このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
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TOP > 「血液細胞でがん攻撃」報道について
2018.3.13.
NK-T細胞を用いたがん治療の実験を
とある大学が行い、今後、治験に入る
とする報道がありました。
NK-T細胞というのは名前の通り
NK細胞とT細胞の中間的な性質をもつ細胞ですが
多くの研究者が、T細胞の中でもMHCクラスI非拘束性と
いうのですが、あまり普通ではないT細胞の中の
更に特殊なものをNK-Tなんだと呼んでしまう傾向があります。
そこまでふみこむと面倒ですので
とりあえずNK-T細胞ということにしておきます。
NK-T細胞はNK細胞のように細胞表面の複数の
標的を複合的に認識し、様々ながん細胞を傷害しますので
T細胞よりははるかにがん細胞を認識する能力が
高いのですが、かといってNK細胞と比較すると
傷害活性は足元にも及びません。
その代り、NK-T細胞の方がT細胞の性質も併せもつため
NK細胞よりも増殖スピードが速く、培養の難易度も
NK細胞よりはるかに簡便です。
ところが、がん治療に用いる場合は根本的な問題があります。
免疫刺激能力がほとんどないのです。
そのため、体内に投与しても、
直ちに強い免疫抑制により
活性を失ってしまいます。
これはT細胞の一種であるCTLを用いても
γ/δT細胞を用いても樹状細胞を用いても
何を用いても同じです。
NK細胞のように腫瘍組織が発動する
強力な免疫抑制に対抗して
強い免疫刺激をかけていくものは
他にみあたらないのです。
報道では延命効果がみられたようなことを
紹介していますが、あくまでマウスの実験です。
マウスの場合、NK細胞の数が少なく活性も低いのですが
NK-T細胞は割と多めにいます。
人間の場合、NK-T細胞は非常に数が少なく
特に末梢血中にはほんの僅かしかいませんので
大量に採取するのは難しいです。
がん患者さんの体内では免疫システムが
正常に機能する潜在力は維持していながらも
腫瘍組織による強力な「腫瘍免疫に対する」免疫抑制が
発動されており(感染症免疫は抑制されていないことも
多いです)、これを緩和しないと如何なる免疫治療も
効果を発揮できないのですが、
あ、じゃあ免疫チェックポイント
阻害薬を投与すれば、とはなりません。
複雑な免疫抑制信号系のごく一部に触れるだけだからです。
肝心のNK細胞はほとんど目覚めてくれません。
マウスの場合は、マウスの免疫システムに漠然と
機能低下を来す措置をしてあり、感染症免疫も低下しています。
マウスにヒトがん細胞を移植する場合は、腫瘍免疫というよりも
外部からきた異物ですので感染症免疫を抑制しておかないと
移植がん細胞が根付かず、実験になりません。
人間の体内とはまるで状況が異なるわけですが
そこへNK-T細胞を投与して延命したからといって
そのまま人間のがん患者さんに投与しても
腫瘍免疫に対する強い抑制により
同じような効果は期待できません。
では、強力な免疫刺激をかけながら
NK-T細胞を大量投与すれば、がん治療に
なるのか、というと、NK-T細胞は
喘息の原因になると考えられており
副作用のことも考慮する必要があります。
いずれにせよ、NK細胞に比肩するようなものではなく
メリットとしては、培養がNK細胞よりは
簡便であるということです。
少なくとも、がん細胞を認識し傷害する能力は
ありますので、T細胞や樹状細胞よりは
まだ筋目はいい、ということになります。