このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。
TOP > ノーベル医学生理学賞
2011.10.6.
今日は、世界を震撼させた「ラマダンの戦い」の火蓋が
切って落とされた日です。その後、水より安かった石油が
最大の国際相場商品に格上げされ、エネルギーや物質の
大量消費が正しい、とされた時代から、省エネ・エコが
正しいとされる時代へと変わります。
ただ、今日は、ノーベル医学生理学賞について。
自然免疫の分野から3名が選ばれました。
ノーベル賞は、本人が存命中で、かつ
評価が概ね固まったと考えられる状況に
なってから付与されるのが原則ですので、
ノーベル賞を受賞した研究そのものは
かなり時間が経っているものです。
今回の受賞者の業績は、細菌特有の物質を
認識するセンサーがあり、このセンサーが
作動することから、自然免疫が活性化され
更に、獲得免疫を励起していくプロセスや、
樹状細胞の命名(樹状細胞は形状的に目立つので
発見されたのは、顕微鏡の実用化と同じ時期)
など、感染症→樹状細胞→獲得免疫という
一連の流れを解明していったというものです。
論文引用数世界一位で、正にこの分野の先駆者でもある
大阪大学の審良教授が受賞しなかったことを惜しむ声も
ありますが、ノーベル賞は、ロビー活動をやらないと
なかなかもらえないものですから、運動不足だった、
ということでしょう。
業績そのものは、今日において、決して目新しい話では
ないのですが、むしろ、ようやく、自然免疫が一般にも
認知され始め、受賞に至ったということでしょう。
ちなみに、細菌特有の物質はいくつもあるのですが
今回、スポットがあたっているのは、実際に、
ワクチンに添加するアジュバンドとして使用されている
物質(正確には、誘導体ですが)です。
アジュバンドによって自然免役を刺激しないと
単なる抗原物質だけを投与してもワクチン効果は
発揮されません。
未だに、獲得免疫は「特異的反応」で、精密、正確にして
標的を狙い撃つのである、一方、自然免役は、「非特異的」で
手当たり次第に、相手かまわず攻撃する、いい加減で
原始的なもの、そういうトーンの表現があふれています。
実際には、自然免役は、非常に精密に標的を認識します。
獲得免疫の場合は、単純な特定物質に対する反応をするのですが
自然免役は、正体がわかっている特定の物質を最初から狙い撃ちに
するか、単純なセンサーで単一物質だけを識別しても、相手の
正体を判定できない場合は、複数のセンサーを組み合わせて
攻撃すべき相手か否か、獲得免疫には真似のできない正確で
複雑な判断をすることができます。
相手が細菌の場合、明確な特異物質、つまり細菌には存在し
人間の細胞には存在しない物質があります。 抗生物質は
こういった特異物質を標的に攻撃するため、細菌はバタバタ
死んでいっても、人間の細胞は生きている、こういう薬を
開発することができます。
ところが、相手が、がん細胞となると、そんな明確な特異物質は
存在しません。 そのため、抗がん剤は、がん細胞だけを
狙い撃つことができません。 分子標的薬であっても同じことです。
がん細胞にも正常細胞にもあたってしまいます。
がん細胞を認識するには、複数の信号物質を認識し、
量的バランスや位置関係を把握する必要があります。
今回、ノーベル賞受賞対象となった研究は、非常に単純で
明確な細菌に特異的な物質によって引き起こされる一連の反応です。
がん細胞を認識する、もっと精緻で複雑な自然免役の機能までは
踏み込んでいません。
今回の受賞により、少なくとも、
自然免役は正確な認識システムをもつこと、
まず、自然免役が異常を察知して、獲得免疫に動員をかけていく、
あくまでも、自然免役が上位にあることが、一般にも広く
認識されていくことには役立つでしょう。
ただし、細菌特有の物質を認識する樹状細胞によって
獲得免疫が励起されていく「感染症防御」に関する
メカニズムの解明が受賞対象なのに、メディアは
「がん治療開発への道」というような表現をしています。
NK細胞の複雑な認識メカニズムによって、がん細胞を
認識する、更に高度な自然免役システムは、研究も大変で
圧倒的に研究者の数は少ないです。
感染症対策とがん治療、どちらが今、急務かは
少なくとも先進国では明確ですが、本気でがん治療を
改革するのであれば、感染症防御システムの主役を
担う樹状細胞やT細胞ばかりに研究予算を振り向けるのではなく
腫瘍免疫の主役を担うNK細胞の研究に予算を回すべきです。