このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。
TOP > 免疫力は測定できるのか
免疫力は測定できるのですか ?
というお問い合わせをよくいただきます。
免疫力といっても免疫全体のレベルは測定できないどころか定義もありません。
免疫力をつけて
免疫力を高める
こういう言い方はなんとなく何を言ってるかはわかるような気はしますが漠然としたイメージであって
測定できるかできないか以前の問題で、はたして免疫力というものが如何なるものを指すのか明確にできるかどうかも定かではありません。
免疫システムは基本的に寛容といいますが異質なものを受け容れます。
受け容れ過ぎて抱えきれなくなるとがんになります。
こう書くと何のことを言ってるのかちんぷんかんぷんかもしれません。
免疫というのは外部からやってくる異質なものを排除するといったイメージが強く広まっていますがそれは、免疫のごく一部の面を見ているに過ぎません。
そもそも、がん細胞というのは本人の細胞です。
外部からやってきたのではなく自分自身の細胞です。なので、外部からやってくる異質なものを排除するタイプの免疫システムは作動しません。
細菌のような自分自身ではないものを排除するタイプの免疫システムは、がん細胞という本人の細胞そのものを攻撃すべき異物と認識することが困難です。
もっとも、体内には100兆個ともそれ以上とも言われる細菌が生きており、大部分は腸内など体の外のようなところにいるわけですが、中には組織中にいるものもいますし腸内細菌はしばしば体内に入り込んできます。消化管の粘膜組織は結構「穴」があき細菌そのものや食べたたんぱく質などがそのまま体内に入り込むということが頻繁に起こっています。 これもたんぱく質を食べたらアミノ酸に分解されて吸収されるという「思い込み」が広まっているために現実が見えなくなっている弊害の一つです。実際には私たちの免疫システムは膨大な数の細菌を寛容しているのです。免疫が異物を排除するシステムだとしたらなぜ、体内に膨大な数の「よその生き物」が活動しているのでしょうか。ウイルスはもっと存在しますが、なぜ免疫は攻撃しないのでしょうか。
さて、免疫とは何か、という基本的な問題を棚にあげたままで、免疫力は測定できるのかという問いにこたえることはできないのですが、敢えて深い問題を置いておき、測定できるのかというポイントだけに話を絞りましょう。
免疫力を一つの数値で表すことは不可能です。
便宜的に免疫力を感染症免疫と腫瘍免疫(がん免疫)の二つにわけることができることにしましょう。 実際は、そんな単純ではありませんし、自己免疫という自分自身を攻撃する免疫もあります。免疫チェックポイント阻害薬で有名になったPD-1やPD-L1という免疫抑制システムは腫瘍免疫やがん細胞独自のものではなく、自己免疫疾患を抑制するために多くの正常細胞が備えているものです。こういうものあり、もっといろいろとありますが話が進みませんので。
感染症免疫を正確に数値化することはできませんが極端に末梢血液中の白血球数やリンパ球数が低下すると、通常、感染症免疫は低下しています。 逆に白血球数が多い場合は異常な白血球が増殖していることもありますし、極端に多いと「白血病化」している可能性が高くなっていきますが、単純比例とはいかないまでもある程度感染症に対する抵抗力と白血球数やリンパ球数には、正の相関があります。
ここで言う白血球数とかリンパ球数はあくまで末梢血液中の密度を言ってるのであって一時的に血液中からリンパ球が血管外へ大量に飛び出すことなどもありますので、全身の数がそのまま末梢血中の密度に比例するとは限りません。例えば腫瘍免疫が強く刺激されると一時的に末梢血液中にいるNK細胞が激減してしまいます。これは腫瘍に殺到して「お仕事」をするために血液から出ていったためです。ですので血液中のNK細胞の密度を調べれば腫瘍免疫が分かるというような単純なものではありません。 また血液中の免疫抑制系の細胞、たとえば制御性T細胞(Treg)細胞を調べるという話がよく登場しますが、免疫抑制をかけてくる細胞はものすごく種類が多いわけです。一つの免疫細胞の抹消血液液中の数を調べただけで腫瘍免疫を測定したことにはなりません。
ともかく白血球の多くは感染症に対応するものですのである程度数とパワーは比例とまではいかないまでも関係はあるわけです。
それ以上に精緻な感染症免疫能力を測定することは難しいです。 血液中の抗体が極端に少ないと感染症に弱くなっていると考えられますが血液中の抗体というのは実際のところ何に反応するものなのかよくわからないのです。 研究者がみてきた抗体は自分が投入した抗原に反応する抗体であって血液中を流れる抗体全体が主にどういうものに反応するのかを調べるのは技術的に大変困難です。 おそらく細菌共通構造や特異物質に反応するものが大量に存在するものと推測はできますが本当のところはよくわかりません。 唾液や涙などには細菌を分解する酵素が含まれており、特定の細菌に対する傷害能力を測定することはできますが、対象となる最近はグラム陽性菌など、一部であって、ウイルスに対する防御力や、ましてや腫瘍免疫というがんと闘う戦力をこれで測定したことにはなりません。ウイルスを分解する酵素もありますが、種類が多く、しかもそれだけでウイルスに対する抵抗力全体を測定したことにはならず、また腫瘍免疫とは何の関係もありません。 何かの指標をもって、これで免疫力という話が多すぎますが、そんな単純ではないのです。
さて、感染症免疫が強くても弱くてもそれと腫瘍免疫の強弱とは必ずしも直接の関係はありません。
極端に白血球数やリンパ球数が低下していれば腫瘍免疫も低下していると考えるのが妥当ですが腫瘍免疫担当細胞は白血球やリンパ球の総数の中に占める比率が低いので必ずしも比例関係にはなりません。
特に、抗がん剤投与後など、白血球数やリンパ球数が急劇に回復する状態では逆に腫瘍免疫は強く抑制を受け一度強く抑制を受けた腫瘍免疫の活動レベルは何年経っても回復しません。 感染症免疫に活躍する白血球の多くが腫瘍免疫の活動を抑制するタイプだからです。
抗がん剤投与後白血球数を回復する目的で投与される顆粒球コロニー活性化因子などは腫瘍免疫担当細胞に化けるはずだった免疫細胞の母細胞を、感染症免疫担当細胞に分化誘導するので感染症免疫は回復しても腫瘍免疫は低下してしまいます。
がん患者さんの中には白血球数が低下すると少し数が戻ってからANKの受診を考えるそういう人も多くいらっしゃるようですがすぐに来てほしいわけです。グランという商品名の白血球を増やす薬を投与されると腫瘍免疫は抑制を受けるのでその前にリンパ球を取りたいわけです。
ここまでの話簡単に言うと免疫とは何か簡単には言えないものの感染症免疫というものはある程度白血球やリンパ球数と関係はあるが腫瘍免疫は必ずしも関係があるとは言い難くむしろ白血球数が急回復すると腫瘍免疫が強く抑制される傾向があるということになります。
さて、では、腫瘍免疫力なるものを測定することはできるのでしょうか。
研究レベルでは可能です。
ところが多くの検体を大量に処理しコストを抑え実用的な検査システムとして実現させることはどこもできていません。
原理的には末梢血液中から採取した免疫細胞を標的がん細胞と闘わせどれだけのスピードで傷害するかを測定すればいいのですがNK細胞をよりわけるのは現実的ではありませんのでリンパ球集団のがん細胞傷害活性を測定しNK細胞比率を押さえておくというやり方になります。
NK活性測定と呼ばれる手法の基本原理は確立しており実際に各地で測定が行われているのですが残念ながら簡便法と呼ばれるものが普及しておりこれには大きな問題が二つ存在します。まずそもそも精度が非常に低いということです。その上「日内変動」を拾ってしまいます。
NK活性は固有値を中心に一日の内にも激しくアップダウンを繰り返していますが簡便法で測定すると、たまたまその時、それ位のレベルにいたものをデータにしてしまいます。そのため同じ人のサンプルを一日に何度も採取して測定すると得られるデータがまるで異なります。
もっと精度の高い手法でNK活性の固有値を測定することはできるのですが、今度は手技がしっかりと安定している検査技師を養成するのが大変で量産が利きません。
ということで、これまで、検査サービスとして提供されているものは簡便法ばかりであまり実用的な意味はなく精度の高い手法は一般サービスとして提供されていないため腫瘍免疫力を測定できるのかという問いに対しては研究レベルで可能ながら実際には一般の方がその検査を受けることはできないということになります。
国がんさんが新しいADCC活性測定法を開発したと発表しておられますがこれについては別の機会に紹介させていただきます。
昨年あたりから、盛んにTV局なり番組制作会社なりからコンタクトがありNK活性測定についてコメントなり実際の実験への協力なりを依頼されるのですが。
お話した上で、これまでのところはお断りしています。
実際に、実用レベルで、正確な測定サービスが普及しておらず極めて精度に問題のある測定サービスが各地で提供されている現状でNK活性の話題をジャーナリスティックに騒いでしまうとこれをやったらNK活性が上がったとか下がったとか患者さんを混乱させるだけの話が広まります。
すでに、相当、広まってますが。NK活性の固有値は少々のことでは変動しませんので何をやっても
それで腫瘍免疫が動くことはないのですがこういう話をすると番組としては視聴率を稼げなくなるので
大体引いていかれます。
結局、これをやれば免疫が上がるという様々な話にはそれが腫瘍免疫のことを言ってるのであれば根拠はないのです。
有名なものは、一通り調べてはみているのですが何の効果も見られないのです。
これで免疫が上がるという類の話は全くの作った話か精度の低い手法で測定された腫瘍免疫力が一時的に上がったように見えた、あるいは本当に一時的には上がったもののすぐに元に戻ってしまったものを言ってるようです。
では各地で行われているNK活性測定(簡便法)は何のためにやっているのでしょうか。精度が低くてもエイズ患者のNK活性が極端に低下し、ゼロに近づいているのか、まだそこそこプラスなのか、という判定には使えます。研究目的で用いる場合は「数」をこなせば精度の問題も日内変動の問題もある程度まで改善することができます。日内変動などは同じ検査を繰り返すことである程度平準化できます。あくまで「ある程度」ですが。何回も何回も同じ検査を繰り返し、得られた結果を統計処理することで精度の低さをカバーするのです。 あるいは住民1000人単位の平均NK活性を測定、こういう調査の場合は測定人数を大きくすることで個々の測定精度の低さを「ある程度」カバーすることができます。患者さん個々のNK活性が今どうなっていて治療をどう考えるかという問題になると厳密な固有値を高精度で測定しないと意味がないのですが、「大数」を統計処理するというやり方でNK活性とがんになりやすいリスク、あるいは進行がん患者の予後がNK活性の高低によって影響されるという一般的な傾向についての報告はいくつも為されています。もちろんNK活性が低いとがんの発症リスクは上がりますし、NK活性が高くなるほどがん発症リスクは下がります。また、治療後のNK活性が低いと非常に予後が悪く、治療後NK活性が高いと程度によるのですが再発しにくくなります。いずれにせよ活性が重要なのです。血液中のNK細胞数はさらに様々な理由で変動しますので細胞数を1回、2回とただ測定しても単純な結論は導けません。