藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

TOP > NK細胞の認識メカニズム

2017年12月03日

  

がん, 免疫

2017.12.3.

 

 

NK細胞による

がん細胞と正常細胞の識別というのは

非常に複雑なメカニズムですので

これをまともに説明するのは容易ではなく

極力、簡便なイメージで説明するように

してきましたが、もう少しだけ

踏み込んだ説明をこころみてみます。

 

 

ただ、いつも申し上げているように

ある特定の物質が「ある」か「ない」かで

がん細胞かどうかを識別することはできません。

 

もしそんなわかいやすい標的物質が一つでも

存在するなら、その標的物質を狙う特効薬が

つくれるわけですが、誰もつくることができません。

 

つまりがん特異抗原と称されるがん細胞には

必ず存在し、正常細胞には存在しない物質は

みつかっていない、ということなのですが。

 

 

では、NK細胞はがん細胞にも正常細胞にも

存在する物質を手掛りに、どうやって

両者を間違うことなく区別できるのでしょうか。

 

 

さて、実際には色はついていないのですが

イメージしやすくするため、いくつかの種類の

物質群を色で表わします。

 

 

まず、多くのがん細胞は、遺伝子そのものに変異が

あることもあれば、遺伝子は同じでも遺伝子を

構築するDNAの鎖にメチル基がくっついてしまい

遺伝子としての機能に変異を生じているものもあります。

 

ともかく、何らかの異常があったり、異常を修復する

遺伝子が活発に作動していたり、などなど、あまり

通常ではない遺伝子の活動状態がいくつも知られています。

 

 

結果として、がん細胞表面に(赤1)という物質が

沢山現われました。 でもすべてのがん細胞に(赤1)が

沢山現われているわけではありません。

 

また、正常細胞もよく観れば(赤1)を発現しているものがいます。

 

 

(赤1)が「ある」か「ない」かでがん細胞と正常細胞を

分けることはできないようです。

 

 

ところが、(赤1)をそれほど多く発現していないがん細胞の中には

(赤2)という物質をたくさん発現しているものがいます。

やはり正常細胞にも(赤2)を発現しているものが少しいますが

量はそれほどでもありません。

 

(赤2)を「発現している」か「発現していない」だけで

がん細胞と正常細胞を分けることはできないのですが

 

がん細胞の多くは、

「(赤1)か(赤2)かどちらかを大量に発現している」

 

のに対し、正常細胞では、

「(赤1)か(赤2)かどちかでも大量発現しているのは少ない」

 

 

一種類の物質だけでみるより、二種類の物質でみる方が

がん細胞と正常細胞を分けやすくなりました。

 

 

さらに、(赤3)、(赤4)、(赤5)、、、、、 と実際に

いくつも標的物質が知られているのですが

これらを組み合わせていくほど、がん細胞の方が

より赤く見え、正常細胞の方が、それほど赤くは見えない

という状況になってきます。

ただ特定の物質、たとえば(赤3)だけにこだわってしまうと

がん細胞であっても(赤3)をほとんど発現していない

ものがいくつかみつかります。

 

 

一方、赤とは特性が異なる緑の物質も細胞表面に沢山発現してきます。

 

同じように(緑1)、(緑2)、(緑3)、、、、 と何種類もあり

がん細胞ごとにパターンは違っていても、全てのがん細胞が

緑シリーズのどれかは沢山発現しており、全体を眺めれば

がん細胞は、より緑に、正常細胞はそうでもないように見えます。

 

 

更に、がん細胞は(赤N)も(緑N)も大量に発現していますが

正常細胞で両方とも大量に発現しているものは見当たらないようです。

 

 

NK細胞の表面には、特に、人体から採取したばかりの野生型の

NK細胞を強く刺激し高度に活性化した状態では

多種大量の認識センサーが発現しています。

ここまでの説明に合わせれば、NK細胞表面には、

数十種類のKARと呼ばれるセンサー群が発現しており、

各々が、(赤1)を認識する、(赤2)を認識する、、

(緑1)を認識する、、、 と役割が決まっています。

 

KARは、標的細胞表面に自分の担当標的物質をみつけると

NK細胞の内部に向かって、「攻撃せよ」

という信号を発信します。

 

「おそらく」、赤だけの信号や、緑だけの信号が発信されているより

赤の信号と緑の信号の両方が強く発信すると、相乗作用で一気に

強力な信号となるようです。

 

 

 

ただここまでの説明では、がん細胞と接触したNK細胞は

強い攻撃信号が発動され、正常細胞と接触したNK細胞は

「非常に弱い攻撃信号」が発動される、ということになります。

これで正常細胞への誤爆を本当に防げるのでしょうか。

 

 

細胞表面には、赤や緑とは全く別系統の青の物質も発現しています。

 

やはり(青1)、(青2)、(青3)、、、、 と何種類か知られています。

 

がん細胞表面と正常細胞表面を比較してもそれほど顕著な差は

見られません。 そしてNK細胞表面には、KIRと呼ばれる

センサー群が発現しており、それぞれのセンサーが(青1)、(青2)、、、

と特定の標的物質を認識します。

 

がん細胞と正常細胞とで、それほど区別がつかない物質を認識して

何か意味があるのでしょうか。

 

 

大きな意味があります。

 

 

 

標的細胞表面に自分た担当する青系統の物質をみつけたKIRは、

「攻撃するな」という信号をNK細胞の内部に向けて

発信します。

 

 

相手が、がん細胞であれ、正常細胞であれNK細胞のKIRが

発信する「攻撃するな」信号に大差がなくても

「攻撃しろ」信号の強さには大きな差があります。

 

 

仮に、あるがん細胞と接触したNK細胞の内部に向けて

赤35 緑25 青-13 の信号が発信されたとします。

 

赤と緑、両方とも強いことによる相乗作用により

両者は3倍に増強され、

(35+25)X3 =180 となり

そこから 青の13を引くと 167 となります。

 

一方、ある正常細胞と接触したNK細胞の内部に向けて

赤11 緑1 青―13 の信号が発信されたとします。

 

緑が弱いので、赤と緑の相乗効果はなく

 

11+1―13 = -1  となります。

 

 

結果として、167の攻撃信号となったがん細胞は

一瞬にしてNK細胞の猛攻により殺傷され

マイナス信号となった正常細胞に対しては

「一発も弾をうたない」ということになります。

 

 

マイナスの信号を組み合わせることで

誤爆のリスクを激減することができます。

 

 

赤とか、緑とか抽象的な言い方をしましたが

NK細胞のKARは、主に糖鎖構造を認識するタイプのものと

主にペプチド構造を認識するタイプのものに大別されます。

 

細胞表面から目につくのはペプチドよりも圧倒的に糖鎖です。

 

 

NK細胞は糖鎖構造の認識にも長けています。

 

 

青を認識するKIRの中で最初にみつかったのが

標的細胞表面のMHCクラスIを認識するものでした。

 

ここから、NK細胞はMHCクラスIを発現しなくなった

細胞を異常と認識して攻撃するという誤解を生じていったのですが

実際に、特殊な選別を受けたNK細胞をクローン培養によって

増殖させると、MHCクラスIを発現するがん細胞を

攻撃しないものを拾いやすいです。

 

 

但し、野生型で活性が高いNK細胞の場合は、KIRの信号を

圧倒するKARの攻撃信号が発信されるため、標的がん細胞に

MHCクラスIがあってもなくても攻撃します。

>>全投稿記事一覧を見る