2010.9.10.
帝京大学病院の院内感染問題が取り沙汰されています。
まだどういうことで落ち着くか分りませんが、
管理の杜撰さを非難する声が強く
週刊誌の中には、米国の最新の消毒薬を認可しない
厚生労働省が悪いんだ、これは人災だ、という
記事を書いているところもあります。
結局、帝京大学病院が悪いんだ、
とんでもない病院だ、ということになるのでしょう。
では、どこの病院なら安心でしょうか。
そんなところはありません。
患者さんが集まるんですから。
当然、感染症は発生しやすいのです。
危険な菌の殆どは外からくるのではなく、
元々、人間の体内にいるのです。
普段、仲良く暮らしているのに
攻撃されるから怒りくるって反撃してくるのです。
生きるために。
どんなに消毒したところで、菌がいなくなることはありません。
管理がずさんだ、とんでもない! というのは、一見、
正論のように見えるかもしれませんが、裏を返せば
管理をすれば院内感染を防げるという傲慢な意識の
あらわれ、ということです。
どんなに管理したところで、菌は全滅しません。
もし菌が全滅したら、人間は生きていけません。
人間の体は、60兆個とか、100兆個の細胞から
できていると言われますが、菌の方も、一人の人間の
体の中に、100兆個くらいはいると考えられています。
これが一緒にいないと、消化もできないし、必要な
物質もつくってくれないし、無菌では人間は生きて
いけないのです。
また、菌がいるから、外部の菌の侵入を防いで
くれているのです。
ウイルスにいたっては、生きている細胞を調べれば
ウジャウジャとみつかります。
酵母菌くらいです、ウイルスがみつからないのは。
私達は、もう、100兆個なんて単位ではない、もっと
大量のウイルスを体内に抱えて生きているのです。
これらの菌やウイルスの中には、普段はおとなしくても
暴れると人間を死にいたらしめる怖ろしいものもいます。
院内感染の原因とされる菌も、元々から体内にいる
常在菌の一種です。
つまり、人間が生きている限り、
院内感染を発生させうる菌を全滅させることは
不可能だ、ということです。
病人の体内では、免疫
も弱く、菌が暴れやすい状態です。
しかも、薬剤を大量投与するのですから
益々、免疫は低下し、そこへ抗生物質を
次から次へ投与すれば、薬剤耐性をもった
危険な菌が増えてくるのは当然のことです。
抗生物質で菌を攻撃する、
そのことで助かる人も大勢いたわけです。
だから普及したのです。
とはいえ、菌は生き物です。
攻撃されると必ず反撃してきます。
そもそも抗生物質自体が菌が生み出した産物です。
抗生物質は、自然の営みの中で、ある秩序の元に
使われたきた「古典的な武器」なのです。
抗生物質に対応する防御システムも昔から存在しているのです。
抗生物質で菌が全滅することはないのです。
もちろん、現在使用されている抗生物質の大半は、
自然に存在する基本骨格をベースに、枝葉の構造を
変えたものが殆どですが、多少、構造を変えても
対応できるような防御システムが、菌の遺伝子に
組み込まれているのです。普段、この遺伝子は
眠っていますが、抗生物質の攻撃を受けると、
自分自身が受けなくても、周辺の仲間の菌が
攻撃を受けると、その情報は「細胞間連絡」という
微小管を伝って、菌体を越えて伝わります。
菌は単細胞生物といっても、意外と沢山の菌が
集まって、まるで多細胞生物のような組織をつくり
頻繁に電気信号や化学物質で情報交換をしています。
遺伝子の交換さえもやっているのです。
そして、菌の細胞内で、遺伝子の組み換えが起こり、
眠らせていた薬剤耐性遺伝子を稼動状態にします。
更に、まだ攻撃を受けていない仲間の菌にも
薬剤耐性遺伝子のコピーが配布されます。
結果、あっという間に、薬剤耐性が広がっていくのです。
甘くないのです、自然界は。
見境なく、大量に強い抗生物質を使い続けた結果が
今日の薬剤耐性菌の大量出現であり、
院内感染の大規模な流行です。
普段は、報道しないだけで、日常茶飯事で起こっているのです。
消毒で菌がいなくなるというのも妄信です。
消毒で殺せる菌もいます。
だからといって全滅するわけではないのです。
平
成2年の廃棄物清掃法の制定により
病院内に感染性医療廃棄物を処理する
焼却炉の設置が義務付けられたことがありました。
なぜそうなったのかというと。
ある調査によれば
200床以上の中規模病院では院内感染は
日常的に発生しており、例えば、老人の死亡原因の
4割が「が胞菌」(ワープロで変換できません、、、)による
呼吸器障害が関係している、としていました。
他の菌も含めると、結局、中規模以上の病院に
入院してなくなる方の過半数が院内感染が
原因で死亡している、というレポートだったのです。
これはいかん、では、おむつから透析チューブから
患者と接触し、患者体液を含んでいるものは
病院の外へ運びだすのではなく、院内で処理しなければ
いけない、そうしないと町中、感染症だらけになる、
ということになったのです。
その際、800度C以上の温度を1秒以上持続する、
というのが焼却炉の条件となりました。
どうして、800度Cか。
「が胞菌」の「が胞」が死ぬ温度が800度とされていたのです。
実際には、800度Cでは死なないことが後から分り、
大騒ぎになるのですが。
800度Cですよ。
アルコール消毒や、塩素殺菌なんか、何の役にも立たないどころか、
むしろ下手に刺激して、発芽を促してしまいます。
簡単に言うと、防ぎようがないのです。
乾燥しようが、湿っていようが、全く平気です。
どんな菌でも、環境がいいときは、どんどん増殖しますが、
環境が悪くなると、生命活動を休止し、耐久体となります。
こうなると、少々のことでは死なないのです。
菌を薬剤で刺激して、強くしてしまうと、健康な人でも
感染するくらい、強くなってしまいます。
ましてや、体力や免疫力が落ちた人は、
いつ体内の菌が暴れるか分りませんし、
他人の体内で暴れて勢いが強くなった菌に
接触したら、感染する確率は更に強くなります。
人類は、菌を制圧できるような技術も武器も
もっていないのです。たかだか抗生物質や消毒薬ごときで
菌を制圧できると思っていると、益々、菌は強くなるだけです。
欧米では、むやみやたらと抗生物質は処方しません。
処方する場合も、菌を体外に取り出し、菌の素性を調べます。
そして、その菌以外の菌を極力殺さない、スペクトラムの狭い抗生物質や
抗菌剤を使用します。 日本は、異常にワイドスペクトラムの
色んな菌を殺してしまう抗生物質をろくに検査もしないで、
いきなり投与し続けてきました。
結果、大病院は、薬剤耐性菌による院内感染の巣と
なってしまったのです。
薬の使い過ぎを是正しない限り、院内感染は更に猛威を
ふるうことになるでしょう。
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