2008.11.16.  昨日、「認識」という言葉を使いましたが、本来、認識という行為は、ある主体者、人格を想定しているので、NK細胞が認識する、と勝手に決めてしまうのは問題なのですが、科学の世界では、物質同士が特異的な反応をすれば、「認識」という言葉を使ってしまうのです。 ま、面倒なことは考えずに、がん細胞を殺すのだから、当然、殺す前に認識しているはずだ、と想定しているのですね。 では、質問しても答えてくれないNK細胞が、なぜ特定のレセプターを認識している、と看做されるのでしょうか。 これは、がん細胞表面にある、いくつかのレセプターの特定部位を、やはり特定のペプチドで塞ぐと、そのがん細胞を攻撃しなくなる、という実験データから推測されていることなのです。 ちなみにペプチドというのはアミノ酸が、いくつか鎖状につながったもの、数個とか十数個とか、少ない場合をペプチドとよびますが、蛋白質は、一般に、100個とか数百個とか、もっと沢山のアミノ酸がつながっています。アミノ酸にも種類がありますから、どういうアミノ酸を並べるのか、種類と順番を工夫すると、がん細胞表面のレセプター、これも蛋白質を基本に、多くの場合、糖がくっついてるのですが、うまくレセプターの特定部位に、特定のペプチドを結合させることができます。 添加したペプチドにレセプターの一部をふさがれてしまうと、そのがん細胞を、NK細胞が攻撃しなくなる、そういう場合がいくつかある、ということは、そのペプチドが塞いだ部位こそ、NK細胞が認識するサイトなんだ、と看做す訳です。 逆もありますけどね。 特定のレセプターの特定部位を塞いでしまうと正常細胞でも攻撃してしまう、こういうケースもあるわけです。 実際には、活性を高めたNK細胞だと、少々、何をしてもがん細胞であれば殺してしまうので、ほんとうは言われているサイトが、認識対象の本体ではないのかもしれません。 また、論理的には、細胞表面レセプターなど関係なく、別の何かを認識しているのだけども、たまたまペプチドとか、余計なものをくっつけると邪魔されるだけ、という可能性も考えられます。 言い出すと切りがないのですが、今のところ、研究者の間では、がん細胞表面のレセプターを認識しているんだ、という話になっています。 さて、一般に研究者の間で言われてきたことと、ANK療法開発者がみつけた事で違っていることがあります。前者は、弱い特殊なNK細胞を用いたため、NK細胞もがん細胞の状態によっては攻撃しない、と考えてしまったのですが、後者は、ちゃんと十分な母集団を人体から直接採取して、十分に活性を上げれば、どんながん細胞でも殺しますよ、がん幹細胞だって殺しますよ、と言ってるのです。 何故こういう違いが生じるのでしょうか。 学術論文を書く場合、極力、世界中の研究者と同じ条件下で実験した上で、自分の研究はこの部分だけが違うんだ、とやらないと、何がどう影響して結果がでたのか分からなくなってしまいます。ですから、世界中が、同じメーカーの装置を使い、同じ培地成分を使い、同じ温度や炭酸ガス濃度で培養し、、、極力、同じ条件にするのです。 巨大な政府系の研究所でも、ちょっとしたラボでも、置いてある装置や器具は、どこでもそんなに変わりません、というか殆ど同じです。予算の大きいところは置いてある数が多いのと、よそにはない高額な分析装置が置いてあったりしますが、培養そのものは、世界中、どこであっても、殆ど同じような条件でやっているのです。 NK細胞も、Aさんから採った細胞で実験してみました、と論文に書いてしまうと、それはAさんのNK細胞だからたまたま特殊な性質をもっていただけではないのか、と言われてしまいます。 ではどうするか、といいますと、これはNK細胞に限らないのですが、セルラインとか、株とかいいますが、世界中の研究者が、同じ性質のNK細胞、つまり個人差が実験データに反映されないように、よく性質を調べられ、素性がはっきりした細胞をコピーして、みんなにそのコピーを配るのです。 有名なヒーラ細胞は、ヒーラさんという何十年も前に亡くなられた女性から分離されたがん細胞を延々と培養し続け、今も使っているのです。 性質をよく調べることをキャラクタリゼーションといいます、何者なのか、遺伝子から蛋白質から、行動パターンから、ありとあらゆる性質を調べ上げるのですね。これをやっておかないと、いちいち論文一つ書くのに、毎回毎回、自分は今回、どんな性質の細胞を使ったのか、と分析の山を築くことになってしまうのです。 セルラインを使えば、NK細胞の1aの何何と、セルラインの記号や番号を書くだけで、ああ、あの細胞を使ったのね、と研究者なら誰もがわかりますし、ううん、ほんとだろうか、と追試をする場合、同じセルラインの細胞を使って、同じ条件でやり直してみるわけです。 インパクトの強い研究成果だと、世界中で、56ヶ所の研究機関が、合計、3861回の追試験を実施したが、同じ結果が得られた、、、 というような騒動となるわけです。 これバクテリアとかウィルス、あるいはいくらでも増殖する悪性度の高いがん細胞なら、割と容易にセルラインをつくれます。そりゃ、がん細胞は際限なく増えるから困るわけですが、実験に使う場合は、勝手にどんどん増えるので扱いやすいのです。ところが、哺乳類の正常細胞となると面倒です。体外ではなかなか増殖しないのです。 NK細胞は増殖が難しいと、私どものHPにも書いてますし、培養が簡単なT細胞とも書いてありますが、それはあくまで比較の問題であって、正常細胞と名のつくものは、どんなものでも、基本的に難しい、特に、増殖に限界があって、すぐに細胞分裂しなくなりますから、採取されたありのままの状態で世界中にコピーを配ることなどできないのです。 幹細胞の類は何度でも分裂しますが、通常の細胞は、一生の間に60回まで、とか、分裂制限が架せられているのです。寿命があるのですね。 ということで、セルラインをつくるときは、何と無理矢理、がん化させるのです。 こういう言い方をすると、いやあれは、がんと同じではない!と、専門家の人に怒られるかもしれませんが、無制限に増殖するように性質を変えてしまうんですから、がん化させると言ってしまっても大間違いではないでしょう。 そもそも、体外に取り出した細胞は弱いので、フィーダー細胞というのを使います。 例えば、ネズミから採った丈夫な細胞を沢山、まあベッドのように並べておき、その上で、人間様のNK細胞を培養するのです。(うちの培養センターではネズミは飼っておりませんので誤解なきように)。 フィーダーって、餌をやる、という意味です。フィーダー細胞が、実際、何をしているのかよく分からないのですが、細胞が増殖していくのに必要な成長因子とか、あるいは文字通り栄養物とか、体内と少しでも同じ環境をつくりだすものを分泌しているようです。 で、フィーダー細胞には簡単に採れる細胞で、体外でも自律する能力の高いのを選びます。 こうして培養されたNK細胞、先ず、異種つまりネズミという違う種に属する細胞と仲良く暮らしてしまった変り種、ということになります。すわ敵だと、いるはずのないネズミ細胞だ!と、殺しまくったNK細胞はフィーダー細胞を失い、また、戦闘でネエルギーを使い果たし、選別からはずれていきます。生き残ったNK細胞は、ネズミを見ても知らん顔をする飼い猫のように大人しいタイプのものということになります。 次に、エプスタインバールウィルスとかSV40とか、感染した細胞を一発がん化させてしまうという強力な発ガンウィルスに感染させます。 単独の原因で、こうやると絶対にがんになる、というのは中々ないのですが、この二種類のウィルスは非常に強力な発ガンプロモーターであり、培養細胞に感染させると、かなりの確率で、増殖制限をはずしてしまう、つまり何回でも細胞分裂する、という性質に変えてしまいます。 これ、やっぱりがん細胞みたいですよね。 かくして、無制限に増殖可能となったNK細胞。 お互い、周りにいるNK細胞は、いくらでも細胞分裂するがん細胞みたいになったものなのに、殺さない訳ですね。 殺しあうと、やはり無制限に増えず、選別から振り落とされてしまいますから、生き残ったNK細胞は、ネズミを見ても知らないふりをする上に、自分ががん化してしまい、隣のがん化したNK細胞も殺さない、こういう非常に、変り種の弱いタイプになるのです。 しかもクローン培養と略して言いますが、厳密に言うと、モノクローン培養します。 一個の細胞から増殖させたモノクローン、つまりコピーをどんどん増やして、世界中に、「兄弟」ではないですね、本人のクローンなんですから、文字通り「コピー」を配るのです。 モノクローンとなると、がん細胞のタイプによっては、苦手なものが出てくるのは当然です。人間から採ったばかりのNK細胞集団であれば、認識のパターン(レパートリーといいますが)が異なる色んなサブグループ、亜集団の寄り集まりですから、全体で見れば、どんながん細胞でも激しく攻撃する(もちろん、どんながん細胞を相手にしても攻撃力の差がなくなる訳ではありません、得手不得手が平準化されるという意味です)ことができるのですが、モノクローン培養されたNK細胞にとっては、とても苦手なタイプのがん細胞が存在します。  そもそも、永年、培養器の中で暮らし、培養され続け、何度も何度も増殖したNK細胞はただでさえ弱くなります。 病原性のバクテリアやウィルスでさえ、培養を続けると毒性が弱くなります。  こうして、とても自然な状態、ワイルドな状態からはかけ離れたNK細胞を使った論文が、各地の大学などから出され、NK細胞にも苦手ながん細胞がいる、という話になってしまうわけです。