2017.5.17.




わざわざ、免疫細胞を体の外に
採りださなくても、薬を投与するだけで
がんが治るなら、その方が、簡単で
いいはずです。

なぜ、薬物を投与する「免疫治療」ではなく
免疫細胞を体外で培養する「免疫細胞療法」で
なければいけないのでしょうか。


体内は「複雑」過ぎるので、
単純な物質に過ぎない薬剤を
投与しただけでは、免疫細胞を十分に
コントロールすることはできないため
シンプルな環境である体の外で、
免疫細胞を確実に戦力化する
ということに尽きます。


免疫細胞の表面にある
活性化や抑制のシグナルを受ける
「免疫チェックポイント」というのは
何十種類もあるので、そこへ薬剤を何種類か
投与して、自在に免疫細胞をコントロール
ということはできません。



さて、有名な米国国立衛生研究所NIHが
実施したLAK療法の大規模臨床試験ですが
元々、免疫細胞療法の開発というより
インターロイキン2 という免疫刺激物質の
実用化プロジェクトの一環として
実施されたものです。


なので、まずは、インターロイキン2を普通に
投与することから臨床試験を始めています。

ちなみに、インターロイキン2が結合する
インターロイキン2レセプターも
今風の言い方をすれば、
代表的な免疫チェックポイントです。
(弊社創業者の一人が、インターロイキン2
レセプターβサブユニットの発見者です)

 私の研究室の同窓の同級生も、
インターロイキン2の産生遺伝子の
 クローニングに関与しています。
 当時、細胞工学センターにいた大学院生でしたから
 こき使われる立場でしたが。


インターロイキンとか、インターフェロンという
物質は、何グラムとか、何ミリグラムという
単位で量るものではありません。
重さにすれば、マイクログラムどころか
ナノグラムやピコグラムでも作用するものです。

なので、こういう作用をするものがあるらしい、、、
ということが分かってからでも、精製したり
構造を決めたり、大量に合成する、ということは
なかなか、できなかったのです。

米国NIHがLAK療法の大規模臨床試験により
免疫細胞療法の有効性を証明した1984年は
バイオテクノロジーの夜明けと
言われますが、遺伝子工学を用い、大腸菌に
ヒトインターロイキン2遺伝子を組み込み
「大量」に「生産」できるようになったため
医療への実用化の動きが一気に加速したのです。

で、まず、ネズミのがんを治すことから
やってみました。

うまくいきました。

インターロイキン2を少し注射すれば
がんネズミは一発で元気になります。


ネズミといっても、ヌードマウスであり
T細胞は、ほとんど成熟していません。
ヒトのがん細胞は、ネズミにとって異物ですから
異物を排除するT細胞が、ヒトの細胞だから、と
やっつけてしまうので、ネズミで実験をする場合
まず、T細胞が機能しないヌードマウスをつくり
そこへヒトがん細胞を植えつけます。
腹腔中など、生着しやすい場所を選んで
植えるのですが、今ひとつ、生着しにくかったり
したとしても、あまり転移はしません。

がん細胞が生きていけるかどうか、ぎりぎりの状態の
ところへ、インターロイキン2を注射すると
たちどころに、NK細胞が活性化され
がん細胞を排除します。

人間の体内に、本人のがん細胞が紛れている場合は
こうは簡単にはいきません。
異物ではない本人のがん細胞に、
本人のT細胞はあまり反応しません。

あくまで、ネズミの体内のヒトがん細胞をやっつけた
というけだったのですが、これで、夢のがん治療薬が
実現できる、と、希望の星として、インターロイキン2
プロジェクトは、スタートしたのです。

結果は、散々でした。


次々に患者さんが、亡くなられてしまいます。

少々、投与しても何の効果もなく、体内に存在する量とは
桁違いの大量投与を行うと、腫瘍が壊死を起こすほど
強力に効くのですが、今度は、副作用がひどくなります。

ネズミにインターロイキン2をどれほど大量に投与しても
平気な顔をしています。 

ま、ネズミ喋らないので、ほんとの
ところはわかりませんが。

人間の場合、大量投与は、肺水腫を招きます。
肺の粘膜の水の透過性が高くなるからです。
ネズミの場合、そのような顕著な傾向は
みられません。

ネズミで大丈夫でも人間には有害
ネズミのがんはやっつけても、人間のがんは難しい

よくあるパターンにはまってしまいました。


こうして、夢の新薬は、またも幻に終わりかけたのですが
一応、投与量の微妙な調整の上、新薬として生き残ります。


実際には、腫瘍に集まる免疫細胞が、密集の中で
インターロイキン2や、ほかの免疫刺激物質を
カクテルにして放出し、これを受けた他の免疫細胞もまた
カクテルを放出し、非常に複雑な免疫刺激物質群の
カクテルのやり取りが行われ、全体として免疫活性が
上昇していくのですが、薬の場合、目をつぶって
筋肉などへいきなり超大量投与をし、これが薄まりながら
全身を巡るので、それも、カクテルではなく、単剤のまま
異常な大量で巡るので、効果が薄い割には、副作用が
強烈にでてしまいます。


そこで、「インターロイキン2の使い方のバリエーション」
として、LAK療法の臨床試験が行なわれました。

NK細胞を体外に採りだして、副作用のことを気にせず
膨大な量のインターロイキン2を浴びせれば、
がんと闘うレベルにNK細胞を活性化できる、
そう考えたわけです。

実際に、数百人のがん患者さん、全員に何らかの
効果は見られたのですが、まだまだ課題は
残りました。


「体の外」でやれば
インターロイキン2のぶっかけ盛りで
副作用の心配なく、NK細胞を活性化できる。

ここまではいいのですが、いくら体外は
体内より単純な環境だからといって
ただ、強烈にインターロイキン2ぶっかけ盛りを
やると、今度は、NK細胞が、増殖を始めた際に
自爆を起こしてしまいます。

そこで、増殖が始まる前に、ということで
培養期間を3日以内に制限して、えいやっ!
と、数十億個単位のNK細胞を短期間の間に
患者さんの体内に戻しました。

今度は、強烈すぎる戦力を一発投与したため
巨大な腫瘍が一気に壊死を起こし、
カリウムショックや、腎機能障害など
様々な問題が生じ、ICUを占拠して
治療が行われました。
こうなると、実用的な価格での
提供は無理です。


実用化は見送られてしまいました。



人間様の体内に、目をつぶって
薬を放り込むやり方では、複雑な免疫制御システムを
がん治療として都合よくコントロールすることはできず
夢の新薬と騒がれてきた歴代の薬の数々、
今なら、免疫チェックポイント阻害薬がそうですが
諸先輩の夢の新薬同様、ある程度の効果は示せたものの
腫瘍免疫の本格発動には至らず、いくばくかの延命を
もたらすことがある、その代償には、激甚な副作用を
伴う、というものになってしまいます。

NIHが実施したLAK療法では、少なくとも
体外培養なら、いけるぞ、というところまでは
示しましたが、まだまだ、単純な環境の体外であっても
免疫細胞の培養を微妙にコントロールするところまでは
至らなかったため、乱暴なやり方に終わってしまい
ました。

それでもやはり、体外は体内よりはるかに単純な
環境であり、しかも、NK細胞を顕微鏡で観ることが
できますから、薬の開発よりも、
はるかに現実味があるのです。
実際に、NK細胞の培養を自在にコントロールできる
技術が開発され、ANK自己リンパ球免疫療法と
名付けられました。