、「研究中」のものは
ばっさり忘れ、最先端のものは
手を出さない、のが賢明です。
実際に、使いこなされて
「枯れた」技術になってこないと
危なくて使いづらいし
効果のほども、よくわからないのです。
で、光を使ったがん治療というのは
昔からあるにはあります。
私自身も、医薬品メーカーに
紹介に回ったのは、80年台の半ばです。
ただ、光そのものには、がん細胞だけを
攻撃するような性質は皆無ですので
光を照射する標的物質を、がん細胞なり
腫瘍組織なりに集めておく必要があります。
これがなかなか、できないわけです。
科学技術が進歩した、といっても
原理的に無理なものは、何十年やっても
無理なので、がんだけに集まる物質が
みつからない以上、光をどういじったところで
がん細胞だけに作用することはできません。
少なくとも、近赤外線を照射する場合
よっぽど強烈に照射しない限り
光そのものによる副作用は
「おそらく大したことない」と
思われます。
(やってみないとわかりませんが)
一方、がん治療とは別の分野で
行われているUV照射の方は
遺伝子に傷がつきますので
注意が必要です。
これ、私の専門テーマでした。
UV照射により、損傷した遺伝子が
出現すると、これを修復するシステムが
作動します。
問題は、遺伝子修復系システムが
引き金になって、
ウイルスが異常増殖することがあります。
ヒトのウイルスは、基本的に私たちの細胞の中にいます。
伝染病の研究から、ウイルスがみつかり
病原体だ! というイメージが先行して
しまいましたが、ヒトのウイルスは
ヒトの細胞が作り出すものであり
普段は、ヒトの細胞の染色体の中に
「溶原化」、まあ、溶け込んでいて
大人しくしています。
ときおり、周辺遺伝子をコピーして
核の中を移動したり、たまには
「外」まででかけて、その遺伝子を
移します。 こうして、遺伝子交換を
しているわけです。 ほとんどの
ウイルスは、病気を起こしませんので
活動していても、気付かれませんし
ろくに研究する人もいなかったのです。
ところが、ヘルペスウイルスなどが
目を覚ますと、発疹してしまったり
最悪、サイトメガロII型ウイルスなどが
暴れ出すと、内臓の細胞がほとんど
やられてしまい、多臓器不全になり
普通は、死亡に至ります。
私は、これで多臓器不全になり
人工心肺のお世話になりました。
お世話になっていた間は、意識がないので
覚えていないのですが、蘇生した後からは、
痛いの苦しいの、辛いの、もう、大変でした。
さて、UVを、通常、浴びない細胞に
UVなど、不用意に照射してしまうと
一応、何が起こっても知りませんよ、
ということは申し上げておきます。
もちろん、UVによる遺伝子損傷は
修復系が存在しますし、X線による損傷よりも
修理しやすいので、どうということはないのかも
しれませんし、ウイルスも多少、暴れたところで
健康な人なら、まず大きな問題にはならないのでしょう。
かといって、がん治療であれば、放置すると
死亡に至るリスクが高いからこそ
様々な治療を「試みてもいい」のであり
標準治療のような、体を相当、傷つけるもので
あっても、容認されてきたわけです。
人の血液にUVを照射するなら
一体、何のためにやっているのか
そのベネフィットとリスクが見合っているのか
当然、こうした蓋然性についての
説明は求められます。
さて、米国で開発中の近赤外線を用いた
がん光免疫療法ですが、これについては
次回にもう少し。
(続く)