2018.3.13.
NK-T細胞を用いたがん治療の実験を
とある大学が行い、今後、治験に入る
とする報道がありました。
NK-T細胞というのは名前の通り
NK細胞とT細胞の中間的な性質をもつ細胞ですが
多くの研究者が、T細胞の中でもMHCクラスI非拘束性と
いうのですが、あまり普通ではないT細胞の中の
更に特殊なものをNK-Tなんだと呼んでしまう傾向があります。
そこまでふみこむと面倒ですので
とりあえずNK-T細胞ということにしておきます。
NK-T細胞はNK細胞のように細胞表面の複数の
標的を複合的に認識し、様々ながん細胞を傷害しますので
T細胞よりははるかにがん細胞を認識する能力が
高いのですが、かといってNK細胞と比較すると
傷害活性は足元にも及びません。
その代り、NK-T細胞の方がT細胞の性質も併せもつため
NK細胞よりも増殖スピードが速く、培養の難易度も
NK細胞よりはるかに簡便です。
ところが、がん治療に用いる場合は根本的な問題があります。
免疫刺激能力がほとんどないのです。
そのため、体内に投与しても、
直ちに強い免疫抑制により
活性を失ってしまいます。
これはT細胞の一種であるCTLを用いても
γ/δT細胞を用いても樹状細胞を用いても
何を用いても同じです。
NK細胞のように腫瘍組織が発動する
強力な免疫抑制に対抗して
強い免疫刺激をかけていくものは
他にみあたらないのです。
報道では延命効果がみられたようなことを
紹介していますが、あくまでマウスの実験です。
マウスの場合、NK細胞の数が少なく活性も低いのですが
NK-T細胞は割と多めにいます。
人間の場合、NK-T細胞は非常に数が少なく
特に末梢血中にはほんの僅かしかいませんので
大量に採取するのは難しいです。
がん患者さんの体内では免疫システムが
正常に機能する潜在力は維持していながらも
腫瘍組織による強力な「腫瘍免疫に対する」免疫抑制が
発動されており(感染症免疫は抑制されていないことも
多いです)、これを緩和しないと如何なる免疫治療も
効果を発揮できないのですが、
あ、じゃあ免疫チェックポイント
阻害薬を投与すれば、とはなりません。
複雑な免疫抑制信号系のごく一部に触れるだけだからです。
肝心のNK細胞はほとんど目覚めてくれません。
マウスの場合は、マウスの免疫システムに漠然と
機能低下を来す措置をしてあり、感染症免疫も低下しています。
マウスにヒトがん細胞を移植する場合は、腫瘍免疫というよりも
外部からきた異物ですので感染症免疫を抑制しておかないと
移植がん細胞が根付かず、実験になりません。
人間の体内とはまるで状況が異なるわけですが
そこへNK-T細胞を投与して延命したからといって
そのまま人間のがん患者さんに投与しても
腫瘍免疫に対する強い抑制により
同じような効果は期待できません。
では、強力な免疫刺激をかけながら
NK-T細胞を大量投与すれば、がん治療に
なるのか、というと、NK-T細胞は
喘息の原因になると考えられており
副作用のことも考慮する必要があります。
いずれにせよ、NK細胞に比肩するようなものではなく
メリットとしては、培養がNK細胞よりは
簡便であるということです。
少なくとも、がん細胞を認識し傷害する能力は
ありますので、T細胞や樹状細胞よりは
まだ筋目はいい、ということになります。