藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
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TOP > 国がんさんのNK活性の測定法

2016年03月23日

  

がん, 免疫

しばらくご無沙汰しております。

 

発表後、時間がたってしまいましたが、国がんさん(築地の国立がん研究センター)がNK活性測定法について論文発表されています。

 

タイトルは、NK活性測定ではなくADCC活性の測定になっています。

 

分子標的薬の内、抗体医薬品の使用にあたっては、患者さんのがん細胞が薬の標的となるレセプターをどの程度、発現しているのか、

 

あるいは、標的物質に関連する遺伝子変異の有無など「標的」サイドの検査を行って投薬の可否を判定しています。 国がんさん強調しておられるのは抗体医薬品が、どれだけの切れ味を示せるかを事前に検査するには、標的サイドだけではなく患者さん体内のNK細胞のADCC活性が、どこまで残存しているのか、そこが重要だとしています。

 

それは、当然のことなのですが、免疫チェックポイント阻害薬ばかりが脚光を浴びている状況の中で、もっと実用性が高いADCC抗体について、国がんさんが、重要な事実を指摘されるということに、まず「意義」があります。

 

さて、国がんさんは、どんな測定法を開発したのかというと。

 

まず、標的がん細胞に、グリーンの蛍光を発する仕掛けをしておきます。これ自体は、基本的な細胞技術です。標的がん細胞は、もちろん、ADCC抗体医薬品の標的サイトを発現しているものを選びます。

 

次に、死んだ細胞、つまり、細胞表面に孔が空いた細胞には外部から入り込んだ物質がブルーに光るようにしておきます。

 

すると、がん細胞はグリーンに光り、死んだがん細胞は、グリーンに光りながら、ブルーに光ります。

 

この状態で、患者さんから採取された免疫細胞とADCC抗体を投入します。

 

ADCC抗体がなくても、NK細胞は、がん細胞を 攻撃しますが、ADCC抗体が介在すると、がん細胞を攻撃するスピードが早くなります。所定の時間、バトルを行わせフローサイトメーターにかけます。

 

つまり、培養液を細胞ごと細い糸のように 垂らし、時折、一個ずつ細胞が通過するように します。その際、グリーンの光だけを検出したら生きたがん細胞が一個、通過したということになります。 同時に、ブルーの光も検出されたということは死んだがん細胞が一個通過した、ということになります。

 

こうして、生きているがん細胞と免疫細胞によって殺された(とみなされる)がん細胞を一個ずつかぞえるのです。

 

国がんさんは、これまでADCC活性を測定する方法はあったものの、不安定であり、また一度、免疫細胞を凍結するとデータがつかいものにならなくなっていた。今回の手法は凍結保管した免疫細胞を融解して検査にかけてもデータの再現性がある、としています。 つまり、各地の医療機関で採取された免疫細胞を凍結して送ってくれれば検査を実施できるということです。

 

さて、実際、どれくらいの精度でどれほどのコストで実施できるのかという問題は、まだ残っていますが原理的には、個々の技術は昔からあるもの、ただ、がん治療の臨床上の意味のあるデータを安定かつ実用的にとることができれば実用上の意義は非常に高いということになります。

 

じゃ、こういう手法でANK療法の効果判定をできるのか、というと。

まず培養ANK細胞の活性測定には全く使えません。それは無理です。絶対に無理とはいいませんが、かなり難しいです。ANK細胞の活性は非常に高く、顕微鏡で観察すれば、がん細胞を殺すのは一瞬、ほぼ瞬殺です。そして無残にもバラバラになったりします。グリーンの標識が飛び散りますし、ブルーの色素ががん細胞内に入ろうにも、破片化するとそもそも「中」というものがなくなってしまいます。これは培養ANK細胞を点滴前に測定する場合の話です。

では患者さん体内に点滴でANK細胞を戻すとどうなるかです。静脈に投与して30分以内に全身を巡り、血管のスリットから飛び出して、がん細胞にあっという間に猛攻をかけるわけですが、点滴すれば元々、体内にいた数百倍もの数のNK細胞と混ざるわけですし、体内のがんの免疫抑制も受けますので、患者さんの血液の中にいる平均的なNK細胞の活性は培養ANK細胞よりはるかに低くなります。 そうなると測定条件の設定次第では、今回のやり方でできるのかもしれません。そこはやってみないと分かりませんが。

今回の想定法はあくまで、患者体内のNK細胞で、ANK療法のような強い免疫刺激がかかる前の状態で、NK細胞ががん細胞を瞬殺一掃するほど強くないという前提で開発されたものです。ほどよく、少し孔があいて染色された、がん細胞、これでなければ測定は無理です。

フローサイトメーターで正確にNK細胞の活性を測定するにはANKは強すぎるのです。

 

巷には、NK活性を測定している、とする検査機関や 大学などが、いくつもありますが、今回の国がんさんもおっしゃってるように、従来法は 精度が低すぎ、特に再現性がないので、問題が多すぎるということです。実際に同じ患者さんのサンプルを複数提供すると全く違う数値がでてきたことがあります。NK細胞の活性は日内変動、一日の内に激しく変化しますのでどんな活性測定であれ、日内変動要因を排除する仕掛けがないとデータは安定しません。国がんさんの測定法も、NK細胞と標的がん細胞を戦わせる環境設定をうまく工夫しないと日内変動を拾うことになります。それは今回の開発の目玉である計測手法とは別の問題です。」

 

では、ANK陣営はというと、研究レベルでは日内変動要因を排除した正確で再現性が確保された測定手法が確立できるのですが、全国の患者さんの体内のNK活性を正確に測定するとなると
あと、現実的なコストに抑え、患者さん全員の検査を頻回に行うだけのキャパをもつこと、、、となると実用上は 難しい、のです。

 

ならば、NK細胞以外の細胞を測定すればどうか、というとこれは、とりあえずあてになりません。免疫抑制系の細胞を測定することはできますが免疫抑制をかける細胞は山のようにいますのでどれかだけを測定する意味がどこまであるのかは不明です。

 

やはり、がん治療を考える上でがん細胞を傷害するNK細胞の活性を測定するここが要であることは、昔から動かしようもないのですが逆に、それがわかっていても実用的なNK活性測定を
全国で大規模に実施することはできなかったのです。

 

今回の国がんさんの検査法が、どこまで実用性を発揮できるか、注目には値します。

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