このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。
TOP > 免疫チェックポイント阻害薬と悪性黒色腫
2015.5.29.
「サイエンスゼロ」では
好評につき、免疫チェックポイント阻害薬特集を
再放送するそうですが、この薬、相当のインパクトを
与えているのは、まちがいないでしょう。
だからといって、これで、がんが治ります、という
話ではなく、悪性黒色腫の一部に有効性を示した
という段階です。
「免疫抑制の克服」こそ、がん治療の要であることを
再認識させたというインパクトが大きいのですが
かといって、作用機序としてはCTL誘導に限定され、
切れ味は、それほどでもありません。
なぜ、悪性黒色腫なのでしょうか?
他のがんはどうなのでしょうか。
今のところ、他の部位のがんについては
全体的に、あまり芳しい成績になっていません。
悪性黒色腫は特殊なものなのでしょうか。
結論からいうと、「おそらく」がつきますが
「たまたま」でしょう。
悪性黒色腫が、免疫細胞にとって攻撃しやすい
特徴をもっているのではなく、他の治療が苦手と
しているため、まだ、免疫細胞のダメージが少ない
段階から、免疫治療を始められる、ということでしょう。
悪性黒色腫は、物理的な刺激により、飛び散りやすいことが
知られています。外科手術をするにも、手術によって飛び散る
リスクが高いと考えられ、放射線は最初から、あまり効果がありません。
(強烈な紫外線を浴びても、耐えられる仕組みの一部が暴走して
悪性黒色腫になっているのですから、紫外線と放射線の違いは
ありますが、当然、遺伝子損傷に対する修復系が強力ということが
想定されます)
抗がん剤はどうかというと、殺細胞剤はやはり、今一であり
分子標的薬も、これというのがありません。
ということで、他の治療を多く受ける前に、免疫治療可能
となりやすいわけです。
米国で、免疫系の臨床試験というと、
悪性黒色腫、前立腺がん、腎がん
この三つが御三家です。
いずれも、殺細胞剤が最初から奏効しにくい
という傾向があります。
その中でも、前立腺がんは、手術、放射線とも可能で
ホルモン療法が長期間、奏効し続ける傾向が強く
他の治療を加えた場合の「延命効果」のデータが
とりにくくなっています。既存治療だけで、数年以上
延命するので、新規治療の延命効果証明は、それだけ
長長期間、試験を続ける必要がある、ということです。
腎がんも、悪性黒色腫より局所療法の選択肢が多くなります。
やっぱり、悪性黒色腫は、新しい治療技術にとって
単独で試験しやすく、ファーストチョイスにもなりやすい
ということです。
なお、悪性黒色腫は、遺伝子変異が圧倒的に多くみつかり
それだけ、免疫細胞にとって、抗原性が高いとする意見もあります。
実際に、そうなのかもしれませんが、おそらく、そこまで言うのは
早計でしょう。
確かに、「がん細胞内でみつかる遺伝子変異の報告」は
悪性黒色腫が圧倒的に多いのです。
ですが、その理由は、
シンプルに
「悪性黒色腫の遺伝子変異を調べる人が多いから」
なのかもしれません。
また、この手の報告は注意する必要があります。
ある標本がん細胞を分析し、ある遺伝子変異をみつけた!
といって論文がだされるのですが、そもそも、正常細胞にも
「遺伝子変異」とみなされる可能性のあるものが
ウジャウジャとみつかります。
ヒューマンゲノムプロジェクトにより、人類の全遺伝子を
解析するのである、ヒトゲノムの全塩基配列を解明するのである、と
鳴り物入りで行われた巨大プロジェクトにおいても
この問題はシリアスに議論されました。
「誰のサンプルを使うのか」
です。
人類代表の遺伝子をもつ人がどこかにいて
どの人がそうか、ということはわかりません。
多分、代表はいないのでしょう。
いろんな人がいる、そういうことなのでしょう。
ところが、当初、一人分の解析に世界中の研究者を
動員すべし、など大騒ぎしていたので、そうそう
何人ものゲノムを調べることもできず、まず最初の
一人を誰にするかは、重大な問題でした。
逆に言うと、どうせ大人数をやってみるまでは
何が適正なのか、わからないので、考える暇があったら
とりあえず、誰でもいいから、やってみる、
それしかないのです。
現実には、正常細胞と考えられている細胞でも
多くの遺伝子変異がみつかります。
もちろん、何が正常で、従い、何が変異なのか、
という問題はどこまでも残り続けます。
遺伝子そのもの変異
遺伝子周辺のDNA配列の変異
遺伝子の塩基配列は同じでも、DNAにメチル基が結合している
(メチル化の進行度合い、というような言い方をします)
DNAは同じでも、DNAを鋳型に複製されるRNAのコピー頻度の違い
などなど、遺伝子の変異といっても、様々なステージがあります。
細かく分析すると、やればやるほど、アッ! 変異あり と
見えてしまいます。特に意味のない変異も沢山あるようです。
そのため、多くの研究者が、悪性黒色腫という特定のがん種に
注目し、同じような標本細胞に研究が集まると、やけに
悪性黒色腫ばかりが、遺伝子変異を起こしているように
おもえてしまいます。
実は、それは、どんな細胞にも、よくみられる
遺伝子の多少の揺らぎ、に過ぎないものであって
悪性黒色腫特異的変異とは呼べないものかもしれません。