抗がん剤(殺細胞剤)と一部ホルモン療法あとはその他という時代に登場し、欧米では抗がん剤を押しのけ主流となった免疫系治療薬分子標的薬も当初は大変な「難産」でした。
日本の医療界は新しいものには何かと文句を言う傾向はありますが、分子標的薬の医療現場への導入に関しては日本が世界のトップを走りました。
分子標的薬はがん細胞も免疫細胞や正常細胞も傷害しません。がん細胞の増殖にブレーキをかけるか血管新生を阻害しながら体内のNK細胞が、がん細胞を傷害するのを「待つ」という設計です。 開発段階では可能な限り、NK細胞が攻撃効率を高めるADCC活性を作用機序とするものが最優先で探索されますが、簡単にはADCC活性を作動させるものが見つからないので、シンプルに増殖抑制だけのものも使用されています。
先頭バッターとなったイレッサは低分子分子標的薬でNK細胞を活性化する機能はありません。それでも抗がん剤投与歴のない患者さんでNK活性がある程度残存していれば劇的に奏効するスーパーレスポンダーが出現することがあります。 薬が効かない人、効くけど延命効果のみ、劇的な腫瘍縮小で再発もしない、結果はかなりはっきりと分かれます。
ところが間質性肺炎による死亡リスクもあるので、その事実を告知していなかったとして裁判となります。患者遺族側も薬が悪いと言ってるのではない、なんで副作用を事前に知らせなかったのか、が争点です。
厚労省にとって最大の逆風は当時、欧米で薬効が否定(後に承認)されたことです。それをなぜ日本は承認したのか、と。
この薬は役に立つので消してはいけないと立ち上がった臨床医の医師主導型臨床試験により、有効性を再確認し、またアジア人に多い遺伝子変異がある人には有効なんだ、という話にして承認取り消しを免れます。これで多くの患者さんの命が助かるのですが、しばらくの間はものすごく悪い薬とメディアに叩かれました。