(前回からの続きです)
人類の進化に大きな影響を及ぼしたと注目されるN-グリコリルノイラミン酸(G糖と略します)はヒトには産生能がなく、他の哺乳類の大半に存在します。一応、異物ですので体内に吸収されると獲得免疫が応答します。 G糖に対する抗体も確認されます。
N-アセチルノイラミン酸(A糖と略します)は私たちの細胞の表面に大量に存在し、しかも最先端に突きだしているのが大体この糖です、当然ながらA糖を食べても獲得免疫は応答しません。おそらくA糖を認識するT細胞は胸腺で選別を受け排除されているのでしょう。そうでないとT細胞が全身の正常細胞に総攻撃をかけてしまいます。文字通り、どこにでもある糖であり、私たちの細胞を外から眺めたらA糖の塊に見えるという代物です。
G糖は神経のシナプス形成にあまりよろしくない影響を及ぼし、ヒト以外の哺乳類でも脳にはあまり見られないのですが、ヒトはA糖をG糖に変換する酵素の遺伝子に欠損を生じたため、G糖を作らなくなり、これが脳の神経組織の発達に寄与したとする説が注目されています。 ところが問題も生じたと考えられています。
G糖単独では何も起こらないのですが、小腸の粘膜を突破する物質群にG糖が混じり、細菌類の破片と一緒に体内に入ってしまうと獲得免疫が誘導され、G糖を認識し、G糖を目印に攻撃する免疫細胞が活性化され、急激に増殖します。ところがひとたび増強されてしまったG糖を特異的に認識する「はず」のT細胞は、G糖のみならずA糖を発現する細胞まで誤爆します。T細胞のセンサーは単一センサーであり、誤爆を避けることができません。特異性(感度)を下げるとなんでも攻撃しますが、逆に特異性を高めると本来の標的にも攻撃をかけない確率が高くなります。生体物質は絶えず揺らぐため完璧に撃ち漏れなく誤爆もないとはいかないのです。
T細胞とNK細胞はここが大きく異なります。 (続く)