このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。
TOP > 免疫チェックポイント阻害薬は分子標的薬の一種 (2)
2015.10.31.
がんは免疫病であり
免疫を中心に
がん全身療法を
組み立てるのは
世界の常識であり
欧米では抗がん剤として
分子標的薬が
大量に使用されています。
日本の健康保険制度は
TPPで潰されないように
維持しないといけないですが
制度疲労は起こしています。
新しいものは、今のままでは
「広範な適用範囲での本格承認」
になりません。
分子標的薬も
ごく一部の部位のがんに
保険適用になるだけで
ほとんどの患者さんは
世界標準の薬を
「保険診療では」使えない
のが実情です。
NK細胞の攻撃速度を速める
ADCC活性を作用機序とすると
明示してある分子標的薬が
保険制度の制約から一部の
部位のがんに限られるとはいえ
もはや標準治療として
組み込まれているのに
メディアは、未だに、NK細胞の重要性を
正面からとりあげようとしません。
ノーベル賞受賞で話題性が高まった
iPS細胞や、樹状細胞については
報道しますが、
「がん細胞を特異的に傷害する」
只一の存在であるNK細胞に
ついては大きく取り上げません。
そこへ、免疫チェックポイント阻害薬が
突然、「免疫治療」の代表のように
大きく取り上げられていますが
従来から欧米では分子標的薬が
中心で、免疫チェックポイント阻害薬も
分子標的薬の一種です。
分子標的薬を大別すると
リューマチの薬
抗がん剤
となりますが、さらに抗がん剤としての
分子標的薬を機能別にわけると
(1) 血管新生阻害
(2) 上皮細胞増殖信号抑制
(3) 上皮細胞増殖信号抑制 + ADCC活性 (NK細胞の攻撃力UP)
(4) CDCC活性 (免疫系の炎症反応を誘導)
(5) 免疫細胞への抑制信号を抑制 (免疫チェックポイント阻害薬)
(1)の血管新生阻害は、当初は主役として期待されました。
私は、なんで? と不思議でしたが、やっぱりこのタイプは
「脇役」ということが、わかってきました。
腫瘍組織は、血管網を引き込んで栄養源を確保するので
血管新生を阻害すれば、がんに集中的に打撃を与えられると
考えられたようです。こういう話がよくわからないのですが
当然、正常組織においても血管の新生は活発であり、
入れ替わっているからわかりにくいだけです。
腫瘍は一度つくった塊は、たとえ腐っていても
そのまま残りますから、どんどん大きくなり
増殖が活発なように見えてしまいます。
ところが、正常組織における血管再生や新生も
相当、活発なのです。
そこへ血管新生阻害剤を投与すると
腫瘍だけではなく、
正常組織の血管新生もブロックされますから
副作用がでるのは当然です。
それでも、効かないのではありません。
効く時は効きます。
大きな腫瘍が、スーッと縮小することはあります。
一方、微笑分散がんに直接、手を出すことは
できません。 あくまで、腫瘍組織が大きくなったとき
今まさに大きくなろうと血管網を引きまくるときに
ヒットすると打撃を与えられる、というものです。
このタイプ、マーケッティングでは先行しましたので
欧米では大量に処方されています。
免疫へのダメージは、全くないとはいえませんが
直接、免疫細胞へ傷をつけるようなことはありません。
(2) と (3) こちらが主役です。
正常な上皮細胞の増殖も抑えられるため
副作用はあります。
ですが、免疫細胞には悪さはしません。
ここがポイントです。
(2)の代表格イレッサは、がん細胞を殺しませんが、
イレッサを単独使用すると、
腫瘍が消え、再発しないこともあります。
がん患者体内のNK細胞は、
ゆっくりとがんを殺しているため
増殖においつかないから、
がんという病気になっているのですが
イレッサが、増殖を止めている間に、
NK細胞が腫瘍を消して
しまうこともあります。
ただし、このようなスーパーレスポンダーは
数%程度とか、少数に過ぎません。
NK細胞の活性が低すぎて、
腫瘍が全滅する前に、
イレッサが効かなくなる人が多いからです。
(3)の代表格ハーセプチンも、
単独投与で、腫瘍が消えてしまい、再発もしない
スーパーレスポンダーが存在します。
ADCC活性により、
NK細胞の攻撃スピードを
速める機能があります。
ただし、主だったADCC活性をもつ分子標的薬のレベルでは
NK細胞の活性上昇は2倍とか、そういうレベルであり
多くの患者さんにとって、体内のNK活性を十分なレベルまで
引き上げるとこまではいかない、ということで、
スーパーレスポンダーの発生頻度は高くありません。
ただ、(2)も(3)も
従来型の殺細胞剤では、考えられなかったような
固形がんを、抗がん剤で、完治に持ち込むことが
できる(できる人も少数いる)という夢のようなことを
実現しています。
(4)の代表格はリツキサンです。
B細胞の表面に高頻度で発現するCD20という物質を
標的にし、この薬が、CD20にとりつくと、立体構造が変わり
体内のいたるところに存在する免疫系の炎症爆弾「補体」の
信管として機能し、炎症爆発を発生させます。
こうなると、相手が、がん細胞であろうが正常細胞であろうが
ウイルスのような物質であろうが、何であっても片っ端から
破壊しつくします。 そのため、がん細胞だけを狙い撃つことは
できず、正常なB細胞も破壊してしまいます。
リツキサンの作用機序としては、ADCC活性も機能している
ことが知られており、添付文書にもその旨、明記してあります。
他にも、たくさんありますが、臨床現場で使い手がいいのは
「枯れた技術」 よく使ってきた薬です。
新しく承認された薬を、いきなり多くの患者さんに使うのではなく、
用心の上にも用心を重ねながら
投与するケースを増やしていきます。
現時点で、実力においても、使い勝手においても
副作用や価格という点でも、(2) や (3) が
一番、役に立つものとして使われています。
もっとも、殺細胞剤で免疫細胞が傷んでから
これらの分子標的薬を使ってしまうケースが多く
本来の実力通りには機能を発揮できていない
可能性が高いようです。
本来、これらの分子標的薬は、免疫細胞を直接
強くする免疫細胞療法と同時併用すべきもの、です。
科学的に物を考えれば、明らかにおかしいことであっても
従来からの仕組み通りに、治療パターンを固定し
固定された治療パターンで治験をやって、
はい、データがあります、エビデンスがあります、
とやってのけるわけですが、そのデータの取り方は
科学的に妥当な考え方から、大きく逸脱しています。
真っ当な考え方に基く治験は、現実には実施できないように
なっていますので、いつまでたっても、真っ当なデータが
そろいません。
(5)の免疫チェックポイント阻害薬については
T細胞を目覚めさせても、副作用が大きくでる割には
切れ味が弱い、というのが現状です。
今後、NK細胞への抑制を効率よく解放するタイプが
開発されれば、現行のものより、切れ味が鋭く
副作用も抑えられるものになるはずですが
NK細胞の制御は非常に複雑で、
単純な物質に過ぎない薬剤で
どこまでやれるかは、現時点では不透明です。