このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。
TOP > iPS細胞からNK細胞をつくる話
2016.12.16.
iPS細胞からNK細胞をつくる
プロジェクトが、他社さんから
リリースされて、時々、問い合わせがあります。
うちはやりませんよ、と答えております。
NK細胞をがん治療に用いる際に
最大のハードルとなるのは
高活性NK細胞の培養は難しい
これに尽きます。
iPS細胞からNK細胞をつくろうが
体内からNK細胞を採ってこようが
活性を跳ね上げないと役に立ちませんし
活性を跳ね上げれば、培養は難しくなるのです。
つまり、NK細胞を確保することより
確保した後が肝心ということです。
NK細胞自体は、体内にたくさんいますので
採ってくればいいのです。
iPS細胞を作製し、それをNK細胞に分化誘導し
そこから、活性化・増殖となると、時間、手間、
コスト、本当のNK細胞なのか?
がん化リスクをゼロにすることはできない、、、
などなど、問題だらけですので
どう考えても、体内から本物のNK細胞を
採ってくる方が有利であり、現実的です。
いや、NK細胞だけを選択的に増殖させることは
難しいので、iPS細胞からNK細胞をつくれば
最初からNK細胞しかいない細胞集団をつくって
特別な技術を用いなくても、NK細胞だけを増やす
ということが自動的にできるんだ、という主張が
あるようです。
うちは、NK細胞だけを選択的に増殖させるので
わざわざNK細胞だけの集団をiPS細胞からつくろうという
動機を持ち得ないのですが、選択的増殖技術を
もつところは、他に見当たりませんので
iPS細胞から、純潔NK細胞集団をつくればいいんだ
という発想がわいてくるのは理解はできます。
それにしても、進行がんの治療は待ったなしです。
自家細胞、つまり患者さん本人の細胞から
iPS細胞を作製する、なんてやっていたら
NK細胞の培養ができるころには、
とっくに手遅れになっているかもしれません。
私どもも、如何に培養期間を短くできるかを
考えてきたのです。
自家細胞からiPS細胞→NK細胞というのは
あくまで、中間的なマイルストーンということでしょう。
そうやって知見を積んでおいて、
がん化リスクを回避するため
ES細胞からNK細胞をつくる、とか
他家、つまり患者本人以外の細胞から
iPS細胞をつくる、という方向へ
もっていくことを考えているのでしょう。
もっとも、ES細胞は、現時点では
倫理上の問題により、日本では大っぴらには
できません。 米国では当たり前にやっています。
このままでは、iPS細胞に拘る日本は、
平気でES細胞を使う米国に圧倒されてしまいます。
時間の問題で、iPS細胞は実験道具という本来の
居場所に戻り、(実態は今でもそうですが)、
実用化は、ES細胞を使うことを誰しもが
考えているでしょう。
さて、他家のiPS細胞から組織を人工的に作る場合は
免疫抑制剤の使用が前提になっています。
そもそも、自家iPS細胞から組織をつくっても
自己免疫反応を誘導すると、米国研究者グループから
指摘された際に、山中教授は間髪入れず、いや
実用の際には、どのみち他家ソースを用いるので
免疫抑制剤の使用は、所与と考えているので
自己免疫反応の有無は問題ではない、
と回答しておられます。
NK細胞を誘導、培養してとなると
がん治療ということになりますが
免疫抑制剤の使用を前提にしているなら
どうしようもない矛盾を抱えていることになります。
HLAの型を合わせる、というお考えのようですが
それでは、膨大なバリエーションを用意するため
大量のiPS細胞バンクをつくっておく必要があります。
これは、このプロジェクトに限らず、再生医療推進のための
バックアップシステムとして、国家ぐるみで、iPS細胞の
バンクをつくるとしていますが、
研究用のバンクに比べると、臨床の実用のバンクは
はるかに難易度が高くなります。
患者さんのHLAタイプを調べ、同じタイプの人を
探していたのでは、自家の細胞からiPS細胞をつくるより
遅くなることはあっても、早くなることはありません。
iPS細胞から誘導しておいたNK細胞を大量培養しておき
患者さんがきたら、すぐに融解して投与(再培養が
必要ですが)することを考えないと、実用性は
ありません。
もちろん、最後まで、がん化リスクは
ついてまわります。