藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

TOP > iPS細胞より遥かに現実的なもの(2)

2011年05月27日

  

えとせとら, 免疫

2011.5.26.
 
 
(前回からの続きです)
 
iPS細胞より遥かに現実的な「細胞」の話をする前に
前置きが長々、続いてしまいます。
 
 
「一個の細胞から組織をつくる」ことよりも
「組織の大きさを大きくするだけ」の方が
遥かに現実的、というのが前回の話でした。
 
今回は、一個の細胞から、組織を再生して
実用化されている「ジェイス」について
軽く触れさせていただきます。
 
 
一個の細胞の数を増やすことができても
「組織」とするのは、かなり大変です。
特に、「幹細胞」という分化が進んでいない
細胞を、大量増殖させた場合、「核型異形」など
異常な細胞が発生する確率が高くなります。
正に、「がん幹細胞」を増殖させるのと
似たようなプロセスになります。
(がん細胞も悪性度が増していく過程で
 核の形状が異常化していきます)
 
また、「綺麗な」組織にするのが難しいのです。
生体組織を見慣れた目には、「いびつ」な組織にしか
見えないような代物になることが多いのです。
 
前回の角膜「増殖」においても、組織を成長させるには
「ベッド」が必要です。 アルブラスト社と
セルシード社では、各々、全く異なる技術を用いており
今回、説明はしませんが、非常に特殊なシートの上に
角膜組織を成長させていく工夫がされています。
 
 
「ジェイス」というのは、ジャパンティッシュエンジニアリング社
というベンチャー企業が、厚生労働省の薬事法上の製造承認を
取得した「医薬品」です。
 
これは、重度熱傷の患者さんの皮膚組織を取り出し、
バラバラの細胞にばらして、そこから皮膚組織にまで
成長させるものです。 
 
単純に細胞を増殖させると、もう無茶苦茶な細胞集団に
なってしまい、ともて、「皮膚」などと呼べるようなものには
なりません。
 
ジェイスは、フィーダー細胞(直訳すると餌をあげる細胞)を
培養しておき、フィーダー細胞が広がったシートの上で、
患者細胞を増殖させ、皮膚を形成する
組織の層の一つにまで育てるのです。
 
 
重度熱傷を負ってから、本人の細胞をとって、シート状に
育てるので、火傷を負ってから何週間も使えません。
かといって、他人の細胞から培養したのでは、拒絶反応を
起こしてしまいます。 豚皮真皮などは随分、昔に保険適用に
なりましたし、ある程度は、効果はあるのですが、定着は
しないわけです。大面積の皮膚がやられた場合は、自力で
再生するのは難しいので、培養によって、育てた本人細胞
由来のシートを張っていくことで、失われた皮膚を回復
させていく、というものです。
 
 
「ジェイス」は、夢物語ではなく、ちゃんと「実用化」
されています。 
 
ただし、何でもできるんだ、と思ったら大間違いです。
ジェイスは、もともと、再生能力が高い皮膚の細胞を
使っており、幹細胞から分化させているのではありません。
また、シンプルにシート状に広がれば使えるものを
開発目標に選んだのが正解だったのであって、
じゃ、心臓つくれるのか、とか、もっと複雑なものを
再生というと、これは相当ハードルが高くなります。
 
 
また、培養してつくったシートをどうやって、患者さんの
体表に「生着」させるか、という問題もあります。
手術の際に針と糸で縫う代わりに、糊で固めてしまう、
こういう製品がいくつかあります。
化学物質で製品化されたのがアロンアルファです。
今では、コンビニで家庭用として売ってますが。
アロンアルファをところどころ垂らすと、培養皮膚を
貼り付けることはできるのですが、垂らしたところは
壊死を起こしてしまいます。
 
他、コラーゲン系のものや、血液凝固系の物質を用いるものなど
いくつか、生体糊がありますが、この手のものは、糊自体が
自分で固まってしまう傾向が強く、接着力は今いちです。
 
PRCという生体糊を使うと、見事に生着します。
それは素晴らしいのですが、重度熱傷を負った直後に
PRCを単独で塗布しても、かなりの効果があるのです。
これなら即効性もあり、抗菌作用もあり、接着力も強く
保水作用や止血作用もあります。
本人の皮膚が再生してきた部分から
自然にはがれていきます。
ところが、薬事法上の許可を取ってないので
医師法に基く院内処方しか使えません。
このPRC、GMPを想定したパイロットプラントは
存在し、原材料の調達や品質管理も確立しており
医薬品と承認を取るにあたって、障害となるポイントの
ほとんどを、「技術的」にはクリアしています。
医薬品メーカーとの契約もできたり、
修正が入ったりと、紆余曲折を経ておりますが、
何せ、資金力のないベンチャー企業が
開発した技術なので、実用可能だと
見えていても、許認可取得手続き
が進まないのです。
 
治験をやって有効性を確認するなどという考え方は
現実の医薬品の開発現場には通用しません。
治験をやらなくても、これならいける、と
根拠がなければ、巨額投資はしません。
治験に失敗することはあるのですが、
やると決めた時には、結果がでることを
想定して、治験設計が行われているのです。
ただし、実行するには巨額資金と、大きな
組織、長い時間、延々と続く文書作成と
議事の応酬が続き、ベンチャー企業では
なかなか耐えられません。
ジェイスの承認をとりつけた
ジャパンティッシュエンジニアリング社は、
「お見事」というほかありません。
社長さんは、いや、延々と続く不毛の議論に
ほとほと疲れましたが、あきらめたら終わりなので
粘り抜きました、とおっしゃってました。
 
 
ジェイスは、既に承認されており、これで実際に
助かる人もいるんですから、何らケチをつける気は
ありません。 もっと事業としても伸ばしていただき
たいのですが、ただ、技術的な話をすると、
生体高分子というパートナーにもなり得て、
かつ、競合にもなり得る技術が存在する
ということです。
 
 
再生医療全体の問題ですが、どういう技術か、ばかりが
注目されるのですが、「何をするのか」が大事なのです。
そして、目的によっては、わざわざ組織再生をする
必要はないものも多いのです。
 
 
(続く)
 
 
 
 
 
 
 

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