藤井真則のブログ

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TOP > 京大ES細胞研究計画承認、ES細胞作製開始へ

2017年06月08日

  

えとせとら

2017.6.8.

 

 

 

京都大学のES細胞作製の計画が

厚労省に承認され、日本でも

ES細胞の応用が本格化される

可能性があります。

 

ES細胞は、培養しても

がん化しない、という言われ方をします。

正常細胞でもがん化するわけですから

ES細胞だって、がん化するリスクが

ゼロということはないはずですが

iPS細胞のように

「基本的にがん化するもの」

と比較すれば、遥かに

がん化リスクが低い

と言うことは言えます。

 

 

つまり、iPS細胞が話題沸騰の割には

なかなか実用化へ向かえないのに対し、

というより、基本的に人体に戻しては

よろしくないもの、なのに対し

ES細胞なら、がん化リスクに関しては

はるかに実用的と考えられています。

 

もちろん、問題もあります。

 

iPS細胞なら「本人」の細胞から

つくることもできますが、

ES細胞は、受精卵をベースにします。

成人にまで育った「本人」の受精卵というのは

もう存在しませんので、本人の卵子や

精子からつくることはできても

全く本人の受精卵を使う、ということは

できません。

 

そのため、お隣の国の研究者から

成人の体細胞からES細胞を

作成したとする論文が発表された時は

世紀の大発明と大騒ぎされ、そして

目いっぱい、盛り上げておいてから

論文のデータに人工的な加工の跡があることが

指摘され、今度は、一転、大スキャンダルと

なりました。

 

全く同じパターンで

STAP細胞騒動が繰り返されたのですから

吾々アジア人ももっと賢くならないと

いけないのでしょう。

STAP細胞騒動の顛末は

ES細胞研究の有力者が

この世を去るという形に

なってしまいました。

 

2009年1月20日大統領に就任した

オバマ氏は、同年3月9日には、早くも

ES細胞研究を解禁し、即座に

研究用ES細胞のセルラインが全米各地の

研究者の元に提供されました。

倫理上の問題を理由に、世界中に

ES細胞研究の規制強化を訴えていた

米国が、自ら手の平を返したのです。

米国の大統領にとって、受精卵に近いところを

「触る」のは政治生命に直結するダメージに

なるリスクがあります。

「中絶法」問題は、米国大統領選定番の

政治演題であり、保守系キリスト教勢力を

味方にするのか、敵に回すのかの

試金石として、「どころで、あなたはどっち派?」

とやられるわけです。

ES細胞を巡る「倫理問題」は、

クリティカルであるからこそ

大統領に就任した直後に、つまり、次の選挙からは

日があるうちに、さっさと方針転換を

してしまったのかもしれません。

 

ES細胞の研究ができないなら、と

iPS細胞に懸ける方向に動き始めていた日本。

2012年のノーベル賞授与をきっかけに

大フィーバーとなり、ますます日本がiPS細胞研究に

突っ込んでいくと同時に、米国は、ES細胞研究を

加速し、常に、日本のiPS細胞の臨床研究よりも

同じ適応で、ES細胞の臨床試験を先行させてきました。

 

これでは実用化の段階で、日本は完敗する、と

繰り返し、ES細胞の作製や臨床研究を求める

打診なり、申請なりが行われてきましたが

中々、OKにならず、先行き不透明感が

蔓延していました。

 

 

さて、ES細胞は受精卵から作成するのが基本で

受精卵は、一人の人間に育つ可能性があるのに

それを使っていいのか、というのが一つの争点として

取り上げられます。

 

もっとも、受精卵は、子宮に戻さないと

おそらく赤ちゃんまでは育ちません。

やってみないのにわからないじゃないか、と

言われればその通りですが、哺乳類で実験しても

さっぱりうまくいかないので、

たぶん、今の科学技術では

子宮内でないと、受精卵を赤ちゃんにまで

育てることはできないのであろう、と

考えられています。

 

アフリカツメガエルの卵なら、手でつまめ

目で見ることができ、

メスで、手術することも

受精卵が細胞分裂したあと、

一個ずつ切り分けることも

できます。

8個になると、もう個々の細胞の「違い」が

見えてきますが、それでも、

まだ、個々の分裂した細胞が

一匹のオタマジャクシに育ちます。

ということは、

ES細胞も一人の人間になるのかもしれませんが

こればかりは、やってみるわけにはいかないので

よくわかりません。

 

いずれにせよ、体外受精のために用意された受精卵で

使用されなかったものは、

もう赤ちゃんにまで育つことはないので

そこからES細胞を作製して、

実験に使ったとしても

赤ちゃんになる可能性のあるものを

実験に使ったことにはなりません。

 

倫理上の問題として、受精卵は人間ではないのか?

 

という問題は残ります。

 

 

むしろ、どう使うのか、という問題も指摘されています。

 

ES細胞からつくられた組織を治療に使うか

ES細胞を体内に戻して、

体内で、組織再生を起こすか、

様々な使い方が想定されます。

人工授精を行う際、一卵性双生児ではなく、

あくまで「他人」ではありますが、

両親が同じ「兄弟」の

受精卵が、何個もとれます。

そのうちの一個が、一人の人間として成長し、

残りがES細胞作製材料となり

何かあったときのために、

臓器などのリザーブになる、

というSF小説の世界からでてきたような話が

俄かに現実に近くなるのです。

 

 

こういった問題もあるので安易に研究を進めては

いかんだろう、という声があるわけです。

 

一方、組織再生ができずに苦しんでいる患者さんに

何とか、治療の可能性を、これも当然の要求です。

 

 

では、ES細胞の研究が活発になると

iPS細胞は不要になるのでしょうか。

 

そうはならないでしょう。

 

たとえば、がん化リスクや、がん化していない確認

などは、がん化リスクが高いiPS細胞で

検証を進めていますので、こうした知見は

ES細胞の安全性の確認にも応用できます。

 

基礎的な研究をiPS細胞で大々的にやっておいて

実験系や、システムの構築を進め

これを可能な限り、ES細胞の研究に応用することで

ES細胞をむやみに、研究活動で濫用しない、という

形になっていくでしょう。

 

iPS細胞研究に期待されるものが、

実用性から、研究のための研究という

本来の土俵に戻っていくわけです。

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