2009.2.23.
受精卵取り違え事故に関する報道を聞きながら、
人の細胞を扱うことについて、うちは本当に、大丈夫なのか、
業界全体としてどうあるべきか、当然、普段から考えては
いますが、改めて、考えさせられます。
一人の人に育つ受精卵と、体の一部であるリンパ球とでは、
重みに違いはありますが、他人様の、細胞を預かる、
ということでは、同じです。
今回の事故は、1000人もの人工受精を実施した医師が
起こしたものです。1000人も経験があれば、ミスを犯さない、
のではなく、1000人もやっていれば、いつかミスを犯す、
と、考えるべきしょう。
何よりも、他人の細胞を預かることの意味を分かり、
真摯な姿勢で臨むことが大本の基本です。
その上で、作業している人が、健康で、仲良くやっているのか、
議論は大いに結構なのですが、意見の違いが、感情的な対立に
なるようでは、隙ができ、ミスを誘います。
医薬品の安全・品質管理のガイドラインとして、米国から、
GMP(Good Manufacturing Practice)が導入されています。
GMPの査察には何度も立会いましたが、まず何を見るかというと、
働いている人の背中です。 姿勢や、人との関係を見るのです。
すれ違った時に、自然と挨拶ができているか、人を不快にさせない
礼節や配慮があるのか、これが、安全管理の基本中の基本です。
仲間のミスを、気を遣わずに、どんどん仲良く指摘し合えるか、
これが、安全管理の土台です。
次に、物がきちんと整理されているか、埃がつもっていないか。
もっとも、GMP工場は、埃が溜まらない構造をもつことが義務付けられて
いるのですが。 整理整頓が整然と為されているか、これが次のポイントです。
働いている人の状態こそ、安全管理・品質管理の一番重要な基礎です。
その上で、人はミスをするもの、という前提に立って、ミスをチェックできる
体制になっているかどうか、システムとしてミスを発見できる仕組みが
組み込まれているかどうか、です。 GMPは、米国で生まれたものですから、
日本では考えられないほど、劣悪な環境下、文字を読めず、モチベーションが
高くない労働者を使って、どうやって医薬品を作るか、という観点で策定された
ものです。 ドラムには、文字だけではなく、ペンキで色を塗り、色をみただけで、
識別できるようにすべき!! 等とされています。
日本にそのまま持ち込むと、意味不明というか、ほとんどパラノイアとも
思える執拗な拘りをもっていますが、何故、それで安全と言えるのか?
常に、疑問と根拠を問い続けることを求めます。
免疫細胞療法を実施する医療機関は、国内で300近くあります。
GMPを参考に、株式会社の組織がサポートし、安全管理体制を構築している
のが、概ね、6割位、1割弱が、大学内部、残りは、クリニック単独で
やっているところです。 もちろん、形式だけで、安全管理ができているか
いないかを単純に線引きでませんが、一般に、クリニックで、臨床に
忙殺される医師が、片手間に院内で、チョコチョコ細胞を操作していた
のでは、ミスも起こり易い、それよりも、株式会社の組織で、安全管理
システムを構築する方が、ミスを防止し易い、とはいえるでしょう。
免疫細胞療法は、医師の判断で実施される医療行為として、
医師法の適用下にありますが、細胞培養の安全管理という
観点からは、医薬品メーカーのような株式会社の組織形態の
方が馴染みやすいという側面はあると考えます。
ANK療法の場合は、他の免疫細胞療法とは比べ物にならないほど、
培養にかける手間や、培養途中での判断、操作が
尋常でなく多いという特殊事情もあります。
また、重要
な判断・指示を行うのは医師ですが、
安全管理の徹底という観点から、
培養操作を実施する技術員は、
培養の手技を習得した上で、かつ
医薬品工場の品質管理のガイドラインであるGMPを
参考に何重ものチェック体制を取っています。
日本で、NK細胞を培養しています、と言っているところは、
所謂、日本版LAK療法です。
また、T細胞を培養してます、というところも含め、
どちらも、血液を処理し、最初の操作を
終えたら、後は、培養バッグに細胞と培地を入れて、
10日-2週間、インキュベータの中で
置いておくだけです。 ただ、リンパ球を増やすだけなら、
そんなに手間はいりませんので、
小さなクリニックが片手間に作業を行い、
免疫細胞療法を実施している、そういうところも
あるのです。 自分のところが、ミスを犯さないようにするのは当たり前ですが、
くれぐれも、他の医療機関さんも、安易に免疫細胞療法を考えてしまい、
ミスを犯すことなどないよう、しっかりとやっていただきたいものです。
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