(前回からのつづきです)
NHKスペシャル人体シリーズは私たちの体内では各々の臓器が互いにメッセージ物質を放出し、連絡を取り合い影響を及ぼし合いながら複雑なネットワークとして動いているという、この数十年間の分子生物学の研究成果をようやく一般にわかりやすい番組として紹介したことは大きな意義があります。
学生のころから知られていた話ではあっても、例えば骨の組織が他臓器に向け放出するメッセージ物質は2種類しか知らなかったですが、今では数十種類知られ、全身では千種類に近いんでしょうね、とても全部は知りません。そういう「量的」な発展は目覚ましいものがあります。
エクソームというのは昔からあることは知られていましたが近年、急速に実用化をイメージした研究が進んでいます。
Nスぺでは、がん治療の可能性を拓くようなことを言ってましたが、治療はまだまだ見えないところがあります。 ただ、診断には実用性の匂いが漂い始めています。
がんの転移には法則があります。特定の臓器に発生したがんは、特定の部位に遠隔転移しやすいことがよく知られています。 これには特定のメッセージ物質が関与していることがずいぶん昔から知られていました。 最近では、どの部位のがん細胞が、どのようなメッセージ物質が詰まっているエクソームを放出するか、そのエクソームという封筒にはどのような宛名物質がついているのか、という研究が盛んです。 実際のがん患者さんの血液中に存在するエクソームを調べ、封筒の中に含まれているRNA分子を調べるとがんの部位ごとに大量に含まれているRNAの塩基配列に特徴的な傾向があり、エクソームの増加量と転移や進行にはどうやら相関があるとみられています。
こうしたデータを膨大に積み上げれば、まず手術後の再発の有無をモニタリングする診断として実用化される可能性があります。