2010.9.23.
名古屋の講演会が近いせいか、
半導体ベンチャーの話なんかどうでもいいから
NK細胞の話を書け、と、内外から批判を受けております。
活性を高めたNK細胞が、どんな、
がん細胞でも強力に傷害する
これは、「科学的事実」です。
また、臨床上も、大量のNK細胞を
がん患者さんに投与すれば、治療効果も
あがる、ということが、米国の大規模な臨床試験で
証明されています。
人間の血液から白血球を分離し、
そこへ高濃度のインターロイキン2を加えて刺激すれば、
(細胞培養の基本的技術さえあれば)誰でも、
「どんながん細胞でも攻撃する」強力なNK細胞を
得ることができます。
ただし、インターロイキン2を加えただけでは、
他の細胞も沢山まじっており、がん患者さんの白血球の
中で、NK細胞は1%とか、ごく僅かしかいません。
つまり、実験レベルで、どんながん細胞でもやっつけられる
NK細胞は簡単に得られても、治療として有効な活性を
もつNK細胞を、十分な数そろえる、これは簡単ではないのです。
米国では、強引なやり方が行われ、効果は示しましたが、
実用的な方法ではありません。
日本では、あまりにも安易な妥協が行われ、
それじゃ、効果なんかでるわけがないという
免疫細胞療法が普及してしまいました。
日本でよくあるNK細胞療法は、ANK療法を除けば、
どこがやってるのも、ほぼ大同小異です。
血液を20ml ほど採ってくるわけですね。
これを、30とか、50とかにして、うちはよそと違う、
と言ってるところもありますが、大勢に影響が出る差ではありません。
がん患者さんの場合、この中に含まれるNK細胞は、
100万個いないでしょう。
血液から分離した白血球の集団を、市販されている培地と混ぜて、
2週間ほど放置する(もちろん、温度などは一定にします)と
できあがりです。 最後にサイトカインを少し加えるとか、
血清を混ぜて、もう1週間、培養期間を延ばすとか、若干の
バリエーションをうたっているところもありますが、やはり大勢に
影響はありません。
こういうやり方でも、T細胞は、1000倍とか、それくらい、増殖します。
リンパ球の総数では、随分増えるわけです。
でも、NK細胞は、よくて数十倍、増える程度、しかも活性が下がるわけですね。
米国政府研究機関NIHは、LAK療法を実施する際、50リットルとか、
それ以上の血液を取り出しては、白血球を分離し、
残りの成分を患者さんに戻す方法と用いました。
これだと、数十億個のNK細胞がいたはずです。
単純に考えても、20ml の血液と、 50L とでは、
2500倍も差があるわけです。
LAK療法といっても、米国方式と日本方式とでは、
スタート時点の細胞数が三桁違うわけです。
ちなみに、ANK療法は、概ね、5L 多くて10L の
血液から白血球を分離しています。
(普段、リンパ球を分離するといってますが、
あんまり気にしないでください。)
しかも、米国方式では、2200万国際単位のインターロイキン2の
バイアルを何本もドカドカ使ったそうです。
液体の総量の差がもあるので、単純比較はできませんが、
日本で行われている簡易版LAK療法(NKナントカ療法)と比べると、
やはり桁違いの量を用いています。
沢山のNK細胞を集めて、一気に刺激し、3日以上は培養しない、
そして一気に数十億個のNK細胞を患者さんの体に戻す、こういうのが
米国LAK療法だったのですが、理屈は通しているのです。
NK細胞は増殖させると活性が下がるので、大量に取り出し、
一気に活性化し、すぐに戻す。 ということです。
こうして、活性の高いNK細胞を、十分な数そろえているのです。
さて、どうして、数が増えると活性が下がるのでしょうか。
一般に、細胞は、細胞分裂して増殖する時と、何か特定の機能を発揮する
時とでは、「モード」が異なります。 増殖モードに入ると、仕事をしなくなります。
仕事をしている時は、細胞分裂しません。 NK細胞に限らず、一般的に
そういう傾向があります。 ですから、単純な刺激だけで、増殖させながら
活性も高める、というのは、そもそも難しいのです。
T細胞は、一つひとつが、単一目標を認識する単純なセンサーをもち、
その代わり、一つひとつのT細胞が、異なる目標を認識するよう、
やたらと多くの種類があります。 認識する目標の種類は、
数百万種類とも、数百億種類ともいわれます。
つまり、それだけ、T細胞の数が沢山いたとしても、一つの目標を
攻撃できるのは、数百万~数百億分の1個に過ぎない、
ということになります。 なので、この目標を攻撃するんだ、
となったら、たまたま、型が合うセンサーをもっているT細胞は
猛烈に増殖するようになっています。
元々、必要な時に、急激に増殖する仕組みになっているので
T細胞を培養して増殖させるのは簡単なのです。
ところが、NK細胞は、一つひとつのNK細胞が、複数のセンサーをもち
どんながん細胞でも見逃さないようにできており、「完成型」として
体内をパトロールしています。 もう増殖フェーズは終わって、
あとは、戦うことが「生きる目的」となっているのです。
これを増やすんですから、簡単ではないのです。
無理に増殖モードにすると、どんどん活性が下がっていきます。
特に、活性の高いNK細胞は、がん細胞を自殺に追い込む爆弾を
大量にもっています。 これは小さな袋に入っているのですが、下手を
して漏れてしまうと、自分がやられてしまいます。 活性の高いNK細胞は
大量の爆弾を抱えているために、僅かな刺激で誘爆を起こします。
それだけ、活性の高いNK細胞は、培養が難しいのです。
ANK療法は、活性化と増殖という矛盾する問題を両方同時に
クリアしたのが、「世界初にして唯一」の特徴ということになります。
日本各地で行われているNK細胞療法は、活性が低い僅かなNK細胞と
NK細胞より遥かに大量のT細胞とが混ざったものを点滴で戻しています。
活性が低いので、免疫刺激能力がなく、滅多に発熱することがありません。
ちなみに、「ナントカNK細胞療法」の場合、「投資効率」が非常に高いのです。
ANK療法では、大量の医薬品を購入し、培地を自分達でつくっているので
とんでもないコストがかかります。
ところが、一般のNK細胞療法は、原価などしれてます。 売値の方は、
元祖ANK療法と極端に違いませんので、当然、儲かるわけです。
一つ、NK細胞療法(ANK以外)のクリニックを開設すると、
半年で投資回収を終え、また次のクリニックを開設できるようです。
NK細胞の増殖は苦手でも、クリニックの増殖は得意ということになります。
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